妓女ネタ4

2010/12/03 23:05



『たまには奥様方の所へ通われたら如何ですか?』


三日と開けずに己の下へ来る雄掠に、皮肉交じりに玉蘭は言った。

すると、彼は苦々しい様な顔で視線を外した。
どうやら地雷だったらしい。

いつも丸め込まれる玉蘭にとって、これはいいと思い立った。

偶にはこちらが上にと思っていたが、前回も結局は雄掠の掌の上で転がされた。
一泡吹かせようと、琵琶をかき鳴らしつつ男に妻の事を尋ね始めた。



『奥方は確か、三人いらっしゃる様で……どの様な方々なのですか?』


コテンと首を傾げると、男は驚いた様に眼を見張る。
玉蘭が普通の女の様な所作をする事はあまりない。

というよりも、普通の女の様に庇護欲をそそる仕草は絶対と言っていい程しないのだ。
珍しさにか、それとも引っ掛かったのかはわからないが、ついつい口を滑らせて、妻の事を語ってしまった。





『姉さん女房……というやつでございますな
女人というのは芯が強うございますので、あなた様も大変でしょう』


からかい交じりに言えば、全くだ、と雄掠は溜め息を溢した。

なるほど、と思った。
彼が自分の下へ通うのは、妻が鬱陶しいく、出来るなら顔を合わせたくないから。
つまりは、避難場所――なのだ。

しかも、侍る妓女――玉蘭は、己の掌に転がる女。
またとない相手である。

男というのは、変なところ矜持が高い生き物だから、こういう女がいないと拗ねてしまう。


(この男にも、存外可愛い所もあったものだな…)


ふ、と笑みが自然と零れ落ちる。
それが気にいらなかったのか、雄掠はムッと表情を顰めた。


「何が可笑しい?」


ジロリと視線を細めても、玉蘭は一向に笑みを携えたまま。

この女のこういう所は好きだが、時折気に触ってしょうがない。
まあ、それでも三日と通う辺りが、惚れた弱みというやつなのだろう。

彼女を引き寄せようと手を伸ばせば、さらりとかわされ、営業用といわんばかりの綺麗な笑みを浮かべた。


『今日はもうお帰り下さいましな』

「……は?」


突然の言葉に、何を言われたのか理解出来なかった。
ポカンと呆けた顔をした雄掠に、玉蘭は苦笑を浮かべながら猶も続けた。


『今日より五日、お相手が出来ませぬので…』


ああ、と納得した。
“女の日”というやつなのだ理解すると、彼は身支度を始めた。

月水が始まると、彼女は誰であろうと客は取らない。
普通の妓女は、たとえ月水が始まると夜の相手はしなくとも、晩酌や歌舞曲等を披露する。

けれど、彼女はそういった事はしない。
歌舞曲はあくまでも夜の相手があってこそ、という持論なのだろう。

勝手に解釈すると、彼は名残惜しげに彼女に口付けると、嘉瑛楼を後にした。
最後に、彼女の住まう一番高い楼郭を見上げて、想いを浮かべる。


また次に来る時まで彼女がいますように――。

己の仙女が天に還ってしまわない様にと願うばかり。



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