妓女ネタ7

2011/03/19 22:13



「――それは真実(まこと)ですか、瑠花姫…」


擦れた声で呟く雄掠(ゆうりゃく)に、瑠花は水鏡越しにコクリとしっかり頷いた。
その返事に、彼はギュッと瞳を強く閉じて感慨に耽った。

喜色を露にこそしないが、それでも彼の喜びを瑠花は手に取るように理解できた。


「かたじけない、瑠花姫」


真っ直ぐなまなざしを向けて謝辞を述べる彼に、瑠花はその想いの深さを知った。
矜持の高い彼がこんな風に礼を告げるとは思わなかったから。


「かの女をどうするつもりじゃ?
身分のないあの女を後宮に納める事は些か難しいのは分かっておろう」


そう投げかければ、彼は眉間に皺を寄せた。
彼の目下の悩みの理由だった。

皇后が不在で、とある理由から生まれた男子も自らの子として王宮に迎える事もしない。
それ以外の子のいない王としては、己の子を生んだ女を後宮に迎え入れたいのは至極当然で、それが愛する女ならば尚の事。

だが、身分のない彼女を後宮に迎え入れた所で、他の妃やその親族に蔑ろにされて肩身狭く過ごすのは目に見えていた。

何より、彼女が己の子を宿していながら姿を消した子を考えれば、答えが“そう”であることなど想像に容易い。


どうすればよいものか、と思っていた彼に、瑠花の言葉はかなり的を得ていた。


「どうすれば、よいのでしょうか…」


心情を吐露する様に雄掠は囁く。
縋る様な面持ちに、さしもの瑠花も手を差し伸べてしまいそうになる。

だが、あの女の星は王の隣にはない。
それどころか、あの女は王にとって(まが)つ星になりかねない。

どうしたものか、と瑠花も頭を悩ませていたのだ。

どうしても傍に起きたのならば後宮には迎えず外に囲う。
それが嫌なら諦めろ。

そう告げる他なかった。


「――ーそうですか…」


数拍の後、ため息を這い出す様な憐憫を帯びた言葉が紡がれた。
諦めともとれないその言葉に、瑠花は一抹の不安を抱かずにいられなかった。


“雄掠め、下手に強行せねばよいが”


何も写さなくなった水鏡に瑠花の言葉が染み渡り、波紋を広げる。


異界の星は王を狂わせるか、否か――。



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