紅姫ネタ5

2011/03/01 22:48



「また来てくれたのね、玉麗」


母に似た双子の片割れと再会して早一月、二度目の謁見に訪れた玉麗を秀麗は快く迎えいいれた。

香鈴も珠翠もいない、ただ二人きりの室。
互いに己の事は己でするという性分な為、別段困る事は何もなかった。

むしろ、これから玉麗が告げようとする事を考えれば、部外者の同席は遠慮してもらいたい。
ホッと安堵の息を吐き出した彼女は、差し出された茶器を白魚の如き手でそっと置いた。


『単刀直入に聞きます

王と褥を共にしたというのは本当ですか?』


瞬間、ボッと秀麗の顔に赤みが差した。
どもりながらも否定の言葉を告げる片割れに、玉麗は呆れた様に溜め息を付く。


『身体の事を言っているのではなく、一夜を共にしたという意味で聞いているのだけど…』


明確な問いに、オズオズと秀麗は「是」と答えれば、玉麗の大げさとも取れる大きな溜め息に、秀麗は申し訳なさそうに身体を縮ませた。


『いくら仮の妃といえども、王と褥を共にした貴妃が後宮を去ると言う事がどういう事か判っているの?』


え?と秀麗は意味が分からないとばかりに呆けている。
その様子に、玉麗の眦がキッと上がった。

そんな事も分からないのかと言いたげな態度に、その美貌も相俟って、秀麗はビクリと身体を震わせた。


『霄太師が態々指名した紅家の姫――これまで王家と散々距離を取っていた紅家の直系の姫の入内は、あなたが考えている以上に百官に与える影響は大きいの

何より、あなたの言葉を聞いた王が政をするという事は、あなたに対してある程度の特別な感情をもつと言う事でしょう?
なんとも思ってない人間の言葉を聞くほど、人間は出来た生き物ではないもの

そんな王の傍を、王にしたら用なし、さようならなんて、傾国の悪女でもあるまい
少しは考えてから仕事を請け負ってね

まあ、今回の事は止めなかった父上に責任があるわ
後宮がどういう所か、嫌というほど知っているのに…ッ!』


苦虫を潰した様に吐き捨てる玉麗に、秀麗は驚いた。
確かに父は紅家の長子だが、権謀術数とは縁のない人物だ。

それを何故―ー?と首を傾げていれば、またも玉麗は溜め息を吐いた。
今日何度目かは、本人も数える気にはなれない。


『父上が御生まれになったのは今から四十年前
大業年間に終止符をうとうと、玉座から最も遠いとされた戰華公子が起ちました

王家が荒れれば国が荒れる
国が荒れれば当然、七家ないでも何かが起こるわ

七家のうちの筆頭名門である紅家でも、内部はかなり酷い混乱に満ちていたわ』


(玉環様が帰還されてからは、特に……)


義叔母の百合の母・紅玉環を思い浮かべて、玉麗は嫌悪に満ちた表情を浮かべる。

百合叔母上に対する感情はそうでもないが、彼女の存在で紅家が危うくなる筈だった。
危ない橋を渡ろうとした紅玉環を、玉麗はあまり好きではなかったから。


『その紅家で、無能といわれる父が生まれたとなれば、邪魔意外にしかならない
優秀な次男――当代の宗主様がいればさらに拍車が掛かるわ

けれど、父上は生きておられる
それどころか、どこの誰とも素性の知れぬ母上を娶り、忌み子とされる双子のわたくしたちが生まれて、わたくしたちも生きている

いくら藍家の当主様方という前例があっても、消されないという確証はなかった筈だわ


無能な父上であれば、こうはならない

そう、あの時代に生まれて生き残っている父上が無能なはずがないのよ』


キッと強い眼差しで秀麗を見つめた。
ずっと一緒にいたのに、そんなことにも気が付かなかったの、と言いたげに。


『お勉強もいいけれど、少しは家の事も考えて頂戴
わたくしは、あなたの片割れだけれど、あなたの尻拭い役ではないわ』


今日はそれだけを伝えに来たの、と玉麗は何事もなかったかのように席を立った。
残された秀麗はキュッと唇を噛み締めながら俯いている。

それを一瞥すると、玉麗は静々と優雅な所作で後宮を後にした。



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