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紅姫ネタ2
2011/01/11 22:52
黎深から知らせに、そのまま早々と帰宅すれば、そこには美味しい茶菓子を用意していた妻の姿があった。
「薔!!」
死んだはずの妻が、愛しい妻が微笑む姿に、邵可は驚きのあまりそう叫けんでいた。
そして、フフフと優雅な所作で袂で口元を隠しながら笑った後、目の前の妻がゆっくりと跪拝した。
『お久しぶりにござりまする、父上』
父上――そう呼ばれて我に返った邵可は、恐る恐る口を開いた。
「玉、麗…?」
オズオズと尋ねれば、目の前の妻に生き写しの女人が、はい、と微笑んだ。
幼い頃から似ているとは思っていたが、年頃になってさらに妻に似てきた娘を、妻と間違えた事に、邵可は恥かしそうに笑った。
コポコポと心地よい音を立てながら注がれた茶を、邵可は嬉しそうに受け取った。
秀麗の煎れてくれるお茶は毎日飲んできたが、もう一人の娘の茶は初めて飲む。
嬉しくて嬉しくて、ついつい作法も崩れてしまう辺りが親バカな彼らしかった。
『秀麗は賃仕事に?』
コテンと首を傾げて尋ねる姿に、邵可はやっとこの娘の歳相応な姿を見た。
そうだよ、と告げれば玉麗はふ〜んと返すだけ。
そして次の瞬間、娘のまとう空気が一変した。
『入内すると耳に致しました
本気ですか?』
咎める様な支線に、罪悪感が満ちてきた。
王の為、秀麗の為と思って引き受けた事だが、この娘の事を思えば受けてよい話ではなかった。
この子も、王と同じ様に“独り”だったのだから――。
他人の子――劉輝――にばかり構っていて、実の娘の事は放ったらかし。
娘が怒るのも無理はなかった。
何より、後宮がどんな所かを秀麗は知らない。
止めるべきなのに、止めなかった。
『わたくしは手出しはしませぬ
ただ、一度くらいは様子見に後宮へ向かいます
その時は取次ぎをお願い致しますね、父上?』
その時の表情が誰にも似ていなかった。
そう、誰にも――。
一瞬、誰の娘だ?と思ってしまったのは、きっと気のせいだろうと邵可は己に言い聞かせた。
そして、娘の申し出にもコクリと気付けば頷いていた。
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