妓女ネタ6

2010/12/22 00:11



「お母様ッ、どうしてなの!?」


“――お前は縹家に行きなさい”


母の言葉に娘――春寧――は泣きながら母に問う。

なぜ?
どうして?

言葉に出来ないほどの疑問が、昇華しきれぬまま縹家の使者達によって春寧は連れて行かれた。


「離してッ!お母様!お母様あぁぁぁ!!!」





まだ十にもならぬ娘。
これからどう育つのか、そればかりが楽しみで仕方ないというのに、とうとう見つかってしまった。


この国での身分も地位も持たぬ蓮に、ソレに抗う術はなかった。
たとえ公主であろうとも、いや公主だからこそ許されない。

高い地位にあるには、それ相応の対価が必要なのだ。


王やいずれは政事に関わる公子たちは孤独と戦い、そして女である公主たちにもそれと同じ様に、縹家に行き巫女になるか他家に嫁ぐかという“役目”があった。

元の世界でとはいえ、それなりの地位を手にし人々の為と生きてきた蓮には、それは当然の事だった。

だから手放せた。
たとえ張裂けんばかりに胸を痛めようとも。


巫女として誇りを持って生きて欲しい、とそれだけを伝えて――。









「来たか…」


高御座に座す瑠花は、つれてこられた娘をとっくりと見下ろした。
当代の王となった紫雄掠の娘。

紫家最後の嫡流の公子の即位に、瑠花は心から喜んだ。
これで貴陽の守りが強化できる。


これから減少の岐路をたどる異能や高位の巫女。
彼が血を残してくれる事だけが、瑠花の望みだった。

清廉潔白な彼であれば、下手に政を混乱させる事などないだろう。
ただ時代とともに緩やかに臣下を良き方向へと導いてくれる、そう信じて疑わなかった頃、ある反応を見つけた。



「これはッ!!」


ある日突然身体に襲った感覚に、瑠花は瞬時に千里眼を開いた。
国中をくまなく探せば感覚の正体を見つかり、同時に驚きに目を見開く。


「この様な幼子がッ!?」


六つか七つ、己が大巫女として君臨する事を決意した年の頃の少女が、風を自在に操り森を突き進んでいた。
余りに強い神力に、瑠花は脅威とも取れる感覚を抱く。

直ぐに少女を縹家で保護しようと決めた。
けれど度々邪魔が入り、直ぐには叶わなかった。


そしてやっとの思いで見つけた少女を迎えに行けば、母が前に陣取っていた。
千里眼越しに見る女は妓女であったとらしく、ソレに相応しい美貌と色香を漂わせていた。

そして、雄掠を虜にしたと思われる魅力の正体を悟った。


(…薔薇姫)


唯の一度だけ見た、縹家に未だ囚われる雷神・紅仙と似た強い眼差し。
仙と見紛う美貌とその瞳に、瑠花は自然と彼女の言葉を聞きいれていた。


“少しだけでいい、娘と話をさせて欲しい”


逃げ出そうともせず、ただ一言、“縹家の巫女として誇り高く生きて欲しい、母の願いはそれだけです”と告げて――。


泣き叫ぶ娘に、女は猶も続けた。


“泣いてはなりません
今日からお前はわたしの子ではありません

そなたは、縹家の巫女となるのです
泣いてはなりません”


瞬間、瑠花はブルリと身体を振るわせた。

卑しい身分の娘でありながら、何処の誰とも素性の知れぬ娘でありながら、か弱き者でありながら、女には気高さがあった。
その気高さは、どこか己と通ずる所があった。

同時に、女が縹家が何故娘を迎えに来たのかを知っていたのだと悟る。
そして聡い女だと思った。

そして、その聡さが彼女の心を苦しめた、と――。


この気高さをこのまま埋もれさせるのは勿体無い、と瑠花は思った。


そして未だ泣き叫ぶ娘を横目に、瑠花の脳裏にある事が過ぎり、ニヤリと笑みを浮かべた。


(そういえば、あの男が探しておったな…)


フフフと哂いながら、瑠花はよい事を思い付いたと高御座を去った。
彼女の行動が吉と出るか、凶と出るか――。



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