(name change!)



月日は流れ梅雨も終わり、夏の葉明スペシャル修行コースを難な…いや何とかこなし、絢芽もシャーマンとしての実力を着々と着けていた。
「あーほんと、あのじーさんあたしを殺す気か〜。」
修行を終えやっと自由になった絢芽はいつものように屋根瓦に寝そべり夜空を仰ぐ。
この夏の修行で何度三途の川を見そうになったことか…。
絢芽はそんなことを言いつつもにっこりと微笑んだ。
≪嫌いじゃないくせに、修行。≫
「修行はキライ。ただ、頑張った後の月は一段とキレイ。」
≪アンタは月のことしか考えてないの?≫
セレネーはそう言ってため息を着いたが、ほほ笑む絢芽の横顔を見てつられるように目を細めた。
≪いよいよね。≫
「うん。」
葉たちも見てるのかな。この空を…。




―ふんばりが丘 民宿炎―


そのころ盗賊トカゲロウ事件を解決し、喪助と阿弥陀丸との再会を実現した葉たちは一息つく間もなく、絢芽と同じ夜空を見上げていた。
「ついにきたわね。」
葉の許婚イタコのアンナは、落ち着いた雰囲気でソレを見据える。
「すげえな…。じいちゃんに聞いてたのよりずっとデカくて、ずっと眩しい。」
葉はあまりの輝きに息を飲む。恐怖と、感動と、そしてこれから始まるシャーマンファイトへの不安と期待。
いろんな感情が浮かんでは消えていく。


「あれがオイラ達が待ち続けた伝説の星…羅ごう」


葉はそう言って眩しそうに目を細めた。
「絢芽も出るんかな、シャーマンファイト。」
「出るでしょうね。」
彼女は本当の強さを持っている。アンナはそう心の中で呟いた。


二つの星は世界を巡り、すべてのシャーマンに“その時”を告げる。
―大いなる「再生」のために…。


「セレネー。」
≪何?≫
「あたしに、着いてきてくれる?」
絢芽は真っ直ぐと夜空を見たまま呟く。
セレネーは一瞬驚いたように目を見開くと、すぐに目を細めて笑った。
≪当たり前じゃない。≫
あなたのその強い意思と、瞳に灯る強い魂の響きに魅了された時から
私は、何があってもあなたに着いていくって決めたもの。
≪覚悟はとっくに出来てるわ。≫
「ありがとう。」
その星はまるで2人を照らすように、優しく、美しく、そして恐ろしく輝いた。
その星に世界中のシャーマンが息を飲み、祈りを捧げた。
「そろそろ寝よっか。」
≪そうね。≫
2人は目を見合わせると、広く無限に広がる夜空を仰いだ。
これから始まる闘いに思いを馳せて…。




―再びふんばりが丘 民宿炎―

それから、また数日の時が過ぎた。
「えーそれではこの度の葉の旦那の初勝利を祝いまして…」
今日の炎はいつもに増して賑やかで、広いはずの部屋が多くの来客によって少し狭く感じるくらいだ。
「「「カンパーイ!!」」」
そう言っていかにもガラの悪そうな、変な髪型の男がコーラの入ったジョッキを持ち大きく振りかざした。
それにつられるように周りの輩も騒ぎながらジョッキを振り上げる。
テーブルには豪華な料理が並び、部屋はカラフルに飾り付けられている。
どうやらそれは葉のシャーマンキング予選初勝利を祝した記念パーティーのようだ。

「いやー悪いなみんな、オイラのために。」
このパーティーの主役である葉は相変わらずのゆるさで照れくさそうに頭をかき、
「カンパーイ」
先ほどまで葉と闘っていた少年、ホロホロもなぜか葉の隣に腰を掛けている。
「ってなんでいるんだホロホロー!!」
そしてすかさず突っ込むまん太と、平然とテレビを見るアンナ。

そんな賑やかな炎に現れる来客者の存在を知るものはいない。
最初にコンコン、と玄関の扉が叩かれたのに気付いたのはアンナだった。
「まん太、お客さん。」
「へ?」
「出てきて。」
「えっ?ぼくが?」
「文句でもあるわけ?」



「ほんと、人使いが荒いよアンナさん…」
何て、本人の前で言える訳ないよね。
宴会場を後にしたまん太は大きくため息をついた。
そんなこと口にした暁には…そう考えると背筋がサーッと凍りつく。
まん太は仕方ないと思いながらも、拒否権のないこの状況に肩を落とした。
アンナが言うように廊下を進んだ先、すりガラス張りの扉の向こうには人影が映る。
こんな時間にお客さんなんて、いったい誰だろう。
普段ここによく訪れる人物はすでに集まっているし
新聞配達や宅配便が来る時間でもない。
「どちら様ですか。」
まん太は疑問に感じながらも、扉に手を添えゆっくりと開けた。



『ギャ――!!!』



「どうしたまん太!!」
≪まんた殿、どうされた!≫
「なんだなんだ?」
突如家中に響いたまん太の叫び声に木刀の竜、阿弥陀丸、ホロホロを始め
アンナと葉以外の面々が玄関に勢ぞろいし、軽々と摘み上げられたまん太に視線を送った。
月が雲に隠れ深い暗闇に包まれているせいで、その人物顔ははっきりと見えない。
ただ、摘み上げられ助けを求めるようにこちらを見るまん太。
≪お主、何者!≫
ただの来客ではなさそうだ。
そう判断した阿弥陀丸とホロホロは身構えた。
その場の空気が一瞬にして凍りつく。
まん太を人質にとられているため、うかつに手を出すことも出来ない。
どうすればいいんだ。その場に居たものが息を飲んだ、その時だった…。
「おぅ、絢芽。」
後ろから聞こえた葉の声に一同がハッと振り返り、またその訪問者に目を向けると
「葉!アンナ!久しぶり!」
そう言って笑った彼女の顔が月明かりに照らされた。



突然の来客者を迎え、再び宴会会場に戻った一行。
≪かたじけない、絢芽殿≫
申し訳なさそうに頭を掻く阿弥陀丸の隣で
「突然摘まみ上げなくても…。」
不服そうにブツブツと文句を言うまん太。
「ごめんごめん。」
絢芽は両手を合わせ苦笑いした。
まん太をここに住む低級霊と勘違いして除霊しようと思った、なんて口が裂けても言えない。

そんな絢芽の隣に葉がオレンジジュースを片手に腰を下ろした。
「来るなら連絡してくれればよかったのに。」
葉は眉間に皺を寄せ困ったような顔をするが
「いやー、ビックリさせたくてさ。」
といつも通りに緩く笑う絢芽をみると、まあいいかと言う気持ちになるであった。
「うぇっへっへっ、絢芽らしいな。」
「アンナも元気だった?」
「当たり前よ。」
3人の間ではそんな親しげな会話が飛び交うが絢芽と初対面の面々は、いったい何が何やら分からず、その様子を唖然と見つめていた。
いったいこの少女は誰なのだろうか。
巫女服に数々の装飾品を身に纏っているが、それ以外は普通の少女のようだ。
「んで、誰なんだこいつ。」
ホロホロがしびれを切らしようにそういうと、絢芽はハッとした。
「あぁ、こいつは「夜神 絢芽です。で、こっちが持ち霊のセレネー。麻倉の家にずっと居候してたから、葉とは姉弟みたいな感じなんよ。」
以後お見知りおきを。
絢芽が姿勢を正し深々と頭を下げると
「まあ、そういう訳だ。」と葉も座り直した。


絢芽の自己紹介をきっかけに、ホロホロや竜たちも改まったように自己紹介を始める。
いきなりかまえられて少し驚いたが、どうやらみんないい人のようだ。
絢芽は安心してホッと胸をなでおろした。


自己紹介が終わると、葉とみんなの出会いや葉の1回戦の話、絢芽の話など再び賑やかな宴会が始まった。
そして徐々に一同も絢芽と打ち解けていった。
「メラかわいい〜!!お嬢、俺と付きあっ…」
「竜さん!!」
アンナのビンタによって後ろにひっくり返ったハートリートの竜を見て、絢芽は苦笑いしながらオレンジジュースで喉の渇きを潤した。
「しばらくこっちにいるんか?」
葉の言葉に絢芽は小さくうなずく。
「シャーマンファイトが終わるまではこっちにいる予定。」
試合の時だけわざわざ来るってのもめんどくさいし、葉の試合も見ておきたい。
普段葉と一緒の修行をすることは滅多になかったし、手合せしたこともそれほどない。
最後に手合せしたのは7年くらい前になるだろうか。
だから、どれだけ葉が強くなったか見てみたいんだ。
「やっぱり絢芽も出るんか。」
絢芽が頷くと葉は
「まいったな。」
と言って苦笑いをした。今日まさに1回戦を終えたばかりの葉だ。
シャーマンファイトで勝ち上がればいつかは絢芽とも闘わなければならない。
そう思うと少し複雑な気持ちになった。


「いいじゃない。いい修行相手が来てくれて。」
アンナは頬杖をつき、しょうゆ味のせんべいを頬張りながら、ここに住んだらいいわ。と付け足すように言ってほくそ笑んだ。葉の修行メニューを考えながら…。
アンナの不的な笑みに全てを察した葉は一人涙を流した。



「みんないい人だったね。」
絢芽は与えられた部屋で布団に包まると、窓から見える月を見ながら今日あったことを思い出す。
≪そうね。≫
入院したと聞いた時から心配していたけど葉も、アンナも元気そうだったし。
何より2人には新しい土地で大切な仲間がたくさんできていた。
心無い人間から、鬼の子と忌み嫌われ、いつもさびしそうに縁側に居た葉。それをずっと見てきた絢芽は、仲間に囲まれ楽しそうに笑う姿が何よりうれしかった。
きっと、月が全てを導いてくれるんだよね。
絢芽はそんな事を考えながらゆっくりと目を閉じた…。




bookmarkorclap?

- 5 -


[*前] | [次#]
ページ:




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -