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今夜も月が見えそうにない。
最近月を見てないせいで絢芽はやけに不機嫌だった。
「もうすぐ満月だっていうのにさ。」
梅雨なんてキライだ。
絢芽はそう叫びたい衝動に駆られながらも、降り続く雨から視線を逸らすように畳の床に寝そべった。
ここ最近降り続く雨の影響もあり、じめじめとした空気が室内にも充満している。
「あーあ、せっかくの休みなのにさ〜、葉は東京行っちゃったし、
たまおは朝から出かけてるし、暇ったらありゃしない。」

葉は元気に過ごしているだろうか。
500年に1度のシャーマンファイトに出場すべく、先日上京した幼馴染のことを思い出す。
いや、幼馴染というよりは兄弟だな。
絢芽は自分で自分の言葉に納得したらしく、何度もうなずいた。

それもそのはず。絢芽が麻倉の家に修行のためにやってきて早13年。
人生のほとんどを麻倉の家で過ごしているのだ。
それ故この家を他人の家だと思ったことなど1度もないし、同じくらいの年齢の葉やたまおは兄弟のような存在なのである。
葉とはよく一緒にぼーっと青空を眺めたり、月を眺めたり、自然と一体になったな…。
よいしょっと勢いをつけて起き上がり、再び降りやまぬ雨を見つめる。
「東京も雨かな。」
どこまでも続く雨雲は、遠くなればなるほど黒く淀んだ色をしている。
そんなとき、絢芽の感覚が何かを捉えた。
噂をすれば何とやらってやつか。



「おーい!葉明のじいちゃん!」
パタパタと広い屋敷の廊下に響く足音と叫び声。
「よーめいのじーさーん!!!」
その音はある障子貼りの部屋の前でピタリと止まった。
「おいッ!じじーッ!!」
「うるさい!聞こえとるわ!!」
絢芽が勢いよく扉を開けた瞬間、待ってましたと言わんばかりに葉明の式神が絢芽目掛けて放たれた。
絢芽はそれをひらりと交わすと
「遊んでる場合じゃないんだよ。」
と葉明の式神を摘み葉明に投げ返した。
「葉のことか。」
「うん。入院だってさ。命に別状はないみたいだけど。」
絢芽は葉明の前に正座をすると、自分の式神を2匹出した。
「木乃ばぁにも伝えといた方がいいでしょ。」
そう言って人差し指でくるくると円を描く。式神はそれに反応するようにくるっと回転した。
「あぁ、頼む。」



それにしてもあの葉が入院ね〜。
広い屋敷を数匹の式神と戯れながら歩く絢芽は、「心配だな。」と言葉を漏らした。
あのゆる〜い葉が入院しなければならないほど本気で向かっていく姿は正直想像出来なかった。
「擦り傷一つで大泣きしてたのに。」
≪それは子どもの時の話でしょ。大丈夫よ。葉は強くなってる、確実に≫
絢芽の後を追うように来たセレネーは、あの子は才能があるからと付け足すように言ったが、その目は少し心配そうだった。
「えへへ。それもそっか」
絢芽はそう言って両手を頭の後ろで組むと、葉が上京していった日のことを思い出す。



―先日 出雲大社前駅ホーム―

「そんなに大勢でお見送りに来んくてもよかったのに。」
相変わらずゆる〜いオーラを振りまく葉は、
「大げさだぞ」そう言って照れくさそうに頭をかいた。
「何言ってるんよ。大事な弟の旅立ちだもん。」
絢芽の言葉に、再び照れくさそうに笑った葉に、絢芽は特製の式神付きのお守りを渡す。
「さんきゅー、絢芽。」
「葉様、お体には気を付けてくださいね。」
そう言って赤面するたまおの横ではポンチとコンチが偉そうに
≪泣きべそかいて帰ってくんなよ≫
と左右に顔を背けた。
「おぅ。」
「葉。」
「分かってるよ、じぃちゃん。」
「ちゃんと学校行くのよ。」
「大丈夫だって母さん。」
それでもやっぱり一番心配そうなのはこの2人、葉の母茎子と、祖父の葉明だったと思う。
何せ絢芽に式神付きのお守りを渡すよう言ったのは、他でもない葉明だ。
「じゃあ、ちょっくら行ってくるよ。」
そう言って、右手をサッとあげ去っていくその背中は、いつもより少し、大人に見えた。


「東京、どんな感じなんだろうね。」
夜になり、床に着いた絢芽はまだそのことを考えていた。
この緑豊かな出雲の山奥で育った絢芽にとって、東京の風景など想像もできない。


あたしももうすぐ東京か。楽しみなような、楽しみじゃないような。
絢芽の中で少し複雑な気持ちが駆け巡る。
≪あんたらしくもない、しゃきっとしなさい。≫
「えへへ。そうだよね、何とかなるよね。」
絢芽はセレネーの言葉に励まされ、そのままゆっくり目を閉じた。



500年に1度、シャーマンの王『シャーマンキング』を決めるべく行われる『シャーマンファイト』はもうすぐそこに迫っていた…。





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