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「イャッホー!!やっぱり車は快適だぜ!!」
「うるさいぞキサマ。」
「いいじゃねーかよ蓮。」
ガタンガタンと車が揺れる音と
賑やかな仲間の声が広い大地に響き渡る。
葉は楽しくていつもの調子で笑い声をあげた。


キレイな青空、白い雲、そして心地よい風。
「いい気持ちだな。」
葉たちはリリララに貰った地図の示す通り、北へ北へと進んでいた。
広いアメリカの大地はどこまで行っても同じ景色だ。
でも、オイラ達は着実に目的の場所へ近づいているんだな。
流れる雲を目で追いながらそんなことを考えていると、葉は清々しい気持ちになった。



そんな時だった…。
「ん?」
葉は突然自分の肩に何かが触れるのを感じ、自分の肩に目をやった。
「絢芽、まだ寝てるんか。」
昨日も1番に眠ってたのに。
そう思いながらも、絢芽に頼られているようで嬉しくて、少し照れ臭かった。



しかし
「!?」
葉は絢芽の異変を感じ取り、慌てて彼女の前髪をかき上げると額に手を添えた。
「絢芽!?」
その声に驚いた蓮とホロホロも絢芽に視線を移す。
「どうした、葉。」
「絢芽がすごい熱なんよ。」
よく見れば寝ているように見えていた絢芽は、苦しそうに肩で呼吸をし、呼びかける声にも応答しない。


「さっきまで一緒になって騒いでいたではないか。」
蓮はつい先ほどの彼女の元気な姿を思い浮かべると、信じられないと声を張った。



「たぶん無理してたんよ。」
葉は自分の膝を枕にすると、照り付ける太陽の日差しから守るようにうつむいた。


長年一緒にいながら、いつもこうなるまで気付けないんて。
葉は自分が情けなくて仕方なかった。
ごめんな絢芽。
苦しそうな絢芽の頭を撫でながら、葉は小さく呟いた。







「ハオ様、またあの娘のところへ行かれるのですか?」
何も言わず無言で部屋を出ようとするハオの背中を見つめ、男は眉を潜めた。
最近主が一人の少女に固執していることは知っていた。
しかしなぜ主ほどのお方が、それほどあの少女に興味を持っているのだろうか。
パッチジャンボから降りるとき見たあの術は見事であったが、あのレベルのシャーマンなら他にもいるはずだ。
主の考えを否定するつもりはないが、男はそれを理解できなかった。
きっとあの少女には、まだ自分に見えていない何かがあるのだろう。
でも、一体何が…?
いくら頭を悩ませたところで、男がその答えにたどり着けるはずがなかった。



「僕が絢芽のところに行くのが不満かい?」
ハオは振り返らずに穏やかな口調でそう言った。
彼が彼女に不信感を抱いているのは薄々気付いていたが、あえて深くは話さなかった。
きっと会えば彼も理解してくれる、それに強く否定出来ないのも知っている。
何より無闇に彼女の話をしたくはなかった。


「いえ、とんでもありません。」
男の表情は見えなかったが、少し慌てた男の感情が流れ込んできてハオは可笑しくて微笑した。
「今日は絢芽のところには行かないよ。
それに、しばらく絢芽のところに行くつもりはない。」


ハオの言葉が意外だったのか、男は目を見開くとその訳を問う。
行くと言われても疑問符が浮かぶのに、行かないと言われても同様に疑問符が浮かぶ。
そんな自分が可笑しくなって男は苦笑いを漏らした。


「彼女の元に行くと、早く自分のモノにしたくなるからね。理性を保つのが大変なんだよ。」
僕らしくもないだろ?
そう付け足された言葉に男は何と返せばよいか分からなかった。
むしろ、それほどまでに主を惑わす彼女により大きな不信感を抱いた。
その一方、主がそうやって自分に本心を語ってくれることが少しうれしくもあった。
ハオは同じハオー派の仲間にさえ、その心を開こうとはしないのだから。


そんな男の感情を知り、ハオは微笑すると少し真剣な声色で続けた。
「それに今は他にしなくてはならないことがある。
一緒に来てくれるかい?ラキスト。」
「もちろんです。ハオ様。」
深々と頭を下げるラキストに笑顔を向けると、少し自室に向かうとだけ告げてその場を後にした。
ふと空を見上げれば黒雲が空を覆いつくし、今にも地上にいるものに襲い掛からんとしている。
「これは一雨来るな。」
ハオはその空を見据えるように目を細めると自室へと足を進めた。



この時ハオは自らの能力で気付いていたのかもしれない。
遠く離れた麻倉の地で何かが行われているということに…。
そしてついに黒雲の間から稲光が走り、辺り一面に雷鳴が鳴り響いた。


ハオは自らの額を伝う赤黒い血を拭うと、ほほ笑んだままペロリとそれを舐めてみせた。
「まさか麻倉にかの力を持つものがいたなんて。」
その様子を見ていたオパチョは、笑顔の奥に潜む黒い感情を察し小さく震えた。
「これは雨どころか嵐が来るかもしれないなあ。」
その瞬間、また雷光が大地を覆いつくし、その光は人々の視界から全てを隠してしまった。



それから少しして、葉たち一行は新しい仲間リゼルグを加え、コロラド州デュリンゴの町に滞在していた。


リゼルグと出会った時、病に倒れていた絢芽は
「あたしが復活すると、いつも新しい仲間が増えてるよね。」
あたしも仲間に入れろー!とまたふて腐れていた。
後に絢芽を紹介されたリゼルグは、葉と同じような雰囲気を持つ彼女にすぐに心を許した。


しかし元気そうに振舞っている絢芽の体調が、全快していない事にみんな気づいていた。


「大丈夫ですか?絢芽さん。」
「うん。もうほぼ元どおりって感じかな。」
無理に笑顔を向ける絢芽に蓮はため息を漏らした。
「まだ少し熱もあるし顔色も悪い。
お前はまだ大人しく寝ているんだな。」
何せ彼女は病で倒れた後も、目を離せば無茶をしようとするのだ。


本当に世話のやけるやつだ。
絢芽は蓮の心を察し、ほほ笑むと小さく口を開いた。
「心配ありがと、蓮。」
「なっ!!し、心配などしておらん!!」
顔を彼女の方から背け強がって見るものの、赤面する顔は隠せない。
みんなから好奇の目を向けられた蓮はより赤面すると、頭の尖がりをより鋭く尖らせた。


「それにしても不幸中の幸いってやつですかね。
ホロホロが帰ってこなくなって今日でもう3日。」
竜はそう言って相変わらず緩く笑う葉に視線を送った。
「ああ、おかげで絢芽をゆっくり休ませられたしな。」


ここデュリンゴの町に来る手前
雪山に興奮したホロホロは日が暮れるまでに戻ると葉に約束して
祖国、アイヌの地に似た雪景色に飛び込んで行ってしまった。
それから、もう3日。
ホロホロはどこで何をしているのか戻ってくる気配がない。

 
しかし葉は特に気にしていなかった。
それは興味がないという訳ではなく、ホロホロを信じて待っているのだ。それにきっと彼がすぐに帰ってきていれば、彼らは足早に先に進んだだろうし、絢芽も余計無理をしただろう。


「なあに、なんとかなるさ。」


蓮の推薦によりリーダーになった葉がそう言うもんだから、一行はひたすら時の流れに身を任せるしかなかった。




「よっ!」
そしてそれから数日後
葉の言う様にホロホロはひょっこり彼らの前に姿を現した。
それは絢芽の体調もすっかり良くなり、苛立っていた蓮も諦め半分で呑気に休養を満喫し始めていたころだった。



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