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「全く…」
この女は何を考えているんだ。
蓮は今自分が置かれている状況にため息を漏らし目を逸らした。




ほんの数分前、誰かの足音に夢から覚めた蓮は薄らと目を開けた。
ぼんやりとする景色の中に映ったのは、フラフラとおぼつかない足取りで自分の席に着こうとしている絢芽だった。
なんだ、コイツか…。
どこに行っていたのだろうか。
一瞬そんなことを考えたが、トイレか寝ぼけていたのだろう。
まだ夢現つであったこともあり、そう勝手に解釈してまた眠りに着こうとした
…その時だった。


ぽてっと何かが肩に触れる。
蓮は再び薄らと目を開け、自らの肩に視線をやった。
「!?」
≪さすが坊ちゃま、隅に置けませんな。≫
「う、うるさいぞ!馬遜!」
茶化す馬遜から目を逸らした蓮は、再び自分の肩で気持ちよさそうに寝息を立てる絢芽に目をやった。
それが現在連が置かれている状況である。




そんなに気持ちよさそうに寝られたら…
起こしたくとも起こせんではないか。
絢芽は夢でも見ているのか、時々寝言のように「うーん」と唸ったかと思えば。ニコッと微笑んだりする。
その姿を見ていると心の奥の方がじんわりと温かくなっていくそんな気がした。
あまり人に甘えたことも甘えられたこともない蓮には新鮮すぎる光景だったのだ。
横茶基地でシルバが言っていたことが嘘のようだと蓮は思った。
やはりこの女に警戒するほどの力が秘められているとは到底思えない。


まあいい、もう少しこのままにしておいてやるか。
「コイツらには言うなよ、馬遜。」
≪はっ!≫
あまり体を動かせないため、視線だけ葉たちの方へ動かす。
馬遜はその言葉の意味を察したようで、すぐに返事をするとパッと姿を消した。


さて、どうしたものか…。
蓮が途方に暮れていると突然機内に十祭司の長ゴルドバの声が響き渡った。
『皆の衆――大変ご苦労であった。』
その声に皆が目を覚まし始めるが、絢芽は相変わらず深い眠りについたまま蓮の肩にもたれかかっている。
蓮は、慌てて絢芽の体勢を真っ直ぐに変えると機内放送に耳を傾けた。




『現在当機は北アメリカ上空4万フィートを飛行中である。
なおパッチ族の村までは残り約1200キロ』
突然の機内放送に、目を覚ましたシャーマンたちがざわめき始める。
そんな中ゴルドバの話は続いた。
『それではこれから皆には、自力で我らパッチ族の村まで来てもらいたいと思う。
ただし歓迎するのは今から3か月の間にたどり着いたもののみ
情報は一切与えん。
当然間に合わなかった者はその場で即失格とする』
ゴルドバの言葉に機内はいっそう賑やかさを増した。
慌てふためくもの、冷汗を零すもの、驚きのあまり何も言えないもの…。
ゴルドバはそんな彼らの姿を見て、眉を潜めた。
『選手諸君――
シャーマンファイトは精神の強さを競う場である事を忘れないでいただきたい。』
その瞬間、先ほどまでざわめいていた選手たちは一気に言葉を失った。


『ではこれより第一試練を開始する。』




気持ちよく眠っていた葉は、急に強い風を浴びた事に気付き慌てて目を開けた。
次の瞬間、自分をしっかり支えてくれていたシートは姿を消し
それどころかパッチジャンボ自体が忽然とその姿を消していた。
「お?おおおおお!?」
気が付いた時には乗っていたシャーマンたちが
まるで雨粒の様にバラバラと地上へ向かって落下している。
「すげえぞ蓮!オイラ今、空を飛んでる夢を見てる!!」
「それは落ちているの間違いではないのか?」
「てゆうか夢じゃねえんだよ!!」
呑気なのか慌てているのか定かでない葉
尖がりを真下に颯爽と落下する蓮
慌てつつも抜かりなく突っ込みを入れるホロホロ
そして白目を向いている竜…。
彼らはまさに今絶体絶命のピンチを迎えていた。



「にゃろう!!」
このまま落下してしまったら命はない。
そう思ったホロホロはスノボーを取り出しO.Sで滑降し始めた。
その時…。
「ちっちぇえなあ」
その聞き覚えのある声と言葉に一同の動きが止まる。
「残念だけど君のその小さな巫力じゃとても無理だね。
ここから地上までは1万m以上あるんだ。
その前に巫力が尽きて地上にドカンさ。」
振り向くとそこにはS.O.Fの背に乗り余裕の表情を浮かべるハオがいた。
「どうだい?
よかったら地上まで乗っけてやろうか?」
ハオは自分の言葉で感情的になるホロホロの姿を見て、口角を上げると挑発するかのようにそう提案した。



「誰が乗るかバッキャローっ!
他の奴らだってみんな同じ条件なんだからな!!」
ふーん。
ハオは予想通りの言葉を返すホロホロを見て微笑すると、辺りを見渡した。
「みんな同じ条件ねえ…。」
君はもっと広い視野を持つべきだ。
ハオは心の中でそう呟き一人の人物へと視線を送った。
「じゃああの子も君たちと同じ条件だって言うんだ。」




「な、なんだありゃ…。」
ハオにつられる様に視線を移した四人は息を飲んだ。
「絢芽の背中に翼が生えている、だと。」
落下してもなおポーカーフェイスを保っていた蓮も、絢芽の姿を捉えると目を見開いた。
一同は眉を潜め、奇妙なものでも見るような目で絢芽の姿を見つめた。
絢芽の背中から大きな純白の翼が出ているのだ。
その姿は落下するというよりは、葉たちが落ちるスピードに合わせて浮いているようだった。



飛べるだけならまだ良い。
蓮は他にも違和感を感じ腕を組むと絢芽の姿を見据えた。
その姿にハオは再び微笑む。
「意識を手放してもこんな巨大なO.Sを維持出来るなんて…
やっぱり面白い能力だよね。」
「「…っ!!??」」
ハオの言葉に葉とホロホロの肩がピクリと跳ねた。
よく見れば絢芽は猫のように体を丸め気持ち良さそうに眠っている。
やっぱりとはどういうことだ?
蓮はキッとハオをにらんだ。


「葉、キサマは知っていたのか?」
「お、オイラも今始めて知ったぞ」
「つぅーか、この状況で寝るなんてアホだろ!!」
「フン。ここにも寝ているやつもいるがな」
「こいつのは気絶だ!!!」
蓮の視線の先には相変わらず白目を向く竜の姿があった。

さあ、どうする?麻倉葉…。


「セレネー、どうやったら飛べるんだ?」
葉の言葉に反応したセレネーが少し姿を現す。
≪飛ぶには霊自体の飛行能力と媒介、それに見合う巫力が必要なの。
だから葉たちが絢芽のように空を飛ぶことは…無理ね。≫
霊が普段飛んでいるのは、あくまで浮いているだけだから。
セレネーは申し訳なさそうにそう付け足すと、再び翼と一体になった。
本当は助けてあげたい。
でもこれは葉たちにとっても試練の一つなのだ。



「おっと、そろそろいい加減にどうするか考えた方がいいぜ。
ホラ大地はもう目の前にある。」
相変わらず気の抜けたやり取りをする葉たちを見かねたハオは、そういって口角を上げた。
よく見ればあんなに遠かった地上の景色はもうそこまで迫ってきている。
これだけ煽れば充分かな。
ハオは楽しそうに微笑むと、そのまま広い空の彼方に消えていった。



何も知らない絢芽が目を覚ましたのは、壮大な北アメリカの地を走る車の荷台のうえだった。
うっすらと目を開けると
空には満点の星が輝き、キレイな月が大地を照している。
「キレイな夜空…。」
絢芽はポツリと呟くと再び深い眠りについた…。




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