(name change!)



「わー!すごーい!」
葉たちと合流した直後。
目の前に現れてた大きな旅客機に絢芽は目を輝かせた。
ステージではパッチ族の長が話をしているが、絢芽は話なんて聞いていなかった。

「ホロホロ!!すごいよ、これ!パッチジャンボだって!!」
と大興奮の絢芽。運悪く隣にいたホロホロは、袖を掴まれグラグラと体を揺らされて白目をむいている。
しばらくしてやっと解放されたホロホロは、かっこいいとパッチジャンボに見とれる絢芽を見てため息を着いた。
「どこがかっこいいんだよ!」
十祭司らしき人物の描かれたその旅客機は、お世辞にもかっこいいとは言い難い。
コイツの趣味は理解できねーな。
そう思ってみたものの、あまりに楽しそうな絢芽の姿を見ると、それ以上反論する気にはなれなかった。




「わー!広―い!」
パッチジャンボに乗り込んだあとも絢芽は相変わらず一人はしゃいでいた。
自分以外がこの旅客機に不信感を抱いていることなど、全く気づいていない。
もちろん、自分と行動を共にする4人が苦い顔で座っていることにすら気づいていなかった。


絢芽は機内をじーっと見渡した。
パッチジャンボの内部は、S.F参加者全員が余裕で収まるだけあって、とても広くとても綺麗だ。
蓮と葉の間に座った絢芽は窓側の蓮をチラリと見ると、1度瞬きをした。

「窓側いいなー。変わってほしーな。」
「断る。」
「ケチ!」
あまりに即答され口を尖らせた絢芽は蓮の方にグイグイと寄り有無を言わさず外の景色を眺めた。
「飛んでるー!」
「当たり前だろ。」
相変わらず興奮の冷めない絢芽と、顔色一つ変えない蓮は対称的だった。
しかしいつもならツンツンと怒りうるさいと怒鳴る蓮も、彼女のあまりに楽しそうな姿に怒る気にはなれないでいた。




絢芽はある程度外の景色を楽しむと、満足げな表情でしっかりと自分の席に座りなおす。
んー、楽しい!次は何をしようか。
絢芽がそう思ったのとほぼ同時に、隣に座っていた葉が立ち上がり後ろを振り返ると、誰かに手を振っているのが目に留まる。
「あいさつ返してんじゃねーよ!!」
葉の隣ではホロホロがここぞとばかりにそんなことを叫んでいる。


「なになに?」
絢芽は後ろに誰がいるのか気になり、葉に続くように立ち上ると後ろを振り返った。
あ、ハオ!!
一瞬叫びそうになるが、さすがの絢芽も他の乗客のことを思いグッと言葉を飲み込むと大きく手を振った。
ハオは一瞬驚いたように目を見開いたが、絢芽の存在に気付くと上げていた手を小さく振りかえしてくれた。


「絢芽!お前までつられて手振ってんじゃねーよ!」
「ふぇ?」
どいつもこいつも緊張感が無さすぎるぜ。
ホロホロは絢芽と葉を交互に見ると、呆れたようにため息を漏らした。
一方ホロホロに指摘された絢芽は、慌てて席に着くと両手を合わせ小さくごめんと言った。
ちょっとはしゃぎすぎたな。
絢芽は自分の言動を反省し、先程より少し小さな声で蓮や葉に話しかけた。
この時ホロホロも、もちろん他の3人も絢芽とハオが顔見しりであることなど知る由もない。



それから、数時間が経過した。
初めは葉や蓮と他愛もない会話を楽しんでいた絢芽だったが、4人が疲れて眠ってしまってからは退屈な時間を過ごしていた。
自分も眠れたらいいのだが、興奮していたせいか妙に目が冴えてしまっている。

暇だな…。

絢芽は何か暇つぶしは出来ないだろうかと考えた。
初めは周りを見渡すだけでも楽しかったが、さすがに数時間が経過しては飽きてしまう。
だからと言って特に暇をつぶせるものもないし
みんなを無理矢理起こすのも申し訳ない。
うーん。
絢芽は腕を組み唸ると頭を捻った。
そしてしばらくするとある人物の姿が頭に過る。

あ、ハオんとこ遊びに行こう!

しかし、もしハオも寝ていたらいけない。
そう思った絢芽は立ち上がりクルリと後ろを振り返った。
起きてる!
ハオは絢芽に気が付くと目で何かを訴えてくるその“何か”を察し、手招きをした。




「もーみんな寝ちゃって暇だったよ」
声を抑えつつ不満を漏らしながらハオの元に歩み寄る絢芽は、ハオの横で異常なまでに自分を凝視してくる人物の存在に気付きそちらに目をやった。
「ん?」
その人物は自分を指差し目を見開き、口をパクパクと動かし何かを言いたそうにこちらを見ている。
「何ですか?」
「お、お前は…」
その男はガクガクと体を震わせ何かを必死に言おうとする。
「?」
絢芽が首を傾げていると、隣でその光景を見ていたハオはおかしそうに声を出して笑い始めた。
「君のこと覚えてないみたいだよ、良。」
「良?」
覚えていない、と言うことはどこかで会ったことがあるのだろうか。
絢芽が思い出そうとじーっとその男を凝視する。
しかしその名前どころか顔さえ全く思い出せない。
うーん。
腕を組み必死に考える。
思い出したい、けど…。
そうしているうちに、本人も知らぬまに眉間にシワが寄っていたようで、男は絢芽に睨まれたのだと勘違いした。
びくびくとしながら席を外し、もう一人同じような格好をした男も良の後を追うように席を外した。



「今の2人なに?」
「僕の仲間さ。」
「あたし、会ったことあったかな?」
「さあ、どうだろうね。」
絢芽は相変わらず可笑しそうに笑うハオを不思議に思いながらも、まあいいやと先ほど男たちが座っていた席に腰を下ろした。


「あたし飛行機乗るの初めてなんだ。」
ハオは?と尋ねるとハオは僕もだよと言って優しく微笑んだ。
「大きなO.Sよね。」
さすがパッチ。そう言ってはにかんだ絢芽の言葉にハオは驚いたように目を見開いた。
「気付いてたんだ。この飛行機がO.Sだってこと。」
「ん?」
絢芽はハオの言葉に首を傾げた。
気付いてたんだ、って…
「誰だって気付くよ、こんな大きなO.S。
それに、パッチにこんな大きな飛行機作るお金なんてないって。」
うぇっへっへっとまるで葉の様に笑う絢芽にハオは
そうだねと笑ったが、内心はそうは思っていなかった。


現にここに居る何人がこの飛行機をO.Sだと思っているだろうか。
少なくとも今寝ている奴の大半は気が付いていないだろう。
最近絢芽のドジな一面しか見ていなかったため忘れかけていたが、やはり彼女の能力は興味深いとハオは思った。


「絢芽。」
名前を呼ぶと笑顔でこちらを向く絢芽の髪を優しく撫でる。
「僕は君の力に興味があるよ。」
「あたしの力?」
ハオが頷くと絢芽は再び首を傾げた。
「フフ、何でもない。」
そういうと絢芽はさらに首を傾げ不思議そうな顔をしたが、少し考えると「そっか」といつものように淡白な言葉を返した。




「絢芽…絢芽…」
絢芽は自分を呼ぶ声に重たい瞼をゆっくりと開けた。
「よく眠れたかい?」
「ハオ…?」
見上げるとハオがニコッと微笑み自分の髪を優しく撫でていた。


話しているうちに寝てしまったのだろう。
外はもうすっかり暗くなっていて、遠くにある星たちがキラキラと輝いている。
「そろそろ自分の席に戻ったほうがいいよ。」
ハオはそう言いながらも、自分の肩にもたれかかった絢芽の頭を自らの方に優しく引き寄せた。
「もうすぐ着くの?」
ぼーっとした意識の中で絢芽は小さく欠伸をして、目元を擦る。
とても心地良い眠りに包まれていた絢芽は、出来るならもう少しこのまま寝ていたかった。


「ひざまくら〜。」
明らかに寝ぼけているとはいえ、そう言って手を伸ばしてくる絢芽の姿にハオは苦笑いをした。
もう少し早く起こせばよかったかな。
時間があれば喜んで膝枕してあげたのに。
ハオは少し後悔をしつつ、名残惜しむように彼女の髪を優しく撫でた。


「残念だけど、もう時間だから膝枕は今度だね。
それと!」
ハオは最後の言葉を強調するために、少し声を張る。
「君は無用心すぎる。
もっと人を警戒することを覚えないと。」
「ほーい」
あまりに簡潔な返事に、ハオは本当に自分の言葉がきちんと彼女に届いたか不安になった。
一方絢芽は、渋々起き上がると、眠たい目を再び擦りよろめきながら自分の席に戻って行った。
危なっかしいな。
ハオは絢芽の後姿を見送りながら苦笑いをすると、気持ちを切り替えるように足を組み替えた。
もうすぐ始まる、第1の試練。
さて、葉たちは一体どう出るかな?
ハオはそう言って微笑んだ。

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