(name change!)



ちょっと遅れて横茶基地に到着した絢芽は葉たちといったん別れ、お祭り騒ぎの基地内を当てもなく探検した。
「すごいよ!セレ姉!あたし像を生で見るの初めて〜!」
≪媒介、かしらね?って、ちょっと!!≫


気が付くと持ち主の許可もなく像に触れている絢芽を必死で止めにかかるセレネー。
「いいじゃん、ケチ。」
減るもんじゃないんだしさ。
絢芽は、セレネーに必死で止められ仕方なく身を引くと不服そうに口を尖らせた。
絢芽はこれをお祭りと勘違いしているのではないか。
セレネーは相変わらずマイペースな彼女に呆れつつも
このピリピリした状況で、こうも呑気に居られる主をある意味尊敬した。


「セレ姉―!こっちこっち!!」
気が付けばもう遠く先に居る絢芽。
セレネーは主の尽きることのない好奇心にため息を漏らしたが、絢芽のあまりに楽しそうな表情に何も言えず、その後を追いかけた。



「んー、しあわせ」
右手にチョコバナナ、左手にたこ焼きを持った絢芽は、また一口チョコバナナを頬張り、満足げな笑みを浮かべた。
セレネーには欲張りだと言われたが、食べたかったのだから仕方ない。


きっとこの基地内で、彼女が1番この場を満喫しているだろうことは、周りのシャーマンと絢芽の温度差からも明確だった。
しかし当の本人はそんな自覚は全くなく、むしろこれから何が起こるんだろう。という興味しかなかった。



そんな絢芽は前方からこちらに歩み寄る人物に気付き、チラリと視線を移した。
「君は相変わらずだね。」
「あ、ハオ!!」
やあ、と軽く右手を挙げると彼のキレイな髪はふわりと少し揺れる。
絢芽は突如現れたハオに駆け寄ると、左手に持つたこ焼きを勧めた。
先ほど買ったばかりのたこ焼きからはまだ湯気が出ている。


「いただくよ。」
ハオはパクリと一つを口に収めた。
美味しそうにたこ焼きを頬張るハオを見て、絢芽は満足気にほほ笑んだ。


「この前はありがとね。」
「体調はもういいのかい?」
ハオは絢芽の言葉の意味をすぐに理解し、風でなびく彼女の髪を優しく撫でた。
「うん!おかげさまですっかり!」
あの後、しばらく寝込んでいた絢芽だったが、葉たちが中国から帰ってくるころにはすっかり体調も回復していた。
自分を置いて葉たちが中国に行っていたと聞き、しばらく拗ねていたが、葉がお土産に買って来てくれた桃まんで簡単に機嫌を直した。
そんな単純すぎる彼女に、まん太の突っ込みが炸裂したのは言うまでもない。



ハオは元気さをアピールするようにブイサインをする絢芽の頭に手をやると、よかったと言って優しく撫でた。



「ハオさま、だれ?」
どこからともなく聞こえた声に絢芽は辺りを見渡す。
しかしそこには、その声の持ち主らしき人影は存在しない。
気のせいかな。
絢芽が探すのを止めハオの方に向き直ると、彼はおかしそうに微笑している。
「恥ずかしいのかい?オパチョ」
その言葉と共に、ハオの後ろから小さいアフロヘアの子供がチラリと顔を出す。
背丈はまん太と同じか少し低いか。
その子は絢芽と目が合うと目に涙を溜め、怯えたような顔をしてすぐに顔引っ込めた。


「か、かわいい〜!」
絢芽は一瞬その姿に動きを止めるが、すぐにそう言ってその子供と視線を合わせるように屈んだ。
「オパチョ?っていうの?あたし絢芽、よろしくね。」
絢芽の言葉に恐る恐る顔を覗かすオパチョは、ハオのマントを握りしめ彼女の目をじーっと見ると
1度ニッコリと微笑み、次は恥ずかしそうにハオの後ろに隠れてしまった。
「かわいいね。ハオの子供?」
冗談交じりでそういう絢芽に、ハオはまさかとほほ笑んだ。


「オパチョは僕の仲間さ。」
「仲間?あ、そういえばここに居るってことはハオもS.Fの参加者?」
一瞬、その場に静寂が流れ、絢芽の言葉にハオは声を出して笑った。
「今さらかい?」
何せこの前会ったのがS.Fの開会式会場。
普通なら遅くてもそこで気づくはずである。
でも絢芽らしいな、とハオは思った。


「さっき、葉たちにも挨拶をしてきたよ。」
「葉のこと、知ってるの?」
首を傾げ予想通りの反応を示す彼女の表情に満足しつつ、ハオは「まあね」とだけ言った。
それ以上のことは言わなければ彼女はそれ以上追及しては来ない。
まだそれ以上を彼女に話すつもりはなかった。
あっさり知られたら、面白くないからね。
ハオは案の定淡白な返事をする彼女を見ながらほくそ笑んだ。


「絢芽、葉のことを頼んだよ。
アイツはまだ弱い、だから支えてやってくれ。
でもあまり力を貸し過ぎてはだめだよ。」
それは葉のためにはならないからね、と付け足すように言うと絢芽は顔をしかめた。
「アンナにも同じこと言われたよ。」
絢芽はここへ来る前にアンナに挨拶をしに行った。
その際アンナにもハオと同じ様なことを言われたのだ。
言われなくても葉は守るし、温かく見守るつもりだよ。
ぷぅっと頬を膨らます絢芽の顔がおかしくて、ハオはまた微笑した。



「ハオさま、もうすぐじかん。」
マントを軽く掴まれたハオは視線を落とすとニッコリと微笑んだ。
「そうだったね、オパチョ。」
「もう行くの?」
「あぁ、みんなが待っているからね。
もしかして寂しいのかい?」
ほんの少し顔をしかめた絢芽の反応をハオは見逃さなかった。
からかうようにそう言って、絢芽の髪に指を絡めるとふわりと良い香りが鼻をくすぐる。
ハオは自分の言葉に少し肩を震わせた絢芽を見つめ、次の言葉を待った。


「寂しいよ。」


「!?」
「またしばらく会えないかもしれない。」
目を合わせようとすると、必然的に上目遣いになる。
だから確信犯ではないのだが、ハオはその子猫の様な目に捉えられどう言葉を返せばよいやら戸惑った。
そして無意識に彼女の心の内を知ろうと自分の能力が動き出す。

『絢芽は嘘はつかないわ。』

その瞬間、何時ぞや彼女の持ち霊に言われたことを思い出した。
確かに嘘ではなさそうだね。
ハオは自らの能力で彼女が心からそう感じていることを知り満足感を覚えたと同時に、その言葉が“特別”でないこともすぐに分かった。


誰かを罵ることも嘲笑うことも、媚を売ることもなければ誰かを特別視することもない絢芽。
しかし、彼女が唯一特別視している人物がいることは知っていた。
それは彼女の弟的存在である麻倉葉。
その特別もあくまで弟としてのものではあったが、ハオはそれが少し悔しかった。


僕は絢芽にとってはそこら辺にいる凡人(友達)と同じってわけか。


普通の人間と同じ扱いをされたのはいつぶりだろう。そんなこと、考えるだけ無駄だとハオは諦めた。
やっぱり君は面白い。
でも君は誰にでもあんな目をするのかい?
それは、頂けないな…。
ハオは絢芽の髪を優しく撫でた。
魔除けをしておいた方が良いだろうかと一瞬考えたがやはりやめておくことにした。


「すぐに会えるさ。」
僕が直々に監視すればいい、変な虫がつかないように、その心が何者かに汚されないように…。
「やったー!」
無邪気に笑う絢芽を見て、ハオはつられるように目を細めた。


本当は今すぐ君を連れて行きたいんだけど、まだ葉たちに貸しておいてあげるよ。
葉に死なれたら困るからね。それにもっと強くなってもらわないと…。
それにはどうしても彼女の存在が必要だった。




「ハオさまたのしそう。」
絢芽と別れ、ハオと並ぶように歩いていたオパチョはハオを見上げた。
「そうかい?」
「うん、ハオさまたのしいと
オパチョもたのしい」
オパチョはそう言ってほほ笑むと、軽快なリズムで歩きだす。
その姿は本当に楽しそうで、無邪気だった。


「オパチョは絢芽が僕の元に来たらうれしいかい?」
「うん。絢芽のこころ、やさしいから」
それに…
オパチョは相変わらず楽しそうに笑うハオを見上げて目を細めた。
ハオさまがうれしいなら、オパチョもうれしい。
言葉にこそしなかったが、心の中でそう呟きキュッとハオのマントを掴んだ。

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