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それから1か月、ついにシャーマンファイト本選へ旅立つ日が来た。


―東京都米軍横茶基地―


そこには予選を勝ち抜いた選りすぐりのシャーマンたちが顔を揃え、お互いの様子を探りながらその時を待っている。

その中にはもちろん葉たちの姿もあった。
彼らは異様なのその光景と数えきれないシャーマンの数に息を飲んだ。


それもそのはず、そこにはいろいろな国の人間が集まり、人間以外にも像やロボットなんかまでいるのだ。
「出店まで出しやがってよ。
こいつはまるでどっかのサーカス会場だな。」
ホロホロの発言に、3人は出店の方へと視線を送った。

そこには“たこやき”や“チョコバナナ”と書かれた屋台がぽつりと立っていた。
よく見ればそれを運営しているのはシルバとカリムなのである。

「おお!?シルバ久しぶりだな。」
葉はその光景をすんなり受け入れ、1か月ぶりのシルバとの再会に目を見開いた。
竜とホロホロは思わずひっくり返る。

「カリム!!てめぇまでそりゃなんのマネだ!?」
「S.Fの運営資金調達活動に決まっているだろう。」
カリムはホロホロの指摘になんの躊躇いもなくそう返した。
横ではシルバがおかしそうに笑っている。
「案外いけるぞ。」
「蓮!てめぇまで!!」
そう言って突如現れた蓮にも空かさず突っ込みを入れるホロホロ。
こうやってホロホロのツッコミ技術は磨かれていくのであった。


「そう言えば絢芽ちゃんの姿が見えないようだが…。」
シルバは辺りを見渡し、葉に尋ねた。
「それが、アンナは昨日の夕方出かけたっつってたんだが
それから家に帰ってこんかったんよ。」
どこ行ったんかな絢芽…。
葉は右手を額に添え、キョロキョロと辺りを見渡した。
絢芽も本選に参加するため、きっとここに来るはずなのだ。


「キサマらに遠慮したのではないか、葉。」
「デェッヘッヘッ」
何かを悟ったように葉を睨む蓮の言葉に、葉は鼻の下を伸ばすと照れくさそうに頭をかく。
アイツは何も考えてないようで、以外と周りを見ている。蓮は絢芽に対してそんな印象を持っていた。


「では兼ねて聞こうと思っていたんだが…」
シルバは改まった様子で、少し声のトーンを落としてそう切り出した。
「夜神絢芽あの少女はいったい何者なんだ。」
顔をしかめ、困ったように聞くシルバに葉は首を傾げた。
「絢芽はオイラの姉ちゃんみたいな存在だ。」
「いや、そうじゃなくて。

彼女の力だよ。見た目に感じられる巫力と、いざという時に発揮する巫力にかなり違いがある。」


「それはどういうことだ。」
シルバの話を聞いていた蓮は眉間に皺を寄せた。
彼女とは開会式の翌日に民宿炎で顔を合わせ、その後何度か会う機会があったが、シルバが言うような力は感じなかった。
確かに時々見せる鋭い言動が気にはなっていたが、シャーマンである以外は特にそこら辺に居る少女と大して変わらないように見えた。
「あぁ、それが…」
シルバは腕を組み彼女と初めて会った日のこと、S.F出場資格をかけて戦ったことを語り始めた。



その日シルバはシャーマンキングを志す人
の元を訪れ、その参加資格の有無を確かめていた。
「次で最後か。」
やっとだなと小さくため息を漏らし、シルバは先を急いだ。


「君に参加資格があるかどうか、試させてもらう。」
最後の一人は身長も小さく小柄な少女だった。
見た目も巫力も普通の少女と大して変わりないようだ。
持ち霊は、精霊か?しかし力はまずまずと言ったところだな。
この少女はどんな力を見せてくれるのだろうか。
先日葉の大きな成長を目にしたばかりのシルバは、逆に力のあまりない少女に期待をしていた。


しかし、ルールの説明を終え、試験を始めようとしていたシルバは少女の言葉に耳を疑うことになる。
何と言われたか理解が出来ず、唖然と立ち尽くしてしまう。
聞き間違いかと思い、つい先ほど放たれた言葉の意味を頭の中で整理する。
しかし、その少女は確かにこういったのだ。

『それじゃあ面白くないからさ、あなたがあたしに1発も入れられなかったら合格ってルールに変えない?』

訳が分からなかった。
ここに来る前に何人ものシャーマンを試してきたが、そんなことを言われたのは初めてだった。
なんだこの子は…。
自分の力に自信があるのか、それともただのバカなのか。
でなければ、わざわざ自分を不利な状況に置くわけがない。
仮にも伝統あるパッチ族の血を引く十祭司。
こんな小さな少女に1撃も食らわせられないはずがないのだ。


「ダメだ。」
それだけ言うと少女はなんともつまらなそうに口を尖らした。
「ケチ。」
「わがままを言うな。」
はーい。そう言ってやる気のない返事をする少女にシルバは小さくため息を零した。


「制限時間は10分だ。」
「ほいほい。いつでもどーぞ。」
相変わらずやる気のない返事と態度。O.Sも憑依合体もしようとしない。
この子は本当にシャーマンキングを志しているのか。
そんな疑問を抱えながらもシルバは精霊たちを各媒介にO.Sさせると身を引き締めた。
今自分がやるべきは十祭司としての使命を全うすること。


「君がやる気がないのならこちらから行かせてもう。」
手加減はしないぞ。
シルバはそう言って少女に攻撃を放った。
手応えはあった。
少女がいた方向を凝視する。
大口をたたいていた割には他愛もない。すこし本気で行き過ぎただろうか。
シルバが少女の心配をしていると、背後に何者かの気配を感じた。


「遅いよ。」


シルバは耳元で聞こえた声にハッとして振り返る。
な、なんだと。
シルバは慌てて自分が先ほど攻撃を放ったところを確認する。
そこには何もなく、ただ粉塵がフワフワと風に乗って舞い上がっていた。
「バカな…。」
シルバが慌てて振り返ると、すでにそこにも少女の姿はない。


「真面目にやってよね!!」
次にはその声はシルバの横で聞こえた。
そこには余裕の笑みで立ちつくす少女。
シルバは少女に挑発されるように、次々と攻撃を放った。
自分が攻撃を放つ前、確かに彼女はO.Sも憑依合体もしていない。
その証拠に彼女の横には常に持ち霊の姿があり、フワフワと浮いている。
では一体、どうやって自分の攻撃をかわしているのか。
それどころかその時シルバは彼女の媒介が何かさえ分からなかった。


「あと1分だ。逃げてるだけでは参加資格は勝ち取れないぞ。」
あっという間に時間は巡り、シルバは息を切らせてそう言った。
顔では平然を装うが心は騒いでいた。
空中から見ても、地上から見てもシルバの攻撃は彼女を捉えられない。
焦るシルバに絢芽は何とも楽しそうに笑いかけた。


「あたしの勝ちだね。」


その言葉と共にシルバのマントがひらりと宙を舞い
次の瞬間には遠くにいたはずの少女が目の前でほほ笑んでいた。
エイッとシルバの腹部に軽く拳を当てる少女。同時に終了の合図を知らせるベルの音が鳴り響いた。
「そんな、どうやって…」
唖然としながらも、シルバは開始前の少女の言葉を思い出す。


『あなたがあたしに1発も入れられなかったら合格ってルールに変えない?』


「楽しかったよー!」
息をあげるシルバの横で、そう言って呼吸一つ乱さずに微笑む少女。
あぁ、私は遊ばれていたのか。こんな幼い少女に。
自分の十祭司としてのプライドに傷がついたのをシルバは感じた。



シルバの話が終わると一同は神妙な顔でシルバを見ていた。
気になることはいくつかあったが、シルバはあえてそれ以上は言わなかった。
「それは確かに妙だな。」
蓮はそう言って腕を組む。
O.Sをせずに十祭司の攻撃を避けられるほどの脚力や体力があの女にあるとはとてもじゃないが考えられない。
しかし、攻撃のたびにO.Sをしたり解いたりしていてはそれだけ巫力も消費する。


「どうなんだ、葉。」
うーん。と同じように腕を組んでいた葉はホロホロの言葉に首を傾げてうなった。
「オイラも本気の絢芽と手合せしたことないからな。」
さっぱりわからんと、葉は吹っ切れたようにそう言ってはにかんだ。
「本気で手合せしたことない!?
お前アイツと同じ屋敷に住んで一緒に修行積んでたんじゃねーのかよ!!」
「同じ屋敷には住んでたけど修行コースは別だったんよ。
絢芽とオイラではレベルが違いすぎるからな。」
じーちゃんには絢芽と同じ修行したらお前は死ぬって言われたな。
葉は苦笑いを浮かべると困ったように頭をかいた。

葉の発言に一同はさらに謎が深まったと頭を抱えたが
「たしかに絢芽は強い。
でも悪い奴じゃねーしそんなに警戒することないさ。」
葉はそう言っていつも通りのゆるーく笑うのだった。


「おっと、噂をすれば。」
シルバの言葉に一同の視線が一か所に集まる。
「いやー、すっかり遅くなっちゃった!」
そこにはペロッと舌をだしはにかむ絢芽。
「おぅ!絢芽、どこ行ってたんだ?」
「京都のばあちゃんに呼ばれて、急遽里帰りしてたんよ。」
「おー!みんな元気してたか?」
「元気、元気すぎるくらい!葉によろしくって言ってたよ。」
絢芽の姿に一同は無意識に身構えたが、葉と絢芽のゆるーいやり取りを見た瞬間その緊張はあっさりと溶けてしまった。




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