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コトンと庭の鹿おどしの音が響く。
それと同時にコッホンと小さく咳払いをしたのは、可愛らしいピンクの仕事着を身にまとったたまおだった。
「そ、それでは皆様の長旅と、葉様の修行…本当にお疲れ様でした。」
頬をほんのり赤らめたたまおは、恥ずかしそうに目の前に並べられた料理に視線を向けると
「及ばずながら私、お食事をご用意させていただきましたので、どうぞゆっくりなさってください。」
と言ってまた赤面した。


テーブルには無事にヨミの穴の修行を終えた葉、共に麻倉家へやってきたアンナの他に、葉を追ってきた竜とまん太もいた。
並べられた豪華な食事にアンナ以外の3人は目を輝かせ、感動の声を漏らした。

「ん?そういやあ、絢芽は?」
一緒に帰省したはずの絢芽がいないことに気が付いた葉は、そう言って辺りを見渡した。
「あ、絢芽様なら葉明様と出かけております。」
たまおは小皿に料理を取り分ける手を止め、葉に視線を向けた。
「そっか。絢芽も忙しそうだな。」
夜には帰ってくるのだろうか。
絢芽にも心配をかけているだろうから、早く無事な姿を見せたかった。
葉はまだ月も出ていない青空を眺めた。
キレイな青にプカプカと浮かぶ白い雲は、手を伸ばせば届いてしまいそうで、疲労が蓄積した葉の体をほんの少し癒した。
その空が闇に包まれるのに大して時間はかからなかった。




「遅いな絢芽。」
自室に戻ったものの、すっかり目が冴えてしまった葉は
修行を終えてからまだ1度も顔を見ていない絢芽の存在を気にかけていた。
たまおによると葉明は会合に出かけているそうだ。
きっと使われてんだな。
葉はそんな絢芽を不憫に思って苦笑いを漏らした。
でももしかしたら、もう部屋に帰っているかもしれない。
それに、まん太にもまだちゃんとお礼を言えてない。
葉はよいしょっと体を起こすとのそのそと歩き出した。


近道である庭からまん太たちのいる部屋に行くと、まん太は一人、縁側で夜空を眺めていた。
右手を挙げゆっくりと距離を縮め、まん太の隣に腰を掛ける。
あの日、守ってあげられなかった後悔と、まん太に言った言葉が頭に過る。
自分はこの短期間でどれだけまん太を傷つけたのだろう。
そしてこれからも傷つけてしまうのではないか…そう思うと、少し怖かった。
でもきっとまん太がいなければ今の自分はないだろうし、ヨミの穴から出てくることも出来なかった。
「まん太は、あんなにひどいことをしたオイラを友だちだといってくれた。」
自分の言葉にまん太が嬉しそうな照れくさそうな顔をしたので葉もうれしくなった。



「それにはまだ早いぞ、葉。」
えっ?会話を割るように入ってきた声に2人はピタリと動きを止めた。
「フン…ヨミの穴から出たばかりの割にはずいぶん元気そうではないか。」
その言葉と共に、サーッと風が吹き庭の草木を揺れる。
「じゃが礼は、無事修行を終えてからにした方がいいな。」
「ゲッ!じいちゃんいつの間に戻ってたんだ。」
無事にヨミの穴から出ることができ、一安心してるところだ。葉は葉明の言葉の意味が分からず眉を潜めた。
「修行が終わってねえとはどういうことだよ。」
「フン」
葉明は眉を潜め、苦い顔をする葉をあざ笑うと夜空に浮かぶ三日月に視線を移した。
「修行というのはその成果が明らかになって初めて終えたと言える。
のう、アンナや…。」


「アンナ、阿弥陀丸、それにふんばりが丘に置いてきたはずの春雨…!?」
なんでここに…。
葉は葉明の話を聞きながらこれから起ころうとしていることを想像し、固唾を飲んだ。
「つまり、これからお前に修行の成果を見せてもらうということじゃよ。
絢芽…。」
葉明の言葉を合図に暗闇から風のように現れたのは絢芽だった。
しかし、それはいつものゆるーい笑顔の絢芽ではなかった。
月明かりを背中に受けている絢芽の表情は良く読み取れないが、明らかにまとっているオーラがいつもの彼女のものとは違っていた。
「絢芽…?」
「さあとぼけてないで春雨を手にするがいい。」


サーッと強い風がその場に吹き、絢芽の長い髪をなびかせた。次の瞬間、ぼわーっと辺り一面に淡い緑色の小さな式神が現れる。
「ど、どうなってるんだ一体。」
あまりの急展開に唖然とするまん太は目を見開いた。
「あれは絢芽の式神。
以前の葉ならば絢芽の式神をあんなに受けてたら、違いなく死ぬわね。」
し、死ぬ!?
サラリと恐ろしい解説するアンナ。
まん太は眩しいほど光る絢芽の式神を見ると、思わず後ずさりをした。
数十、いや数百と言っても過言ではないほどの式神は、真っ直ぐに葉の姿をとらえている。
確かにこんな数を葉君一人で相手したら…。
まん太が慌てて葉の方を見ると葉はニッと怪しげに笑った。


その場に居た誰もが、その瞬間起きた出来事を把握することが出来なかった。
それぐらい一瞬の出来事だったのだ。
分かったのはピカッと辺り一面が光に包まれ、先ほどまで無数に存在した式神たちが一瞬にして姿を消したということ。
この状況を作り出した本人さえこの状況を把握しきれていなかった。
「フフ」
ヨミの穴は想像以上のものを生み出したようじゃな…。
葉明は微笑した。
葉の腕で輝くO.Sは今までにない光を放ち、今までにない形をしている。
「強くなったね、葉。おかえり。」
ずっと俯いたままだった絢芽は顔を上げると、いつものようにほほ笑んだ。
「ただいま。」
月はそんな彼らを見守るように、今日も暗黒の夜空を照らし続けた。

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