(name change!)



桜、ぽかぽか陽気…
「いいなー春はなんて気持ちがいんだ。」
「和むなぁ。」
あたしは夜桜の方が好きだけど。
絢芽が付け足すようにそういうと
「じゃあ今度行くか!」
そう言って葉ははにかんだ。
「行こう―!」
見ているだけで眠くなってしまいそうな2人のゆるーい会話、その横で呑気に読書をするアンナ。
まん太はその光景に呆れてため息を漏らした。
まさか絢芽ちゃんも葉君みたいなゆるーいキャラだったなんて…。
まん太は、3割増しされたマイペースさと緊張感のなさに、いつも自分一人がひやひやとしているよな気がしてならなかった。
今日だってそうだ…。


「あの…くつろいでいるところ悪いんだけどさ…
やっぱこんなとこでピクニックってのはどうかと思うんだよね。」
振り絞るようにそういうと、3人の視線がまん太に注がれる。
「だってここお墓のど真ん中じゃないかー!!」
まん太は今にも泣きそうな表情で声を荒げ、辺りを警戒するようにキョロキョロと見渡した。
前後左右どこを見てもお墓、お墓、お墓。
墓地だから仕方ないなんて言われればそれまでだが、墓地でピクニックなんて今まで聞いたこともない。
しかしそこにいた3人は、だからなんだと言わんばかりに首を傾げた。
それどころか葉はむくりと起き上がると、広い広い墓地を眺めてほほ笑んだ。
「何言ってんだまん太、これはただのピクニックじゃなくて下見も兼ねてんだぞ。」
「そうだよ、まん太。ここ猪口浜外国人墓地は葉の今日の試合会場なんだよ。」
絢芽は起き上がらずに視線だけまん太の方へ向ける。
洋風の墓石が所狭しと並べられている猪口浜外国人墓地は、日本の一般的な墓地とは違った不気味さが漂っている。
ここで今夜、葉君の2回戦が行われるんだ。
まん太は息をのんだ。
どんな相手なんだろう、どんな持ち霊を使うのだろう
そう思った瞬間、額を汗が伝い心拍数が上昇し始める。
いてもたってもいられない、とはまさにこのことだとまん太は思った。
そしてやっぱり呑気だよと言おうとしたがあえて口にはしなかった。
根本的にこの人たちと自分は生きてきた世界が違うのだろう。


「それにしても、せっかく葉の実力が見えると思ったのにさ…」
絢芽は、はーっと大げさなため息を漏らし、不服そうに顔をしかめた。
「絢芽は今日が初戦か。仕方ないさ。こればっかりはオイラ達じゃ何ともならん。」
何ともならないからこそもどかしいのだ。
そんな想いを押し殺すように絢芽はヒョイッと起き上がった。
「じゃあ、あたしもそろそろ行くね。がんばるんよ、葉。」
「おぅ。絢芽もな。」
「えへへ、がんばります!」




葉たちと別れた絢芽はの渋々その場を後にする。
「でもやっぱり、葉の試合見たかったな。」
本気出したら間に合うかな?と冗談交じりで言うと
≪やめときなさい。しつこいわね、あんた。≫
セレネーが大きなため息を漏らした。
絢芽は口を尖らせ
「仕方ないじゃん。見たいもんは見たいんだからさ。」
と両手を頭の後ろで組み地面を蹴った。


ん?
その瞬間絢芽の目はこちらに向かって歩いてくる男の存在を捉えた。
格好こそは違うものの、強い巫力と5つの霊力を身にまとったその男に絢芽は見覚えがあった。

「よ!シルバ」
シルバはぼーっとしていたのか、急に声をかけられ驚いたように眉を潜め絢芽を見下ろした。
彼も自分に向けて手を軽く上げる小さな少女には見覚えがあった。
忘れもしない、忘れるわけがないこの不思議な少女。
「君は、夜神 絢芽。」
何で、君がいるんだとでも言いたそうな顔のシルバ。
しかしそれより絢芽は見下ろされたことに嫌悪感を抱いていた。
「見下ろすなー!」
そ、そんな無茶な。
シルバは苦笑いを浮かべ絢芽と少し距離を取ると、再び顔をしかめた。
「葉のとこに行くんでしょ?」
シルバが「あぁ」とうなずくと絢芽は再び両手を頭の後ろで組み、シルバを見上げた。
葉の2回戦を見るのにはまだ早すぎる。
シルバが今から何をしようとしているかは何となく察しがついていた。
なぜなら、私もシルバと同じことをしようと考えたから。
「無理だと思うよ。止めるのは。」
「そんなこと、分からないだろ?」
図星をつかれたシルバは、驚きながらも忠告を聞き入れることもなく、そう言って顔を背ける。
絢芽はそんな姿にニヤリと口角を上げるとご自由にどうぞ、と呟いた。
「何故君は止めない?葉君は君にとって姉弟のような存在なんだろ?」
そんな存在を見殺しにするというのか。
シルバは相変わらず考えの読めない絢芽に苛立ちを感じながら彼女を睨んだ。
「きっと葉は戦うなって言われても納得しない。
甘やかすだけが優しさじゃない。」
そう思わない?
絢芽はそう言ってシルバを見上げるとニッコリと微笑んだ。


たまたま見てしまった。葉の次の対戦相手、ファウスト[世の1回戦。
巫力こそ葉と大して変わらないものの、あの男は少し心を闇に支配されすぎている。
それ故、何をしでかすか分かったものじゃない。
でも止めるのはやめた、葉とアンナのことはよく知ってる。頑固な性格も信じる心も…。
もちろん葉を止めようとするシルバも止めようとは思ってない。
止めたところで『はい分かりました』となる訳がない。


「君も今日が、初戦だったね。」
「まあね。」
自分の言葉にめんどくさそうに返事をする絢芽を見て、シルバは苦笑いを浮かべる。
「健闘を祈るよ。」
とはいっても、君が負けるようなことはないだろうけど、そう思いながら。
「あたしも健闘を祈るよ。」
とはいっても、葉を止めることはできないと思うけど、そう思いながら。
そうして2人は違う方向に歩き出した。それぞれの目的の場所へ向かって。
「あ!シルバ。」
絢芽の言葉にシルバはハッと振り返る。
「大丈夫、何があっても私は葉を絶対に助けるから。」
しかしそこに既に彼女の姿はなく、囁くような彼女の声だけが風に運ばれてシルバの耳に届いた。





そして瞬く間に日は沈み、辺りが暗闇に包まれた。
人一人いないこの場所で絢芽を照らすのは月明かりと小さな消えかけた外灯のみ…。
「フン、まさか2回戦の相手がこんなガキとはな。」
名も知らぬシャーマンが数m先で余裕な表情を浮かべるのを、絢芽はめんどくさそうに眺めていた。
なんか、めんどくさそう。
絢芽はため息を漏らさずにはいられなかった。
「こんなガキ、相手にもならんな。」
黒髪に僧侶の様な服装の2人組。手に持つビワが媒介だろう。
髪型といい服装といいセンス悪いな・・・。
そんな事よりも絢芽はすでに始まっているであろう葉の試合の行方が、葉が無事でいるかどうかが気になって仕方ない。


絢芽は耳を塞ぎつつもしばらくその耳障りな言葉に耐えた。
しばらくしてシャーマンファイト開始へのカウントダウンが始まる。
絢芽はオラクルベルから視線を逸らすと、すこしかけた満月にそっと目を細めた。
今日も綺麗な月。どうか私の代わりに葉を見守ってください。
絢芽が目を閉じ手を合わせると同時に
“FIGHT”
オラクルベルが始まりを告げる。男は瞬時にエレキビワを構え攻撃の姿勢を取るが、
「あたし、めんどくさいこと嫌いなんよ。」
絢芽の言葉に動きを止め、あざ笑うように口角を上げた。
「負けるのが怖いんだろ?」
絢芽は自信に満ち溢れた男の言葉にため息を漏らす。
「貴方達は私には勝てない。だから無意味に傷付けたくはないんよ。」
それは絢芽なりの優しさであったが、男の心に届くはずもなくエレキビワを構えるとひずんだ音とともに幾つもの霊魂を放った。


「やったか。」
あんな小娘に自分の攻撃がかわせるわけがない。
男は自信に満ちた表情で、立ち込める粉塵にじっと目を凝らす。
そこにはいるはずの絢芽の姿がどこにもないことに気が付いたのは、8割ほど粉塵が消えた後だった。
「えへへ」
男の肩が驚きで跳ね上がったのを見計らい、背後に回っていた絢芽は笑って見せた。
「くそガキが…。」
一度かわせたぐらいで良い気になるなよ。
先ほどまで挑発をしていた男は絢芽の言動一つで簡単に逆上し、次々に攻撃を繰り出した。
無我夢中で攻撃を続ける男に絢芽は少しため息を着きながらも、挑発をした。
「当たんないよ。もっと頑張らなきゃ。」
そうすれば更に頭に血が上った男は多くの巫力を消費するだろう。
それが絢芽の狙いだった。出来れば傷付けず、最小限の力で勝ちたい。


数分後…
「セレネーそろそろ終わらせるね。」
男達の巫力が消費してきたのを確認した絢芽は、セレネーに呼びかけた。
<<ハイハイ>>
セレネーの気だるそうな声が聞こえた。次の瞬間。


その場はシンと静まり返った。男たちは何が起きたか分からず、呆然と立ち尽くす。
体には傷一つないが、底知れない恐怖で縛り付けられ動くことが出来なかった。
「じゃあね。私急ぐから。」
そんな男たちを余所に絢芽は手をヒラヒラと振ると駆け出した。


「彼女の圧勝。一瞬だったね。」
2人の戦いを傍で見ていたマントの少年はそう言ってほほ笑んだ。
「それにしてもさすがだね、絢芽。」
一体どんな能力なんだい?
それはあまりに一瞬の出来事で、少年にも何が起きたのか把握することが出来なかったのだ。
しかし少年は笑顔を崩すことなく星と月が綺麗に輝く空を見上げた。


2人には言ってあげた方がよかったかな。あの子には気を付けた方がいいって。
少年は心の中でそう呟くと、楽しそうに声を上げて笑った。




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