10.ひざまくら
それは、とある昼下がり。
藍の一言がきっかけでした。
「ユエ、ひざまくらをしてほしいんだ」
「はい?」
ぽかぽか陽気な今日この頃。ユエ達は何故かソファの上で正座をして、向かい合っていた。
「藍ちゃん…?もっかい言って?」
「だから、ひざまくらをしてほしいんだけど。何?耳遠くなったの?老化にしては早すぎるんじゃない?」
何か辛辣な言葉が聞こえたのは置いておいて。多分また藍の知的好奇心が刺激されたんだろう、とユエは考える。
ちら、と藍の方を向くと…
(うわあっ!すっごい期待した目で見てる!!!)
「何?駄目なの?」
「い、いや…駄目ではないんですけども…」
だってこんなに美しい彼氏サマ。ひざまくら位どうってことない。むしろ藍からしてほしいって言ってくれて嬉しく思う。
…思うのだが。
「駄目じゃないなら早くしてよね」
「うぅっ……承知致しました…」
藍の機嫌が悪くならない内に早々と降参。機嫌を損ねたら一瞬にして穏やかな休日が地獄のトレーニングdayに早変わりだ。
ユエはソファに座り直してぽんぽん、と自分の膝を叩いて藍を呼ぶ。
(どうか何も言われませんように…)
「じゃあ…」
そう言ってゴロン、と寝転ぶ藍。
(あ、これはワクワクしてる目だ)
藍がユエの膝に頭を乗せるのに合わせてマリンブルーの髪が広がる。
さら、と流れる髪をユエは手で優しく透いた。
(相変わらず綺麗な髪だなぁ…悔しい)
「うん…悪くないね…」
「ほんと?」
気持ちよさそうに目を閉じる藍に安心するユエ。どうやら気付かれずに済んだらしい。
「でも…」
(ドキッ!!!!)
藍が目を開いてユエを見た。その瞳に射抜かれてユエは冷や汗をかく。
「ユエ、ちょっと太ったんじゃない?」
ぷに、と藍がユエの太ももを軽く摘まんだ。
「あああああ藍ちゃん!!!!それ言わないでよおおお!!!!!!」
「ちょっ…大声出さないでよ、ウルサイ」
「だって気にしてたんだもん!!」
「まぁ日本人の平均的な身長に対する体重を少し上回ったぐらいだね。少しトレーニングすれば体重は落ちるんじゃない?」
「体重は落ちても腰回りのお肉様がさよならしてくれないんですぅぅっ!!!」
そう…特に太ももは肉が落ちないということでユエが日頃最も気にしていた部分。ひざまくらをすれば直ぐ様少し太くなった事がバレてしまうと思ったのだ。
「うぅ…太もも痩せるまでひざまくらしない、絶対…」
「え?あ、ちょっと!」
泣く泣く膝から藍を下ろそうとすると、焦った藍がユエの太ももを掴み押さえた。
「きゃっ…!藍ちゃん…?」
(どこ触ってるのよ…)
「駄目、動かないで」
と、子犬の様な瞳で懇願される。
(あああああ藍ちゃん!!なにそれ、可愛いすぎるよぉっ!!!)
だがしかし、女としてのプライドを抉られた傷は深い。
「いえ…太もも痩せして参ります…こんな怠慢した太ももに藍ちゃんを乗せる訳には…」
「いいの」
「え?でも世間一般的には太いんでしょう?そんなの辛い」
「ボクはいいの」
ユエの足に顔を埋めて、少し上目遣いで見上げる藍。そして不適に微笑んだ。
ドキッ…
胸がさっきとは違う音を立てる…。
「ユエのひざまくら、ふわふわしててキモチイイ。これはボク専用でしょう?」
(ダメだ…なんかムカつくけど、もうダイエットできない…)
顔を火照らせて、ユエはソファの背もたれに倒れ込んだ。
ひざまくら(藍ちゃんいつの間に、そんなにあざとくなったの…)
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