03.指先


「あ、あの…藍ちゃん?」
「なに?」
「いや、なにって…」

これは一体どういうことだろう。

ユエさ混乱する頭の隅で考える。藍の専属作曲家となってから早1年。大きな不安を抱えながら1曲1曲、自分が作れる藍の最高の曲を世に送り出してきた。

と、同時に膨らんでいく自分の想い。

初めて藍に会い、澄んだアクアマリンの瞳に射ぬかれてからユエは淡い恋心を抱いていた。最も、恋愛なんてスキャンダル、タブーな世界。恋人になんてなれる筈もないから作曲家という立場で藍の側にいようと決めた。

自分の想いには蓋をした。

…というのに、

(なんでずっと私の手触ってるの…)

新曲の打ち合わせに来たというのに、開始早々藍はユエの手を掴んで離さない。

藍の真っ白な指先がユエの手を行ったり来たり。

手の甲からゆっくりと辿っていき、昨日淡いパールピンクのネイルを施した爪を撫で、指を絡める。

(っ…そんなことされたら…)

心臓が速音を打つ。
隠してきた想いが溢れてしまう。

それは絶対に打ち明けてはいけないもの。

「あ、藍ちゃん!ほら新曲の打ち合わせするから手離して!」
「まだ駄目」
「駄目って…」

すかさず反論しようと口を開いたが、藍の言葉に遮られる。

「ユエの手凄く綺麗。ボクと全然違う」
「え…?」
「真っ白。枝みたいに細いし…爪も綺麗。ぎゅって力入れたら直ぐに壊れそうなのに触ってるの気持ちいい」
「な、なに言って…」

聞いてるこっちが恥ずかしくなる台詞を、藍は顔色1つ変えずに紡いでいく。

(そんな風に言われたら…)

−…期待してしまう…

「藍ちゃん、もしかして何かエラー起こってる?」
「なに?人がせっかく褒めてるのに。失礼だね」
「い、いや…失礼ていうか、どうしたの?急に」

ふと、藍が顔を上げ、ユエを見つめた。

(あ…今日も綺麗なアクアマリン…)

私が好きになったアクアマリンの瞳。

「急じゃないよ」
「え?」
「ボクはいつも君に触れたいと思ってる」

顔に熱が急速に集まる。

「え…え?藍ちゃん…どういう…」
「ふふ、顔真っ赤。ユエはもうとっくに気付いてるんだと思ってたけど」
「え、え?気付く?」

そう。
と言いながら、さっきまでユエの手をなぞっていた藍の指先がゆっくりと持ち上げられる。

女の子に負けない位白く細い指先が辿り着いた、その先はユエの唇。

藍の指先がユエの唇をゆっくりとなぞった。

「ボクの気持ちに」

ドキン…と胸が一際大きな音を立てた。

何も言えず、口をパクパクと開閉させていると、藍は魚みたいと微かに笑う。

「次の新曲」
「え…?」
「次の新曲で1位を取れたら、ボクの気持ちをユエに伝えるよ」

だから、いい曲作ってよね。

そう言って藍は、ユエの唇をなぞった指先にキスをした。


指先

(藍ちゃんの指先から)
(目が離せない)













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