桜舞う、君との出会い


4月。

早乙女学園学生寮の入り口に立つ1人の少女。名前は月村ユエ。

「…」

入学式を明日に控え今日は入寮日。入試を無事に乗り越えた入学生達がこれからの学校生活に胸を弾ませながら各自自分の部屋へ向かっていた。

かく言うユエも例外ではなく、窓の外の舞い散る桜の花弁を見つめながら寮の廊下を歩く。

(楽しみ…)

微かに弾む心を感じながら、この早乙女学園への入学のチャンスを与えてくれた人物を浮かべた。




−1年前…

母を亡くしたショックから立ち直れずにいたユエの元に訪れたのは、早乙女学園理事長のシャイニング早乙女だったのだ。

「早乙女学園へ来ないか」

突然の登場と勧誘に驚いて言葉が出なかったのを覚えている。

母の昔馴染みの知り合いだったことは、それから暫くしてから知ったのだが。




(此所が…)

指定された部屋を見付けると、ルームシェアをする相手は既に入室しているようで。部屋の中から物音がする。

ドアの横に取り付けられたネームプレートにはユエの名と、

"十村 まつり"

(まつり…ちゃん…っていうのか…)

不安で震える手でユエはドアをノックした。

恐る恐る入室し部屋の中を覗くと、見えたのは綺麗な濃紺の髪。ノックの音に勢い良く振り向いた少女は黒曜石の様な瞳を見開いた。

(わぁ…かわいい人…)

ユエが見惚れていると、まつりは勢い良く立ち上がり真顔で早足に近付いてくる。

(え…!?)

ただならぬ雰囲気にユエは少し後ずさる。もしかして部屋を間違えた、と焦っていると、目の前に来たまつりはユエを押し倒す勢いで抱き付いてきた。

「!?」
「…かっ…かわいいー!かわいすぎるよ貴女!私の今まで出会った美人ランキング堂々の第1位入賞レベルだよーっっっ!!!!!」

唐突な抱擁と誉め言葉に思考が停止する。呆気に取られるユエを見て、まつりは可笑しそうにふふっと笑う。

「えへへ…びっくりさせたかな?ごめんね?同室の十村まつりですっ!よろしくね、ユエちゃんっ」

自己紹介を終えたまつりを見て、はっと我に返ったユエは鞄の中から一冊のスケッチブックを取り出して、何かを書き始めた。

「ぬぬ?ユエちゃん…どうしたの?」

書き終え目の前に差し出されたスケッチブックを見ると、

『月村ユエです。よろしくお願いします』

と、綺麗な字で書いてあった。

突然の事に戸惑うまつりを見て、申し訳なさそうにユエは眉根を下げる。そしてその下に続けて文字を書いた。

『驚かせてごめんなさい。私は失声症という病気で声を出すことが出来ないんです。普段はこのスケッチブックで筆談をしています。』

「し…っせいしょう…?話せないってこと?」

『はい。ご迷惑でしたら先生に頼んで部屋を変えてもらうことも出来ますから』

出来ることなら、私のことを拒絶しないでほしいけど…

期待と恐怖が半分ずつ。何も言わないまつりの顔をちらりと見ると、まつりは少し怒った顔をしていた。

「なんで同室変更しなきゃいけないの!まつりはユエちゃんがいいっ!」

その言葉にユエは驚く。今までで声を出すことが出来ないと言って微かに困った顔をされることがほとんどだったのだ。しかも初対面ならば尚更。

「まつりはね!人を見る目には自信があるの!まつりが見た感じユエちゃんは絶対いい子だよっ!!私の勘がそう言ってるの!!間違いない!!!声が出ないのは悲しいことだけど、ユエちゃんがいい子なことには関係ないよっ!!」

そう早口で捲し立てられ、ユエは言葉に詰まる。一気に言い切りまつりは少し息を弾ませてユエの手を握る。

「だから…自分の事迷惑だなんて、そんな風に悲しく考えちゃ駄目…」
「…っ…」

ユエよりも泣きそうな顔をしたまつりに目頭が熱くなる。

こんな事言ってくれる人初めて−…

「ユエちゃんは…まつりと同室なの嫌…?」

不安そうなまつりの声に慌てて大きく首を振る。

「えへへ…じゃあ改めてよろしくね!ユエちゃん!」




(桜舞う。出会ったのは暖かい人。)


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