真白な雪の精


−早乙女学園入試会場−

「はぁ…此所が早乙女学園…」

雪が降り積もる季節。七海春歌は早乙女学園の入学試験を受けに来ていた。真白な雪の中、彼女の明るいピンクの髪が一際目立つ。彼女の眼前に立ちはだかる、とても学校とは思えないような荘厳な建物に圧倒されて、春歌は微かにため息を吐いた。

早乙女学園−…倍率200倍を越える超名門アーティスト・作曲家養成学校。卒業と同時に行われるオーディションで合格した者はシャイニング事務所への所属、デビューが決まっているのだ。この超難関校に入学するべく全国からデビューを夢見る少年少女が集まっていた。

かく言う春歌も、もちろんその一人で。

(がんばらなきゃ…!)

小さくガッツポーズをして勢いよく足わ踏み出す。

…が。

「きゃっ…!」

積もった雪に足を取られ、転んでしまった。

(うぅ…恥ずかしい…)

他の受験生達は雪に染まり真っ白な春歌を横目で見ては通りすぎていく。倒れた身体を起こし、立ち上がろうとすると…

スッ…

静かに差し出された雪にも負けない程白く、小さな手。驚いて顔を上げると、

(わぁっ…すごく綺麗…!!)

色素の薄い、日に透けて輝く金色の髪。雪に反射して輝く長い睫毛に縁取られた大きな銀灰色の瞳。白い肌に映える桜色の唇。

万人が納得するであろう美少女が春歌に手を差し伸べていた。

しばらく少女に見惚れていた春歌だが、少女が不思議そうに首を傾げたのを見て我に返る。

「あっ…あ、ありがとうございます!」

春歌は慌てて手を取り立ち上がった。

身体に着いた雪を、少女は優しく払っていく。大方、雪が落ちたところで、淡いピンクの小鳥が刺繍されたハンカチを差し出す。

「え…」

(使っていいってことですか…?)

戸惑う春歌に構わず、ハンカチを手に持たせて、柔らかく微笑み少女は校舎の方へ歩いていった。

(な、なんて素敵な方…)

遠ざかっていく後ろ姿を見ながら春歌は頬に熱が集まっていくのを感じた。

(私、あの方とお友達になりたいです…!)

高鳴る鼓動を感じながら、春歌は早乙女学園へ足を踏み入れた。



(貴方はまるで…)



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