黒の感情


「あーっはるちゃん、友ちゃんおはよっ!!」
「あぁ、ユエ、まつりおはよう」
「おはようございます」
『二人共おはよう』

課題曲の作詞が終わった翌日。教室へと続く廊下で出会ったのはいつもの四人。

「まつりは課題曲進んでるの?Sクラスの方がちょっと厳しいって聞いたわよ」
「そだねーまぁまつりにかかればチョロいものよねぇ」
「あっそ」
『春歌ちゃんは進んだ?ペア聖川くんだったよね』
「う、うん…でも私足引っ張ってばっかりで…」

春歌は少し悲しそうに目を伏せる。その表情からは焦り、不安などが読み取れる。

「はるちゃん!!まだ時間はあるよ!!これからどうにでもなるよ!!」
「そうよ、まぁ様優しそうだし。焦らずやらなきゃね」
「あ、ありがとう……そ、そうだ!ユエちゃんはどうですか?一十木くんとペアなんですよね?」

自分の不甲斐なさを悟られまいと春歌はユエに話題を振る。この時、ユエは春歌が悩んでいる問題はもっと別の事である、ということに気付いていなかったのだが。

『昨日作詞が終わったよー後は音也くんと相談しながら編曲しようかな、って』
「ふーん、さすが仕事が早いわねユエは。ていうか、あんたいつから名前で呼んでるのよー」
『え?音也くんが名前で呼んでほしいって』
「あー…そっか…(音也の下心に気付かないなんて大概天然ね…)」
「気安くユエちゃんの名前を呼ぶなんて、まつりが許さないんだからーっ!!!!」

(やっぱりユエちゃんはすごいな…)

ふと、足を止めて春歌は思う。

遠ざかっていく3人の背中。今の状況を明確に表していると思う。

自己紹介の時、初めて彼女の演奏を聞いた時から薄々感じてはいた。

彼女は、ユエは他の者とは違うのだ、と。
彼女は逸脱した才能を持っているのだ、と。

素人の目から見ても分かる、明らかな差。

今の様にユエは自分よりも遥か先を歩いている。

「私も…ユエちゃんみたいに……頑張らなきゃ…」

何とか自分を奮い立たせようとするが、気持ちは想像以上の重さだ。溜息をついても、ついても無くならない、胸中にある黒い靄(モヤ)が春歌の中でひたすら渦巻くのであった。



ガラッ

「おっはよー」

春歌よりも一足先に、教室に着いたユエと友千香。いつもなら、クラスメイトからの明るい挨拶が返ってくる筈なのだが、

…今日は少し違った。

「な、何?どうしたの?」
(…?)

二人を迎えたのは沈黙。何を言うわけでもなく、クラスメイト達は二人に視線を、送り続ける。

ふと、ユエは黒板に視線を移す。視界に黒板を捕らえた瞬間、ユエが目を見開くのと、後ろから音也、真斗、那月がやって来るのは同時だった。

「おはよー…って友千香どうしたの?」
「…おはよ、いや私にも…」

誰よりも早くユエは黒板へと走る。黒板に書かれた文字を消そうと黒板消しを手に取った。

ユエの行動を目で追っていた友千香達にも漸く状況が掴める。

(早く、早く消さなきゃ…こんな言葉、春歌ちゃんはまだ見なくていい…!!)

「おはようございます、皆さん……って…え……?」


黒板に書かれていたのは、春歌へのたくさんの侮辱の言葉だった。



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