想いを込めて.2


『今からyueの曲を弾くので歌ってくださいね 』
「ええっ!?急に…」

急なことで戸惑っている音也を無視してユエは鍵盤に指を滑らせる。それはyueの代表曲とも言われる曲。

「これ…オレが好きな曲…よーしっ」

流れるメロディーに合わせて音也が歌い出す。



「…はあっ…たっのしかったー!!」

歌い終り額に汗を輝かせた音也がへたっと床に座り込む。その様子を見ながらユエは笑いながらスケッチブックを見せた。

『今の曲どうでした?』
「うーん…すごい背中を押される曲だよねっ!!一人じゃないんだよって…一緒に頑張ってみようって言われてる気がするなぁっ」

(一十木くん間違ってないです…)

yueが誰かを応援したくて作った曲。歌を歌うことで皆の傍に居るということを伝えたかったのだ。yueの想いが音也に伝わっていたと分かってユエは嬉しくなって頬を緩めた。

『そうですね。yueもおんなじことを考えてたと思います』
「…へへっ、そうだったら嬉しいな」
『はい。じゃあ次は課題曲を歌いましょう』
「…へ?でもオレ、歌詞まだ…」
『構いません。適当でいいんですよ』

鍵盤を打ち鳴らし課題曲を奏でる。戸惑っていた音也もメロディー音だけを歌い始めた。

軽やかなメロディーが鳴り響く中、音也はピアノを弾くユエを見つめる。

春らしい和やかな陽の光がユエの髪を柔らかく照らしている。

ユエの髪がキラキラと輝いている。

(綺麗…月村はオレに何か伝えようとしてくれている…)

二人を包む雰囲気は柔らかくて、彼女から何故か目が離せなくて。

(月村…オレ…)

流れるメロディーに乗せてまだ気付かない何かへの想いが大きくなっていく。

もう少しで気付けそうな所まで来た、と同時に曲が終わった。

「あ…」
『一十木くん、この曲で何か伝えたい想いは見えましたか?』
「月村…オレ…」

にこり、と微笑むユエに音也の胸がドキンと音を立てた。

そのまま伝えてしまいそうになる。

しかし、その瞬間

"恋愛禁止"

その言葉が頭を過ぎった。

(言っちゃ駄目だ…)

首を傾げて不思議そうに自分を見るユエ。彼女にこの想いはまだ伝える事は出来ない。

「月村!!オレねこの曲、恋の歌にしたいんだー!!」

せめて君への想いを乗せて歌うよ。

『素敵だと思います!一十木くん』

その笑顔にまた、音也の胸が鳴った。





「はぁーっ!!作詞終わってよかったあーっ」

あれから詞を書く手は止まらなくて。結局作詞が終わり帰ろう、となったのはすっかり日が落ちてからだった。一人では危ないからと音也に寮まで送ってもらう。

『一十木くんの慌て様凄かった…』
「だ、だっていつの間にか暗くなってるし…月村にまで付き合せちゃったし…」

トキヤに怒られちゃうよ、と言いながらもユエと一緒に居られる時間が増えて嬉しかったりして。

「あ、そうだ!!月村さ、敬語とかやめようよ!!オレの事も名字じゃなくて名前で呼んでよ!」
『え…いいんですか?』
「もちろん!!それでさ、オレも…ユエって呼んでいい?」

内心ドキドキしながら尋ねる音也。彼の思いは露知らず、ユエは勢いよく頷く。

『音也くん…なんか照れるね…』

なんて言って照れてるユエが可愛くて。

(やばい!!オレすっごい好きかも!!)

夜はふけていくのだった。




(トキヤ!!やったよ、オレっ!!)

(何なんですか、貴方…(嫌な予感しかしない…))



(ユエちゃん!!遅かったね、心配したーっ)

(ごめんね、まつりちゃん。音也くんに送ってもらえたから大丈夫だった)

(名前呼び!?男!!?)





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