春風melody/前編


「パートナーを探す為にも、まずはお互いをすることが大切っ…というわけで自己紹介しましょー!!」

教壇な立つ林檎が可愛らしくウインクをしながら言う。唐突に始まった自己紹介大会は自分の名前、コース、自己アピールというものだった。

「印象的な自己アピールは芸能界に入ってからも大切よ!楽器を演奏したり、ダンスをしたり…自分の得意なことなんでもいいわ!この人とパートナーになりたいって思わせるようなアピールをよろしくね!」

唐突な事に、生徒達はどうやってアピールするか、とざわつく。ユエも運良く教室に設置されているピアノを弾こうかと考えあぐねていた。ピアノは得意楽器の1つだったからだ。

「…じゃあ、誰からいこうかしら…」
「はいはいっ!りんちゃん、オレがやるよ!」

と、元気に手を挙げたのは音也だった。進んで出たトップバッターに回りからはおぉっと歓声が上がる。ユエも音也の自己紹介に興味津々である。

「アイドルコースの一十木音也!!15歳!好きな食べ物はカレーだよっ!ギターで弾き語りしますっ!!」

拍手が鳴り響く中、音也がギターで音を紡ぎ出し始めた。演奏する曲は−…

(え…!?これ私の曲…!?)

ユエがyueとして活動しているときに発表した曲だった。拙いながらも元気よく弾みながら、のびのびと歌い上げていく。その顔には太陽の様に眩しく輝く笑顔があった。

(すごい…一十木くんが歌うとこうなるんだ…明るくて、キラキラ…音が楽しそう…)

全く表情を変えた自分の曲にユエは大きな感動を覚える。楽譜は自分が作った物の筈なのに、違う曲の様だった。

「…ふぅ、オレが大好きな歌手のyueの曲だよ!!活動停止中だけど大好きな人なんだ!yueみたいにキラキラな人になることが目標だよ!ありがとうございました!!」

音也のユエこそがyueとは知らないとはいえ、真っ直ぐに伝える称賛の言葉にユエは顔が熱くなる。まさか、そんな風に思ってくれる人が学園にいるなんて思ってもみなかった。

「yueはまだすごい人気ねぇ…」

ちらり、とユエを見る林檎。その視線に気付きユエは顔を赤くして俯いた。

(林檎ちゃん…ばれないようにしてって言ってるのに…)

既に芸能界で活動していた者が学園にいるとなれば不快に思う者は少なくないだろう。それ故ユエはyueであることは明かさないという事を早乙女達に告げていた。

「じゃあじゃあ次はー…まぁ様ね!!」
「む…俺の事ですか」

怪訝そうな顔をしながら、真斗が立ち上がる。真っ直ぐな美しい姿勢で教室をぐるり、と見渡す。

「聖川真斗、アイドルコースだ。よろしく頼む。そうだな…特技と言える程の物かは分からないがピアノを演奏させてほしい」

教壇まで歩いていき、備え付けてあるピアノの前に腰掛ける。そして、1つ深呼吸をして真斗は男性にしては白い指先を鍵盤に置いた。

(わぁ…!)

紡ぎ出される音色は一瞬にして場の雰囲気を変えるもの。ピン、と張った心地よい緊張感に教室が包まれた。

(すごい…!しかもこの曲すごく難しい曲じゃ…!)

プロの演奏家でも難曲と口を揃えて言うほどの曲。それを完璧とは言えないまでも確実に、自分の物にして弾いていく。

(うぅ…私ピアノかぶっちゃったけど大丈夫かなぁ…)

最後の一音が鳴り終わり、教室は拍手に包まれた。

「きゃあ!まぁ様素敵だわ!さすがね」

林檎も大絶賛だ。女子の中には恋愛禁止と言われたにも関わらず、既に心奪われた状態の子も…。真斗は最初と変わらない姿勢で一礼をして席に戻っていく。

その時、近くの席の男子生徒の話がユエの耳に届いた。

「すげぇな…しかも聖川財閥の嫡男だろ?さすがだな」
「やっぱ段違いに違うよなー」

(聖川…財閥…?何か…聞いたことある…)

どことなく懐かしい響き。それはユエにも深く関わることでもあるのだが−…。

(まぁいっか…)

それが明かされるのはもう少し先の話。




(つぎはー…はるちゃん!いってみましょうか!)

(わ、私…!?は、ははは、はい!!)

(あ、春歌ちゃんだ!)




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