S class


学園に入学して一週間。

(林檎ちゃんは人使いが荒いのね…)

大量のプリントを持って廊下を歩くユエ。先程職員室に呼ばれ、何事かと思えばプリントを運んでほしいということであった。前が見えないほどのプリントを抱えてフラフラと廊下を歩く。

(うぅ…誰かに手伝ってもらえばよかった…)

後悔はしながらも、仕方がないと手に力を入れてプリントを抱え直した。

角を曲がった、その時−…

「うわぁっ!!」
「っ!!」

ドン、という音と共にプリントは舞い上がり、ユエは尻餅をついた。

(いたた…)
「わりぃっ!大丈夫か!?」

どうやら人にぶつかった様で、ぶつかったであろう相手−…帽子を被った小柄な青年が慌てて身体を起こさせてくれる。そして、廊下を埋め尽くしたプリントを拾い集めてくれた。丁度スケッチブックを持ち合わせていなかったユエは口の動きだけで「ありがとう」と伝える。

「お前…もしかして…」

驚いた顔の青年にユエはジェスチャーで声が出ないことを伝える。

「そ、そっか…お前が那月が話してたヤツだな!!」

(四ノ宮くん…?)

青年から口から出た意外な名前にユエは首を傾げる。すると彼もユエの言いたい事が分かったようで那月と同室なんだよ、と教えてくれた。

「那月がいっつもお前の事話してるぜ。確か名前は…月村ユエだったよな!俺様は来栖翔!Sクラスでアイドルコースだ!よろしくな!!」

そう言って太陽の様な笑顔で翔がユエに手を差し出す。ユエも握手に答えようと翔の手を握った…その時、

「おや?おチビちゃん、随分と可愛い子を連れてるね?」

耳元で低く甘い声がした。

ユエは咄嗟に耳を塞ぎながら後ろを向くと、そこには甘いマスクの長身の男性。着崩した制服からは胸元が大胆に覗いている。

(ほわぁ…な、なんかセクシー?な方が…)

「レン!!だから俺はチビじゃねーって!!!」

"チビ"という単語に異常に反応する翔を面白そうに見ながら、レンと呼ばれた男性はクスクスと笑っている。ユエがぼうっとよの様子を見つめていると、ふとレンのアイスブルーの瞳と目があった。

「ふふ、そんなに見つめられたら照れちゃうよ、レディ…良かったら君の名前を教えてくれないかな」

ユエの手を取り、その透き通る様な白い肌に口付けを落とす。

しかしユエは驚く訳でも動揺する訳でもなく、柔らかく微笑みごく自然な動作で手を離した。
自分が予想していなかった反応にレンは微かに目を開く。

(おやおや…随分手慣れたレディだね…何処かの御令嬢かな?)

「レン!!あんまりコイツに変な事すんなよ!…えーと月村ユエっていって訳あって声が出ないらしいんだ」

("月村"…?)

聞き覚えのある単語に思考を巡らせるレン。それは一つの答えに辿り着いた。

「レディはもしかして…月村財閥の御令嬢かい?」
「えぇっ!?ごっ…御令嬢!?」

レンのその言葉にユエは驚く。まさか家の事を言われるとは思っていなかった。

ユエのその反応を肯定と受け取ったレンは益々目を細める。

「これはこれは…お会いすることが出来て嬉しいよ、レディ」

洗練された紳士的な動作でユエの肩を抱こうとしたレン

…のその手はユエの肩に触れる前に阻まれた。ユエがレンの手を掴んだのである。

「おっと…」

ニヤリ、と口角を吊り上げたレン。

…しかし

「!」

次の瞬間、人差し指を桜色の唇に当て微笑むユエに目を奪われた。

(おやおや…)

とくん…と何かが自分の中で動く音がした。

二人の世界に置いていかれていた翔を振り返り、ユエはトントン、とプリントを指差す。

「あ、あぁ…運んでる途中だったのか?手伝うぜ!」

と、翔はユエの持つプリントを貰おうとするが…フルフルと首を振り、ユエは走ってその場を後にした。

(あんまりお家の事には触れないで欲しいんだよな、あの人…ん?そういえば名前聞いてない?)

ユエは弾む吐息の中に1つだけ溜め息を混ぜるのだった。




「…なぁレン、月村財閥って…」
「あぁ、そこまで大きくはないんだけどね。長い歴史を誇る財閥で…確か音楽関連の方面で業績を挙げていたかな」
「へぇ、すげぇな…お前ん家といい、月村の家といい…」
「まぁ彼女はあまり家の事に触れてほしくないみたいだけど」
「そうなのか?」

ふーん…と、俄返事をする翔の隣でレンはユエとの出会いに秘かに心を踊らせる。

(不思議なレディだ…ちょっと気になるね…)

それは冷めた自分の心に暖かい光を灯す様で…レンは自分でも無意識の内に頬を緩ませるのであった。




(あれ?…そういえば月村財閥には将来有望の長男がいるって噂を聞いたことがあったような…)





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