(マジカル・ロウ)


初めは、ただの仕事であった。

彼女を笑わせろと。

ただの任務であったのだ。


(マジカルロウ!)


花の様な彼女の笑顔が私の心を変えていったのだ。

嗚呼、

私は彼女がとても大切で
とても大切な存在になってしまって、
いつしか、彼女を笑わせることは、私の任務ではなくて、私の意思へと変わっていってしまった。


「また、城を襲いに来た連中がいんのか!?」


廊下を進めば、アランの大きな怒鳴り声が聞こえてきた。

またあの男は大きな声を出して。


「どうしたのです、アラン。朝から大きな声を出して。」

「ん?おぉ、マジカルロウか。」


こちらを振り返った彼の腕は本当に逞しく、姫様を守る為の腕だと私を淋しくさせた。


「また、ここを狙った奴らが現れたらしいんだ。」

「そう、ですか」

「おう、まぁ、俺様がすぐ倒して来るから心配すんな。」


お前はスノウを守ってりゃいいんだよ。

ぱふぱふ、と頭を撫でられる。
彼の手の平は余りにも大きくて、私は涙が出そうになった。

強がってその手から逃れる様に早足にスノウ姫の元まで向かった。

嗚呼、心がざわつく。


「姫様、私です。マジカルロウでございます。」


こんこん、

白い彼女の部屋の扉を叩く。


「ロウ!」


ばたん、開いた扉にぶつかったフリをして、扉の端からアランの人形を出す。


「おい、スノウ。そんなに急に扉を開けたら怪我するだろう!」

「わぁ!アランだ!」


扉から顔を出せば彼女は本当に嬉しそうに微笑んで、私の服の裾を掴んで部屋に招き入れた。


「ロウ!今日は何して遊ぶの!」

「そうですねぇ、」


その時だった。
ばたばたと慌ただしく動き回る城内の使用人たち。
私は急いで扉を閉めたが、その姿が彼女にも見えてしまったのだろう。
今日は何か違うと。


「ロウ、今日は皆どうしたの?」


純粋に私へ疑問を投げかけてくる彼女の不安そうな表情に、私はなんだかいたたまれない気持ちになった。


「大丈夫ですよ、姫様。」


私めが、姫様を笑顔にして差し上げます。

そう言って目の前に、真紅のバラの花束を差し出した。


「わぁ!すごい、ロウ!ありがとう!」


大きな花束を受けとった彼女の笑顔に、私はもっと強くなりたいと思った。

できるなら、彼女を守れるほどに。
ただの道化より、守れる騎士になりたいと願ってしまったのだ。

無垢で愛らしい彼女の笑顔に、私もまた笑顔になるのだ。







ロウさん切ないですよね…板挟み的な、従うべき人と守りたい人との。最後はちゃんと大事なものがわかるんですね。
余談ですがロウさんのメイクを落としてみたいです。


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