(イヴェサン 暴力表現有)






どん、という鈍い音。次に、かしゃん、というガラスが割れる音。あぁ、また始まったな、とぼんやり考えた。


「っ、イヴェ…」


「うるさい」


鋭い平手が俺の頬を捕える。ぱしっ、という軽い、けれど痛い音を、どこか客観的に聞いた。前髪を掴み上げられ、乱暴に唇を重ねられる。荒く長い口付けに息を乱すと、相手の口元が歪んだ。その次の瞬間には思い切り鳩尾を殴られて、そのままよろよろと壁に寄りかかった。


「っ、は、ぁ…っ」


苦しくて、その場に腹を押さえながら座り込む。今度は髪を乱暴に掴まれて引っ張られ、立ち上がらざるを得なくなり、仕方なくその力に従って立ち上がる。もう一発、鳩尾を殴られた。もう、息をするのが辛くなっていた。なのに、相手は構わず首に手を回す。今日こそ殺されるかな、と思った。そこで、相手が口を開く。


「…抵抗しないのか」


「ぁ…、っ、は、愚問だな…」


お前に死を望まれてるのに、それでも生きたいと思うほど俺は生に執着してないよ、と途切れ途切れに紡ぎ、笑う。相手の手に込められた力が弱まって、荒いながらも呼吸ができるようになり、思わずむせた。苦しさに限界がきて、またその場にずるずると座り込んだ。相手も俺の目線に合わせるように、その場に座る。そして静かに俺を抱き締めた。


「…ローランサン、…ごめん」


ごめんな、と何度も呟くような謝罪を繰り返す。けど、俺もこいつも知ってるんだよ。


また、繰り返すってこと。






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