(イヴェサン 微妙に危ない表現有)





「ちょっ、ローランサン…っ」


イヴェールの両手がローランサンの両手を掴む。勢い良く掴んだため、反動でローランサンが利き手に持っていたものがからん、と金属特有の音を立てて床に落ちた。虚ろな瞳が美しいオッドアイに映る。目を合わせているはずなのに、イヴェールは全くそんな気がしないでいた。


「お前はまた…っ」


ローランサンの腕には紅い線がひとつ。ひとつと言ってもそれはなかなか深いものであったらしく、すぐに紅い液体が溢れ出てきた。また何かに染みを作ってしまう前に、とイヴェールが持っていたハンカチでその液体を、傷に触れないように拭く。もちろん次から次へと溢れ出るそれを一度拭ったところで意味はないけれど、そのままローランサンを洗面所に強制連行することでなんとか絨毯にその液体が滴ることを防いだ。


「ローランサン、おいってば」


何度か名前を呼ぶも、彼はなかなか正気に戻らない。ぼんやりとオッドアイを見つめるだけで、返事をしない。仕方なく、イヴェールはとりあえず治療を始めることにした。




「…うん?イヴェール?」


包帯を巻き終わったところで、ローランサンが間抜けな声をあげる。はい終了、とイヴェールが溜め息と共に告げると、え、また?と怪訝そうな表情をした。


「あれ…またやったの?」


「あぁ。また、だ」


今度は深いから治るのに時間がかかる。へぇ、そっか。悪いなイヴェール。ローランサンの手がイヴェールの首に伸びた。


「…サン?」


「絞めていい?」


ぐ、と手に力がこもる。僅かに気道が圧迫され、イヴェールが眉をひそめた。でもそれは一瞬のことで、すぐに苦しそうにしながらも微笑んでみせた。それで気が済むなら絞めな、と。ローランサンの動きが止まる。そのまま手を首から離し、イヴェールに抱きついた。


「…イヴェール?」


「ん?」


「…ありがとう、な、いつも」




少しでも力になれるのなら嬉しいんだけど、どうなんだか。イヴェールはローランサンに気付かれないようにこっそり苦笑した。





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