(盗賊)
「おい起きろ」
「っいってぇぇえ…!」
人がせっかく気持ち良く昼寝してたのに、冬の名を持つ相方はその名のごとく冷たく俺の頭を叩いた。力一杯、じゃないけど素晴らしい手さばきで、ダメージでかい。痛い。
「な、なんだよ…」
一瞬怒鳴りそうになって、彼の纏う雰囲気に気付き止めた。何というか、怖いから止めたんじゃなく、怒鳴る気を無くす感じ。ふわふわした笑顔を浮かべ、俺の言葉に更にふわりと笑った。普段の相方とはまるで違って、正直驚いた。
「…イヴェール?」
「サン、散歩してこよう」
暖かい笑みを浮かべたままイヴェールはそう言った。そこで初めて俺は悟った。こいつは今半端なく機嫌がいい。…というよりはむしろ、今だけは何しても怒らないと思う。笑って流されると思う。何故か。それは間違いなく俺の昼寝の相棒、この春の暖かさ。今日は本当に気持ちいい。彼の季節が去った今、日は段々高くなり、所々に花が咲く。淡い桃色の似合う季節。
「行こ?」
イヴェールが手を差し出してきた。その手をとって、2人で外へ出た。
午後の陽射しはどこまでも暖かく優しく。それでいて少し強い風。相方の風になびく髪がきらきら光って、すごく綺麗だった。それは静かな街の時間に、一つの輝きを与えていた。
「あったかいな…」
俺がつぶやくと、俺より少し前を歩いていたイヴェールが後ろを向く。その瞬間に揺れる髪が眩しい。
「冬と、どっちが好きだ?」
「……、ずるいぞその質問は…」
冬だよな、と笑って嬉しそうに俺の手をとる。冬がこんなに暖かかったら、雪なんて降らないだろうなと思った。
「お前が冬ならいいのにな…」
「は?俺は冬だろう?」
首を傾げられる。そうだな、お前は冬だな、と言ったら生意気、と頭を叩かれた。
冬がこんなに暖かかったら、もっとこいつは光るのになぁ。もったいない。けど、寒い季節あってこその春だ。短い輝きも、趣があるじゃないか。
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