(イドッテレ♀ 現代ではなさげパロディ)










真っ白な指先。美しい金の髪。



髪を細い指が滑っていく感覚が心地よくて、その手のひらに頭を寄せる。くしゃくしゃと髪を弄んでいた指は、ゆっくりと首筋へ降りていった。
情事の後のけだるさの中でぼんやりと思い浮べた影。
叶わない。解っていたから、最初から諦めていたつもりだった。なのに、その影を求めてこの始末。笑えない笑い話だ。自嘲せざるを得ない。
シャツ一枚だけを纏った身体に触れる手が、どこまでもそれを連想させる。胸に顔を埋めた時に視界に入る金も、どこまでもそれを連想させる。

許されぬ恋なんて、ロマンチックの代名詞。禁断の恋、乙女には甘い響き。その切なさに憧れるもの。
実際憧れなんて抱くもんじゃない。そんな乙女たちは考えを改めた方がいいような気がする。切ないどころじゃない。もどかしさに身を切られ、苦痛に心を焼かれる。手を伸ばせど伸ばせど、永遠に叶わぬとわかりきっている想いは本当に叶わぬものだ。

緩やかに口付けを落とされる。その仕草はとても優しいものだった。甘い時間。優しい時間。何処かでそれを否定し崩してしまう自分。哀しさと恋慕。
手が胸に触れた。情事の最中に触れるような感じではなく、そっと撫でられる。今目の前にいる彼は、胸は大きい方が好みらしい。どうして僕を選び、僕を抱くのかがよくわからない。僕は、決して大きい方ではないのに。尋ねたら君が気に入っているからだと答えられた。よくわからなかった。





彼女の心の内に何者かの影があることには最初から気付いていた。彼女は私をみていない。私を通して、他の誰かをみている。しかし、それは決して腹の立つことではなかった。むしろ、それでいて私に近付いてくる彼女に、興味が湧いた。ひどく、彼女を気に入っていた。
未だに嫉妬などといった感情は姿を見せない。これほど一人の女性と長く続くのは珍しいが、これほど相手に興味があるのもこれほど恋愛から程遠いのも初めてのことだった。
そしてある時、私は気付くこととなる。彼女が本当に想う、その影の正体に。
彼女を自宅まで送り届けた際のこと。今は家を出て一人で暮らしているらしい彼女の自宅に、来訪者があった。彼女と瓜二つの、いやむしろほぼ同一の、美しい青年。笑い方までそっくりで、彼はお話は妹から聞いています、と柔らかく笑った。それで私は彼が彼女の兄であることを知る。しかし、重要なのはそこではなかった。彼と共に彼女の家に上がらされ、そこで感じた妙な違和感。普通の、双子の兄妹である。なのに、何かがおかしい。

(あぁ、彼女の笑い方)

ふと気付いた。彼女の笑顔は、よく見知ったものではなかった。あの、優しく柔らかいだけのものではない。優しさも柔らかさもあれど、そこに僅かに含まれた「女性」の表情。私には見せないもので、だからそこに違和感があったのだ。
彼女は叶わぬ恋をしていた。叶うことがあってはならない恋。しかし、それに気付かないふりをしながら彼女の傍にいるのもまた、私は楽しさを感じていた。

「…どうした?」

不意に彼女が私に抱きついてきた。寝台の上で。私の声に、ゆるゆると首を横に振り、何でもないと彼女は呟くように言った。どうやら何でもないらしいので、ゆっくりと彼女を引き剥がし、左の瞼に唇を落とす。珍しく彼女から顔を近づけてきたから、それに従って唇を重ねた。

「…貴方は」

「うん?」

「本当の僕が、…」

「本当の僕が?」

「何でもないです」

「見えているのか、と?」

「…」

「さぁ、どうだろうね」

多分、自分の気持ちを見抜いているのかという意味なのだろう。それならば、この答えで十分なはずだ。
彼女は再び私に抱きついて、そのまましばらく黙っていた。





その優しさに甘えていたかった。いつまでもいつまでも。その優しさに触れていれば、いつか自分ももっと強くなれて、恋の苦痛から解放されるんじゃないかと思った。そうなればいいのに。でも、恋愛とはいえないこの関係が邪魔だった。彼に甘えることは許されないことだった。この恋と同じだ。ただ傍にいるだけの彼に、自分を背負わせることはできなかった。
理由を話すわけでもなく、ただ彼に抱きつくその背中を彼の手のひらが優しく撫でた。そして、ゆっくりと抱き締め返される。居心地がよすぎて逆に辛い。





要するに、この関係は名前もない曖昧で不確定なものだってことだ。それを構成しているのが優しさと恋慕だってことだ。寂しい話だと、我ながらに思ったのだった。





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