(イヴェサン 学パロ)





雨が、降り始めた。






いつも変わらずだるくなる数学の授業が、雨のせいなのかいつもよりもずっとだるく感じられる。
眠いわけではない。シャープペンを持つはずの手には全く力が入らない。教師の声も、脳内スルー
状態。席が窓際であることをいいことに、一時間ずっと雨が降る様子を眺めていた。


「お前さ、バカだって自覚してる?」


「…え、何突然。酷くない?」


「今の時間、ずっと窓見てただろう」


「窓じゃない。窓の外の景色だ」


「授業を聞いていなかったことに変わりはないだろ下らない理屈こくな」


「…だって、だるかったんだもん。ってか何、イヴェールずっと俺のこと見てたの?なんだ同罪じ
ゃん。お揃いね私達」


「お前の頭をかち割って中を見たい。見てやりたい。」


「いやーんイヴェールのえっちー。何故なのよー」


「消えてなくなれ」


せっかくの休み時間なのに、第一声がバカだなんて酷すぎる。学校では、イヴェールは本当に酷い
。ものすごく冷たい。まさに冬。厳冬だ。早く帰りたいなぁ、色んな意味で、とぼやくとあと一時間だから集中して我慢しろと言われた。無理、という返事はチャイムにかき消された。






雨は、まだ降り続く。






「起立」


授業終了を告げるチャイムに心が踊る。半分放り投げるような形で俺はシャープペンを机に置いた。


「礼」


途端に教室がざわめきだす。あぁ、今日は帰ったら何をしようか、と考えていると自然と顔が緩んでしまう。よし、とりあえずイヴェールを誘おう。あいつも部活ないし、と心を弾ませた。






雨は、酷くなる一方。






その約一時間後、俺はイヴェールと2人で俺の家へ向かっていた。一時間かかった理由は、どうか
聞かないでいただきたい。俺のしょぼいながらも確かに存在するプライドに関わってしまう。


「お前のバカさにはあきれたよ。何でそんなにバカなんだ」


「っ、バカバカ言うなよ酷いな…」


「バカにバカと言うことに何か問題が」


「…ある、あるよイヴェール、気付いてほしいな、人をそんなに罵っちゃ」


「ダメだよ、ってか。そうだな、お前に限ってな」


「イヴェールは許されるんかい」


「当たり前。俺を誰だと思ってる」


「…イヴェールはイヴェールだ」


「イヴェール様だ」


「…ナルシ?」


「誇り高いと言え」


ものすごく下らない会話を繰り広げながら家路を辿る。どうしてこうもイヴェールは俺に酷いのか。


「…雨、止まないなー」


雨は、嫌いではない。けれど、傘をさしてもどこかが必ず濡れてしまうのが困りものである。今日も例に漏れず、制服の右肩の部分が少し濡れていて、少しへこむ。それに加えて、イヴェールの厳冬ぶりに、俺はため息をついた。楽しいけど、酷い。酷いけど、誘ったの俺。誘ったの俺だけど、ちょっと悲しい。






雨は、変わらず降り続ける。






「なあ、ローランサン」


「ん?」


「…お前んち行ったところで、何かするわけでもねえよな俺ら」


「頼むからそんなもとも子もないようなこと言わないでくれいつも語り合ってるじゃないか」


「話するだけだろ」


「いいだろそれで。俺は満足してるんだけど」


話をして、じゃれあって、笑って、適当に夕飯作って食べて、週末なら夜遅くまでゲームしたり、テンションにまかせて変な話したり。俺はそれで満足だけど、お前行きたいところあるのか?と尋ねると行き先はいいんだ、と返ってきた。じゃあ何したいんだよ。こう返ってきた。


「うん、今日こそは進展しようと思うんだよ。」






雨は、上がる気配を見せない。






お前が本当に嫌なことはしないよ、とにこにこと言った厳冬野郎が憎い。いや、本当のことを言えば、家に帰れば別にこいつは厳冬ではないのだ。初冬、もしくは晩冬くらいである。何故学校ではあんなに冷たいんだ、と尋ねたら恥ずかしいからだよ、と顔に嘘と表示されているような笑顔で言われたからもう聞かないことにした。


「…全部嫌なんですけど…」


「それは許さない」


矛盾してるだろ、と紡ごうとした口を手で塞がれた。思わず顔が熱くなるのを感じた。イヴェールの手が、イヴェールの冷たい手が、うわあぁ、と思考が停止した。


「…ぷっ」


ははは、とイヴェールが笑う。顔が赤くなったのを見たのだろう。要するに、俺たちはそういう関
係なのだ。好き合っているとはいえ、2人でいる時にイヴェールに手なんか握られたらもう立っていられない。だから、一緒にいるだけでいいから、話したりじゃれたりしてる。俺は今はそれでよかった。本当に、それ以上は全く考えていなかった。


「イ、イヴェール」


「ん?」


「…本気か?」


「冗談に見えるか?」


「…期待した」


「残念だったな」


そう言ってイヴェールは俺の両手の上に自分の手を重ね、ベッドに座る俺と目線を同じ高さにした。また、顔に熱が集まる。


「やじゃない?」


「…っ、ん…」


嫌じゃない。ただ、ものすごく恥ずかしい。耳も赤い、とイヴェールが笑った。笑うなちくしょう。


「これは?」


ぐっ、と軽く抱き寄せられる。うわぁ、もうダメ。何も考えられなくなる。数少ない認識可能なことに、顔が熱いということがあった。いや、むしろ全身が熱い。


「嫌?」


「…、………」


やっとのことで首を横に振った。そう、と優しい声が耳元で響いた。


「ローランサン、背中に手回せない?」


「……!!」


ダメ?なんてかわいらしく聞かれても困る。まずい、これは本気で恥ずかしい。体が熱くて、それでいてフリーズするのを感じた。


「ローランサン?…無理か?」


また耳元で響く、優しいテノール。俺は、恐る恐る両手をイヴェールの背に回し、シャツを握り締めた。もう限界だ。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。


「…サン」


「…ん?」


「…、離す、よ?」


ゆっくりとイヴェールが俺から離れる。俺は見てしまった。イヴェールの頬が、ほのかに赤いという事実を。


「…イヴェ?」


「…っ、もう無理…」


はあー、と深いため息。待て、ため息つきたいのは俺の方だ。もう一度名前を呼ぼうとすると、イヴェールが呟いた。


「お前、可愛すぎ…」






結局その後まもなくイヴェールは帰っていった。俺ももう色々な意味で限界だったから、止めずに見送った。イヴェールを送り出して、自分の部屋に戻り、ベッドにそのまま倒れこんだ。明日はきっとまともにイヴェールの顔を見れないだろう。まぁ、いいか。あいつも同じだろうと思う俺は自惚れているんだろうか。

雨は、明日も降り続くようだ。










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