君だけに

 
 
 
「名無し」
「………」
「おい名無し聞いてんのかよ」
「………」


何回目だよこのやり取り。何度名前呼んでも無反応だし表情は何か怒ってるし。つか、王子の事無視するとか何様だっつーの。折角談話室で暇そうにしてた名無し見つけたのにつまんねー。


「何かあんなら言ってみろよ」
「……ベルの堕王子」
「あん?堕王子じゃねぇし」


んだよ。口開いたら開いたで早速悪口かよ。何か気にしてたオレがバカみてぇじゃん。てゆーか、何拗ねてんだよこいつ。


「なぁ、何怒ってんだよ」
「別に。ベルに関係ない」
「テメェ………」


かっちーん。流石にオレでもムカついた。もう知らね。座っていたソファーから立ち上がり,名無しに見向きもせずに談話室から出て行った。








苛々する。なんなんだよほんと。意味分かんねー。あれが恋人に対する態度かよ。やり場の無い怒りをナイフに込め、壁に突き刺しながら自室へと足を進めていった。


「ベルちゃんっ」
「ゲッ……」


前方から歩いてきたのはオカマ…ルッスーリア。コイツ勘が鋭いし、こういう時に会いたくねーんだよな。


「さっき名無しちゃんを玄関の方で見かけたんだけどね…ベルちゃんと何かあったのかしら…?」
「オレは何もしてねーよ。つーか何があったかなんて、オレのが知りてぇし」
「そう…元気が無かったから心配で…。」


やっぱり何かあるよな。王子に隠し事でもしてんのかよ?まさか男?取り敢えず探しに行くか。名無し探してくる、と一言だけ残し玄関に向かった。








玄関まで行くと、扉の陰で座り込んでる名無しを見つけた。隠れてるつもりなのかもしんねーけど、普通に隊服見えてるし。近づく度にコツコツとブーツと床が当たる音が響く。どうやらその音に気づいた様で名無しの肩が少し跳ねた。


「……ベル、どうしてここに…」
「探しに来たからに決まってんだろ」
「っ……」


何故か辛そうな表情の名無し。王子に全部話せよ…、そう言おうとして口を開けば、悪いタイミングで後ろから声を掛けられる。見れば多分働いているメイド。名前も顔も知らねーけど、服装からしてそうだろ。


「あの、ベルフェゴール様…」
「わりぃんだけどさ、今取り込み中な訳。後にし「話し聞いてあげなよ」…は」


断ろうとしたオレの耳に届いた言葉を発した本人は、いつの間にか立ち上がっていて、瞳一杯に涙を浮かべていた。何で泣きそうになってんだよ…。


「チッ、話し聞くけど、名無しそっから動くなよ」
「えっ、何で…」


既に逃げようとしていた名無しの隊服の裾に数本ナイフを投げ、逃げられないように固定しておきメイドに向き合った。


「で、話って何な訳?」
「わ、私…ベルフェゴール様が好きなんです…それで…」
「あー、そういう話ならパス。オレには名無し居るし、一生離す気もねぇから」
「っ…」


名無しに少し視線を向けながら伝えれば、メイドは動けないでいる名無しをキツく睨みつけた。


「…もし名無しに何かあるようなら、お前オレがサボテンにするからな」
「し、失礼しますっ」


ナイフをチラつかせれば、メイドは顔を真っ青にして走り去って行った。








さてと…、やっと本題かよ。名無しの隊服と壁を通して突き刺さっているナイフを抜いてやる。


「で、お前はどうした訳?」
「…ベルが……」
「ん…、」
「自分の隊の女の子とかメイドと楽しそうに話してるの見て不安になって…、私じゃ不満なのかなって思ったら抑えきれなくて、ごめんなさい…ベルに当たっちゃって…ベルのせいじゃ無いって分かって…きゃっ」


そこまで言葉を紡いで泣きそうになっている名無しを自分の方へ引き寄せ、腕の中へ閉じ込める。んだよ、もっと早く言えっつうの。マジバカだろ。


「オレはお前にしか興味ねぇよ、だからあんまり深く考えんな…」
「っ…ベルっ…」


柔らかい頬を伝っている涙を指先で優しく拭い、顎を救ってふっくらとした唇に自分のそれを重ねる。そういえば、キスも久々にしたかもしれね。


「名無し…Ti amo」
「私もだよ…」


まだ涙の残る瞳を細め、優しく微笑んだ名無しにもう一度優しく口付けた。








.
君だけに

(好きなのはお前だけだっつーの。王子の傍にずっと居て良いのも居られるのも名無しだけだ)






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