それは幸せ

月が夜空で輝き、街のみんなが寝静まる静かな夜。
時計の針は午前3時を回り、暗い部屋の中でベッドライトの柔らかな橙の光だけが頬をやんわりと照らす。
チクタクと1秒を刻みゆく時計をぼんやりと眺めながら、シーツに散らばる髪を指先で摘み上げ、さらりと手を離す。そんな行動を繰り返して何度目だろうか、ガチャリと扉の開く音に気付けば、それを待っていたかのように起き上がりそちらに駆けていく。

「おかえりっ!」
「シシッ、ただいま」

扉を開けたのは隊服を着たベル。深夜の任務帰りにも関わらず、相変わらずの疲れ1つ見えない笑顔を浮かべてくれる。ぎゅっと抱きしめてくれるその体からは、外が寒かったことが窺えて、その体を温め直すかのように背中に腕を回した。

「寝てていいって言ったのに」
「だって...ベルが仕事頑張ってるのに先に寝るのは何だか申し訳ないし...」

くるりと体の向きを変えられては、後ろから抱きしめられるような体勢で部屋の中へと戻って行く。ちょっと着替える、とクローゼットに向かうベルの背中をベッドに腰掛けながら眺めていた。バサリと隊服を床に脱ぎ落とす仕草も、髪を掻き上げその綺麗な指から滑り落ちる髪も、一つ一つが綺麗でぽーっと見とれてしまうぐらいに魅力的で。

「...何見てんだし、変態」
「別にベル程変態じゃないからいいですーっ」

変態じゃなくても女性なら誰でも見とれてしまうと思う、なんてことは口には出さずに心の中にしまっておく。そのままポスリとベッドに横になりもう一度チラリとベルの方を見る。いつものボーダーのロングTシャツを脱いだその体は、細身に見えてもしっかりとついている筋肉に広い肩幅、スラリと伸びた長い手脚。それから自分しか知らないところも全部。
こんなにも全てが愛おしく感じてしまうのは恋人特権なのだろうかと呑気に考えながらゴロゴロとベッドに転がっていれば、背中の方でキシリとベッドの軋む音が聴こえ、後ろを向けばいつの間にやら着替えを終えていたベルが居た。

「ねー、王子疲れた」
「じゃあもう寝よ?もうすぐ4時になっちゃうよ」
「違ぇって。そうじゃなくて...」
「わわっ」

布団を被ろうと下の方に手を伸ばし毛布を引っ張っていれば、手を引っ張られて元の位置に戻される。寝ないのだろうかと問いかける前に、見上げた先、目の前には天井とベル。疲れていたのではないかと眉を顰めれば、どこか楽しげに口端ににんまりと笑みを浮かべているのが見えた。

「疲れたから、癒して」
「眠い」
「じゃあ無理にでもするし」

こんな時間に何を言っているんだと考えている時間もないまま言葉を言い返す前に唇に柔らかいものが触れる。それがベルの唇だと判断するのに時間はかからなく、やっと任務から帰ってきたベルと交わす口付けが嬉しくない訳ではなかったのだが、正直既に寝ようとしていたこちらからしてはもう寝かせて欲しいという気持ちがあり、夢へと誘う心地良い眠気とベルからの口付けに1人ふわふわとした気持ちになっていた。

「ん、ぅ...」
「っは...やっぱりこれしねぇとな」

何度も何度も角度を変えて啄むような口付けを繰り返され、酸素を求めて自然と唇が薄く開いてしまえば、そこからその機会を狙っていたかのように滑り込んでくるベルの舌。ここに来る前にココアでも飲んでいたのだろうと窺える甘味が相手の舌を通して感じられた。と、そんな呑気に口付けを受けている場合でもなくて、ベルのキスは上手すぎて毎度のことながら息は上がるは腰は抜けるは...おまけにはそういう気分にまでなってきてしまうぐらいに甘くて蕩けてしまう。そんなことになってしまえば思考回路すらもこの甘い香りに侵されて、抵抗出来ない間にベルの思い通りになってしまうだけ。熱く舌を絡ませ誘い込もうとするベルに、必死にそういう気持ちを反らそうとしていたのがバレていたのか、口付けまでに留まらず腰元を撫でられる。

「んんっ!ぅー...!」
「んっ、ん......っは、なんだし」

抵抗するように声をこぼそうとするも唇が重なったままでは篭ったような声になってしまい、そろそろ本当に落ちてしまうと確信すれば思い切って顔を横に反らした。
肩で呼吸を繰り返しながら相手の方に視線だけ戻せばムスッとした表情のベル。可愛い顔して...そんな顔しても今日は眠い。今日はその表情にまんまと乗ってしまわないように気持ちを落ち着ける。

「はいはい、おやすみー...」
「迎えてくれた時との温度差激しくね?」
「......何も聞こえませーん」
「カッチーン...」

あっ、と思った時には時既に遅し。ちょっと構いすぎなかったようですっかりベルの何かに火をつけてしまったらしい。これはまずい。このままいくと寝れないのは覚悟した方がいい感じだ。なんとか宥めようと閉じていた瞼を開けた。

「あー...ごめんね?」
「やだ」
「ほら、起きたらまたしてあげるから!」
「もう許さねー...」

覚悟しろよ。低く耳元で囁かれたその言葉に全身が甘く痺れ震えるのを感じた。ああ、夜はまだまだ長いようです。朝起きれなくてスクアーロに怒られても知らないんだから。そんな悪態を零しながらお互いの熱に沈みゆくシーツに身を任せ、再び甘く唇を重ねた。




(夜が明けるまで、2人。)
(ぼくたちの形はきっとー...。)




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