『……ねぇ、しっかりしてよ……』
『□かない□□……□はまだ□□□い……』
『そんなの、当たり前でしょ……変なこと言わないでよばかばかばか!』
『本□、最□□で□□いね……ごほっ』
『もう……喋らなくていいから、』
『どうせ……なら、□□□□□じゃ□くて……□□て□□□□ったな……』
『死ぬなんて簡単に言わないで……何で、何でアンタがこんな目に合わなきゃいけないの……何で……』
『□□□……』
『折角、アンタの大事にしてた刀を直してやったのに……どれだけ私が走り回って!苦労して刀を直したと思ってるの……っ!』
『まさか□□□は思□□か□□……□□□よ。けど……□□□は、□□□ってて□しい。』
『……何でよ、アンタのなんだからアンタずっと持ってればいいじゃない。何で私に……』
『頼む。□□の……□□□□□だ。……□□□ね。□□に□□られなくて。……そ□から、□□で□□□□□。』
『やだ、そんなこと言うなんてどうかしてる……やめて、よ……』
『□□□□くれて……□□、だったよ……□』
『っ、本当に、やめて……って、ば……』
『……□□□だっ□よ、□□……』
『!……っ、□□!!! ねぇ、起きてよ!起きて!』
『□□くん……っ、』
『……何で、こんなことになってんの……っ。死ぬとか……そんなの一言も聞いてないよ!』
『僕たちの姿が□□くんにも見えたら良かったのに……っ』
『……こんなの……戻ってきた意味、ないじゃん……』
*
『清くん、体の調子はどんな?』
『ばっちり!和音のお蔭でもうどこも痛くない』
『ほんと人騒がせなんだから清光は……ちゃんとお礼言いなよね!』
『なんて言ってるけど、安くんもとても心配してたんだよ?』
『ちょっと和音さん……!』
『ぷっ、和音も安定もありがと……!』
*
『ねぇ□□……私、嘘つきになっちゃうかも知れないや……。……□□は、こんな私を……赦してくれる、かな……』
『願うことなら、ずっとずっと一緒に過ごしたかった……』
『何もしてあげられなくて……ごめんなさい……』
*
『清くん、安くん。ちょっと出掛けてくるね』
『えっ、俺も行きたい!』
『僕も!いつもみたいに連れてって!』
『ごめんね、今日はちゃんとした格好で行かなくちゃいけない場所があるから刀は持っていけないの……ごめんね?』
『それなら仕方ないかぁ……』
『じゃあ今度また甘味処連れてってよ?約束!』
『本当にごめんね……行ってきます』
*
『あいつ、見覚えのある面だな』
『確か新撰組と吊るんでなかったか?□□□□と一緒にいたのを見たことがあるぜ』
『へぇ!そいつァ運がいいな!手土産はそいつの首に決定か!はははは!』
『死ねぇぇええ!!!!!』
『……っ!!?』
───嗚呼、“ふたり”にまた寂しい思いをさせてしまう……。……嫌だなぁ、まだ死にたくない。戻りたい……あの子たちの元に。……約束、したのに。なのに、こんなことになってしまうなんて……あの人に顔向けできないじゃない。 ごめん、ごめんなさい。こうなってしまったこと、私のしたことは一生許されなくていい。許されないことだと分かってる。……でもね、私のせいでまた悲しい思いをさせたくなかった。深く傷つけてしまうのなら、悲しまれるより、憎まれる方がよっぽどいいと思ってしまったの。 ……けれどもし、この命がここで尽きて、いつかまた、私じゃない私が彼らに会える日が来るのであれば……。次こそは、こんな運命になってしまわない様に──────。
『……っ、ぅ……ご、め……んね……っ───』
「……っ、」
そっと瞼を開ければ、つぅ、と目尻から何かが伝って零れ落ちた。手でそれを拭えば、紛れもなく涙で。……私は、泣いていた。
「……どう、して……」
違う。違う。こんな夢じゃなかった。あの夢に、こんなに沢山の言葉はなかった。沢山の感情は詰まってなかった。 覚えている……ちゃんと思い出しているのに、彼の言葉を見せてくれないのはどうして? 体を起こしながら、寝起きの頭を回転させる。たかが夢に、こんなに考えさせられるのは余りにも可笑しいのだが、私の夢は夢ではないということを既に知っている。そしてそれを表している本当の意味も私には分かり得ないと言うことだって、知っている。けれども、されど夢、なのだ。考えられずにはいられなかった。 いつも夢で起こされてしまう時間より今回は幾分とあたりが明るく感じる。時計に目をやればその感覚は当たっていて針は午前5時を指していた。 深くて重い溜息を吐く。立ち上がりそっと襖を開けば、冷たい風が一気に部屋へと入り込んだ。外気が全身の体温を惜しむ間もなく奪っていくのを感じ、思わず身震いをする。一旦部屋へと戻り袢纏を羽織って冷たい縁側へと出れば、薄明るくなっている空を見上げた。 目を覚まして考え事をするには丁度いい寒さと静寂かもしれない。外へ足を出すように縁側へ腰掛け、横の柱へ寄りかかる。季節はあっという間に冬。吐いた白い息が、空へ昇るように舞っては、すぐに消えていった。この本丸に大勢の者が住んでいるとは思えないほど、静かな朝だ。
「……日の出にはまだ早いのではないか?」
自分以外に起きている者がいないと思っていたから、その声には驚かされた。声の主の方へ顔を向ければ、おじいちゃんが立っているではないか。
「お早う主、朝が早いな」
「おはよう。そう言うおじいちゃんも早いね」
そうか?俺はいつもこの時間には起きているからな?なんて笑う三日月おじいちゃんから今まで知らなかった衝撃的事実を耳にした。朝が早いなんて本当に年寄みたいじゃないか。 でも言われてみれば確かにそうだ……だから袢纏の中に既に内番着を着てるんだね。早いなぁ……。
「隣、良いか?」
「どうぞ。でも寒いよ?」
「主に温めてもらおう」
「変な冗談はやめて」
はっはっは、と笑うだけのおじいちゃんは本当に冗談か冗談じゃないのかを言わないからタチが悪い。三日月おじいちゃん好きになってしまった審神者は焦らされて絶対歯痒いだろうな……。頑張れ三日月に恋する乙女な審神者たち。かく言う私も進展なんてないけどな。するつもりがないという方が正しいのだけど。
「……朝から月を見ていたのか?」
「はは、うん。そう言うことになるね。」
夜が明けてしまいそうな空には、おじいちゃんの瞳の中にあるものと同じ三日月が未だぽつりと浮かんでいた。次第に明るくなってゆく朝の空に月、不思議な感じだ。
「……悩みがあるのなら俺が聞いてやるぞ、主」
「あはは、おじいちゃんにはバレてたか」
「当然だ。俺はいつも主を見ているのだからな」
優しいのに、真剣で力強さを感じるその声色に、どこか安心してしまう自分がいた。
「……ま、大した事じゃないんだけどね。最近かなり夢見が悪くて……」
ふむ、眠れないのか。と呟いた彼に、小さく頷く。ここ最近、それも毎日のように私はずっと同じ夢を見ていたのだ。それこそ今日のような夢は初めてだったが、見習いが居た頃に1度見た夢を最近は毎日だった。
「夢、は自分を映し出すと言う。まぁ、主の場合は前世の事だろうがな……間違っているか?」
「夢見が悪いとしか言ってないのによく分かったね。エスパーなのおじいちゃん」
「なに、ただのじじいの勘だ。……だが、そうだとすると……前世の自分が何かを伝えようとしているのではないかとも考えられるな」
何かを伝えようとしている……。一体何を? 昨日とは違い、更に靄のかかってしまった沖田さんの言葉と、初めて見た幾つかの新しい場面。来世なんてあるのか分からないのに、どうしてそんな未来の私に向けて前世の私は何かを伝えようとしたのか。その方法だって分からない。 考えても無駄だ、そう諦めようとした矢先。ガタン、と物凄い物音が静かな場所に響いた。肩がびくりと跳ね上がるくらいには驚いて、そのすぐ近くから聞こえた方を振り向けば。
「あ……主っ!」
「主……っ、」
泣いている加州くんと安定くんがこちらに向かって勢いよく飛びついてきた。 |