▼継承編 46〜53▼ 

 51、祝杯をあげよう

「それじゃーかんぱーーい!」


私の(雑な)音頭で宴会が始まる。燭台切さんと薬研くんに手伝ってもらったお陰でとても早く準備が終わった。
お酒に合う料理といえばやっぱりお刺身だ。燭台切さん魚を捌くの上手すぎでしょ……と感心しながら隣で短刀ちゃんたち用に(特に今剣くんが大絶賛した)お子様ランチ(仮)を作っていた。ケチャップライスと目玉焼きに、唐揚げとタコさんウインナー、スライスしたきゅうり、プチトマトを盛り付ける。ほら見た目がお洒落で超可愛い。
1番始めに簡単に作っておいたかき玉汁はまた直前に温め直せるのでとりあえず蓋をして放置。多めに作った唐揚げはもちろんおつまみ用。大きめのお皿3枚に分けた。
沢山の量がいると言うことで、唐揚げ作ったついでに他の料理も揚げ物に頼りますが許して。そう心の中で謝ったあと、野菜の天ぷらを大量生産してもらった。薬研くんに。
いやーこれから毎日こんな量を作らなければいけないのか。骨が折れるぜ……と達成感と疲労感ばりばりな中、居間に料理を並べていると堀川くんがやってきて手伝ってくれた。いやーほんとに天使。
と言うことで話は冒頭に戻る。短刀ちゃんたちにはすごく喜んでもらえたし、みんなは美味しいって言ってくれたからもう満足だ。作った物は普段あまり作らない洋食だったため最初は何だこれ!と少し驚かれたけど。
ところで天ぷらってめんつゆにつけて食べるととても美味しいよね。あ、私つゆ派です。


「なぁ、君はいける口か?」


鶴丸さんがお酒の入ったお猪口を持って私を見つめてきた。


「……お誘いは嬉しいけど私まだ未成年だから」

「へ?え……君、いくつだ?」

「じゅーはち。」

「「……えっ!?」」

「ちょっと待て。今日ウチに来たばかりの刀剣はともかく安定くんと加州くんも入ってなかった?」

「いやだって主……えっ?18歳?え、嘘っ」

「和音さんは25だったからてっきり……」

「安定くん私そんなに老けてみえますかね。7つも差がありますが。」


安定くんがそう言うということは恐らく加州くんもそう思ってたと言うことか。辛いよ私は。


「いや、元々和音さん幼顔だし……ねぇ?」

「そうだね、25までとはいかないけど僕も20歳は越えてるかなって思ってました」


堀川くんまでぇぇぇ!?およよよよ、お姉さん悲しい。
でも18なら飲めるんじゃないのかい?とお酒を飲みながら聞く次郎さんに、私の住んでる時代ではお酒は20から飲んでいいってことになってるの、と言っておいた。


「では主が20歳になるのが楽しみだな」


そう言って口元を隠し微笑むおじいちゃん。笑い方から動きまで何もかも優雅すぎる。少しジジイ臭いところを退ければだが。
そうか、と残念そうに呟いた鶴丸さんに20になったらまた誘ってねと苦笑しながら返しておく。
よくよく見てみればお酒を飲んでいないのは短刀と脇差と蛍と私だけ。他のみんなはお酒を飲んでいるようす。自分が未成年なのもあって普段お酒をあまり買わなかったから分からなかったが、結構みんな飲むんだ……。おじいちゃんはともかく、安定くんも加州くんも飲んでいた。普段の買い物の時にも言ってくれたら買ったのに。いつも何も言わなかったから、てっきり加州くんは飲まないんだと思っていた。
それから歓迎会は長時間に渡り続いた。短刀たちや蛍は遊ぶために粟田口部屋へ移り、酒飲み共だけがまだわいわいと賑わっている。私が一旦席を外して戻ってくると、潰れている人もいれば、飲み比べを始めている奴(おじいちゃんと鶴丸さん)もいた。
そして面倒臭そうなのが約2名。


「うぅ、ひっく……沖田くん沖田くん……」

「何でだよ歳さんんん……っく、うぅぅ」

「まじかよ。……泣き上戸なのかこの子たちは」

「あああ泣かないで兼さん!」


心底お酒なんて飲ませなきゃ良かったと思ってしまった。ポロポロと涙を零す沖田好きと刀剣最年少。待って、何この新撰組率。
とりあえず兼さんの所には、お酒を飲んでいない堀川くんが既に行っているので彼に任せるとしよう。問題は安定くん。加州くんは隣でぼーっとしながら静かに飲んでいる。頼むのは無理そうだから……仕方ない。


「会いたいよ沖田くんんん!沖田くん沖田くん沖田くん沖田くん沖田くん」

「うわ怖っ……ほら、安定くんしっかり」

「ううー……っく、……和音、さん?」


私が行くしかないんだよね、と彼の横にしゃがみ込んで話しかける。いつもとは全然違う態度の安定くんに驚きを隠せませんよ私。普段はツンデレなのに。


「あー……うん、そうね。そうだよ。和音さんだよー。泣き止んで安くん。そんなに泣いてたらみっともないって、総司に怒られちゃうよ」

「……やだぁぁ。うぅぅ、和音さん……」


がばっと抱きつく安定くん。うわ、お酒臭いな。どんだけ飲んだの君。そう呆れつつ、抱きついてきたのをいい機会に「はい、部屋に戻ろう?」と彼を立たせる。隣から視線を感じ、安定くんを支えながら加州くんをちらりと見れば、彼はじーっと私たちの方を見ていた。喋らないのが怖すぎる。彼は酔ったら無口になるタイプなのか?
安定くんを部屋まで連れていき、布団を敷く。ついでに酔っててきちんと布団敷けるか不安だったため、その隣に加州くんのも敷いておいた。まだ泣いている安定くんを布団の中に入れ、部屋を出るべく立とうとすれば、彼に服の袖を捕まれ「一緒に寝てくれないの……?」と涙ながらに言われるではないか。うっ、そんな顔で言わないでおくれよ。


「ほら、一緒にいてあげるから……おやすみ」

「うん……おやすみ……」


布団には入らず、安定くんの隣に横になって頭を撫でる。そうすればふにゃりと笑って目を閉じた。ものの数分で寝息が聞こえ出す。天使かよ全く。安定くんの顔にかかった髪を避けてやり、涙を手で拭うと、もう一度頭を撫でて立ち上がる。
今日決めた部隊編成を元に、どう動かすべきか、どのような動かし方が得策かを決めなければいけない。ついでに人数が増えたため内番の組み直しもだ。なるべく早く、と言うか明日明後日までには作っておきたい。どうせ歓迎会はお酒の強そうな人たちが残ってやっててまだ終わらないだろうから部屋でスケジュールとか当番表を作っておこう。そう考えた私は沖田組の部屋を出て隣の自分の部屋へ向かった。
よっこいせー、と机について大学ノートを広げる。ああ、何だか年寄りみたいだったぞ私。歳か、歳なのか……いや、待て。この歳で『年寄りみたい』なら既に1000年くらい生きてる(?)おじいちゃんからしたら、一体どうなんだ。私の生きてきた人生なんて本当に一瞬なんだろう。
生きてきた人生じゃなくても、そもそも人間自体の寿命が彼ら刀からしたら一瞬だ。人はすぐに死んでしまう弱い生き物だと思われていても可笑しくはない。
私が死んだら……この本丸はどうなるんだろう。誰かがきちんと引き継いでくれるのだろうか。そうなった場合、刀剣たちは私のことなんかすぐに忘れるのかな……それとも、私が死ぬまでに戦いは終わっているのだろうか。終わったら……私は、刀たちは一体どうなってしまうんだろうか。お別れに……なってしまうんだろうか。


「……いけない、仕事仕事」


まだまだ老い先は短くないんだし、戦が終わると決まったわけでもないのに何を考えてるんだか。と両手で頬をパシパシと叩いて、気合いを入れ机に向かった。

どのくらい経っただろうか、しばらく集中していると、外から「……あるじ」という声が聞こえてきた。この声は……加州くんか。お酒飲むのやめたのかな。
どうぞ、と言う前に開かれる襖。その先には加州くんが立っていた。どうかした?と声をかければ、ふらふらとした足取りでこちらにやって来て急に私に抱きつく。


「ん?どうしたの急に」

「主、好きな時に来ていいって言ったぁ……」

「う、うん、言ったよ?」

「おれ……っ、近侍外されるの嫌だよ……」

「うん、ごめんね……」


何が言いたいのかよく分からないが、とりあえず相当酔っているため、背中をポンポンとしてあげる。すると加州くんは少しだけ離れて、潤んだ瞳で私を見つめてきた。


「何で……?おれ、こんなにも……っ、こんなにも主のことがすきなのに」

「え……?」


涙目でそう言ってきた加州くんの言葉に、耳を疑い聞き返せば。
不意に、唇に柔らかい感触が伝わった。


「主、……すき。」


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