▼継承編 46〜53▼ 

 50、検非違使対策

みんな、聞いて欲しいことがある。ここにいる刀剣全員を広間に集め、その前に立ち言い放った。改めて見渡せば本当に刀剣が増えたと思う。八振りから十九振りになった。十振りも増えたのだ。
それでもまだ実際に実装している数よりは遥かに少ないのだが、たいぶ賑やかになりそうで楽しみだ。
これはご飯の作りがいがありそうだな……と頭の隅で感心しつつ、本題に入る。と言いたいところなんだけど。


「本題に入る前にウチでのルールを言っておきまーす」


そう。先にこの本丸でのルールを教えておかなければならない。香水本丸にいた子たちは何も知らないわけだ。


「まず内番について。これは月曜日から土曜日まで当番を回していく形になる。日曜日は内番も出陣も遠征もなしです。絶対休み。兄弟と一緒にのんびり過ごすもよし、仲のいい子と遊んでもよし」

「わ、いち兄とも遊べるの!?」

「うんうん、遊べるよ〜。……で、それから出陣についてね。これは私が基本ついてるから大丈夫だけど刀装が壊されたら、もしくは軽傷になった段階で撤退します。刀だから傷つくのは当たり前なんて絶対に思わないでね」

「ちょっと待った。基本ついてるってどういうことだ?まさか君も出陣するのかい?」


驚きながらそう問いかけてきた鶴丸さんにうんと頷く。結構前から一緒に出陣してると伝えれば香水本丸から来た刀剣はかなり驚いていた。
まぁ当然の反応だよね。人間、しかも女が刀剣たちと一緒に戦いに行ってるって聞いたら誰でも驚く。


「まぁその辺は後々慣れる筈さ。それから内番の種類についてなんですが〜……ウチでは手合わせ、馬、畑、洗濯、掃除と色々な当番の種類がありまーす。これは追々説明していくとして。とりあえず新しく当番表を作り直すからそれまで保留ね。……だから今の所は主なルールは2つ。日曜日は仕事なしってことと、絶対に帰ってくるってこと。他に何か分からないことがあったら私か加州くんに聞いてね。いい?」


はーい!と言う返事が一斉に返ってくる。うんうん、みんないい返事だ。他の細かいことは追々言っていくとして、少しでも早くここに馴染んでくれたらいいなと思う。
と、そろそろ本題に入ろう。


「さて、ここからが本題。元々ウチは人数が少なかったから出陣も交代制にしてたけど、刀剣も増えたのでメンバーを固定しようと思う。」

「メンバー固定か……やっとって感じだね」

「やっとで悪かったね安定くん。……これから発表する部隊は検非違使対策でもある。一先ずって訳だから、選ばれなかったからって落ち込まないで欲しい」


香水さんと同じようなことが起こらないように。そう思って、さっきまで自室にこもってメンバー構成をずっと考えていた。やることがあると言って新撰組会議を抜けてきたのはこのためだ。
これを発表すれば必ずしも納得出来ない人が出てくるだろう。予想はついている。……だけど言わない訳にはいかないのだ。
本丸の周りにいくら結界が貼っていても油断は出来ない。香水さんの本丸はその結界の歪みを敵に発見され、破られて奇襲にあったのだから。
香水さんは元々霊力が少ない方だったらしい。そのうえ香水さん自身の心が不安定で精神的に弱っていたという理由が重なってしまい今回の事件が起きたのだ。
私は自分では正確には分からないが霊力は強いほうだと思う。実際に霊力を使う手入れも、疲れを感じない訳ではないが、倒れてしまいそうなほどドッと疲れが出てしまうこともない。それにこんちゃんに強いと言われている身だ。自分の本丸を心配していれば「例え情緒不安定になっても九重様の力なら結界が歪むことはないでしょう!ははは!」と笑われた。結界が壊される心配はないと言われているが、やはり万が一の時に備えておくことは大切だ。
と言うことでまずは第一部隊。


「まず隊員を蛍と、おじいちゃんと、ずおくん、」

「はーい、隊員やりまーす」

「あいわかった」

「任せてください!」

「それから安定くんに、堀川くん」

「まぁ当然だよね」

「お手伝いなら任せて!」

「そしてこの隊を纏める隊長と近侍を……いち兄に任せる」


私の言葉にその場にいる大半が驚いた顔をした。


「……お任せ下さい」

「……あるじ、……なん、で……」


どうして、と言う表情で私を見つめる彼。正直私も隊長を彼のままにしておくか、一期さんにするか迷っていた。でも今しようとしているのは検非違使の対策。それを踏まえて考えれば、答えはすぐに出てしまった。


「俺のこと嫌いになった?可愛くなくなったの?俺を捨てる……?」

「違うし捨てたりもしないよ加州くん」

「嘘だ……あの約束は嘘だったんだ……!」


主のばか!と吐き捨てるように言って勢い良く広間を飛び出す加州くん。あああまじかよ説得前に出て行きやがった。


「……めんどくさっ」

「あちゃー、主の本音がポロりですね!」

「清光が面倒臭いのはいつものことだよ」

「はは、昔からだからもう慣れたけどね」


ごめんみんな……ほんのちょっとだけ待ってて、そう言って猛スピードで広間を出て加州くんを探しに行く。私が出た後「加州も凄いけど何あの主の機動力」やら「主と加州って意外と衝突多いよな」とか「ていうか主って加州にだけ甘いよね〜」などとみんなが話していたのは当然知る筈もない。
加州くんの言っていた『あの約束』というのは、恐らく私が初めて鍛刀しようとしていた前の話だろう。まだ私と彼の2人で過ごしていた時。鍛刀を許す代わりに、近侍がいいって言ったのを覚えている。今も忘れてなんかない。だからこそ、隊長をどうするのか迷ったのだ。
予想は的中で、沖田組の部屋に直行すれば部屋の中から鼻をすする音が聞こえる。そろりを襖を開けば襖を背に三角座りをしている加州くんを発見する。きーよみーつくーん、と名前を呼べば彼は涙を拭って私を見つめた。泣くほど近侍と部隊長外されるのが嫌だったのか。私は加州くんの傍に行き、腰を落として彼と同じ目線の高さにすると、「加州くん聞いて」と見つめ返した。


「約束は忘れてない、ずっと覚えてるよ。でもこれは検非違使対策なの。……落ち着いたらまた元に戻す。それまで辛抱してはくれない?」

「……主の言う、落ち着いたらって一体どのくらいなわけ…?1週間?ひと月?1年?」

「分からない。けれどずっといち兄に近侍を任せる訳ではない。」

「……ずっと、近侍は俺だったのに……刀剣が一気に増えて、近侍変えるのいい機会だったんでしょ……っ、……だって俺とは違ってレアだもんね、一期一振は」

「私はそんな決め方しない。逆に聞くけど……加州くんは私のことそんな人だって思ってたの?」


違う、思ってるわけないじゃん……と首を振る加州くん。彼は「けど近侍はずっと主の傍にいれるから……」と小さく呟いた。近侍を外されたくなかった理由ってそれ?と少し呆れる反面、彼は愛されたがりだしなと納得してしまう自分がいた。


「何の相談もなしにごめんね。だけど近侍じゃないからって傍にいちゃいけない訳ではないよ。好きな時に好きな分だけ私のところに来ていいから、我慢してくれない?」

「……好きな時に、行って、いいの……?」


もちろん、と言えば彼はしばらく考え込んだ後、静かに分かったと呟いた。よし、説得は終わった。広間に戻ろうと加州くんの手を引く。広間に入れば「説得早っ」とみんなから驚かれた。とりあえずドヤ顔しておく。
てなわけで第一部隊の発表は終わりだ。次に第二部隊。第二部隊は隊員を小夜ちゃん、薬研くん、まんばちゃん、乱れちゃん、鶴丸さん。隊長を加州くんにお願いした。
残りの今剣くん、燭台切さん、骨喰くん、次郎さん、五虎ちゃん、兼さんは第三部隊(仮)で、検非違使がいつ結界を破って奇襲を仕掛けにきても対処出来るようなメンバーの構成をした。


「以上でこの話は終わり。今日の夜は歓迎会といこうじゃないですか!」

「いよっ、待ってましたぁ!祝杯だー!」

「おっ、いいねぇ〜!」


わぁ、と盛り上がる広間。これは腕によりをかけて晩ご飯を作らなければいけないね。さて、そうと決まればまずは食材の調達。ひとっ走り万屋へ買い物に出かけようじゃないか。ついでにお酒もたんまり買って帰ろう。
その場の解散をして、万屋へ付いてきてくれる人を尋ねるといち兄と加州くんはもちろん、燭台切さんと薬研くんがついてきてくれた。加州くんにおいてはずっと私の隣キープのベッタリだったけど。
そしてどうやら燭台切さんと薬研くんは料理を作る手伝いまでしてくれるそうだ。本当に助かる。
数時間後の歓迎会に向けて気合がとても入る。今日は何を作ろうかなあ。


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