「ってことで早速やるよ新撰組会議!」
「あー……これマジでやるつもりだったんだ……」
香水本丸にいた刀剣全てが、我が家、九重本丸に移動した。元々ウチにはそんなに刀剣がいなかったため、部屋もかなり余裕がある。部屋を決めてもらえればすぐそこに入れるほどだ。 その準備がつい先ほど終わった。そして今は執務室に加州くん、安定くん、堀川くん、兼さん、私がテーブルを囲むように座っている。 香水さんの本丸にいた時に「後で新撰組刀剣会議でも何でもしてください」と失言してしまったがためにこんなことになってしまった。冒頭の安定くんの言葉の通り、本当に新撰組会議が実行されるそうだ。 でも一つだけ聞きたい。
「な ぜ 私 は こ こ に 。」
「主も新撰組会議に参加するからに決まってるでしょ」
真顔で即答した安定くん。うん、それは私も理解出来ているよ。参加させられるんだと。 いや、聞きたいのはそこじゃないんだ。
「私は、新撰組では、ないと思うのだけれど。」
それに私ね、新撰組“刀剣”会議って言わなかったっけ?言った筈だよね??
「沖田くんの傍にいたんだし、新撰組公認で屯所通いしてたんだから新撰組の一員だよ」
「そ〜れ〜は〜〜〜前世の話であって〜〜」
「主さん…潔く諦めた方がいいよ」
「国広に同意、諦めな」
「堀川くんんんん兼さんんんんん!!!!!」
安定に捕まったら逃げられないよ……という哀れんだ目でこちらを見つめてくる土方組二振りに頭を抱えそうになる。何だい、香水本丸にいた頃の体験談ですかそれは?加州くん以外の三振りで何かしてたんですか?
「でもぶっちゃけ主の発案じゃん?あの時言わなかったらこうはならなかったのにねー」
追い打ちをかけないでくれ加州くん。 新撰組会議は別に嫌ではないけど、私まだ記憶全て思い出してる訳じゃないから話についていけるかどうか分からないんだよ。とかそんなことを頭でうだうだ考えているうちに、なぜかもう安定くんの進行により話が進んでいたよ。恐ろしい子。
「それで主……単刀直入に聞くけどいい?」
「いいよ、何?」
「……今どこまで思い出してる?」
どこが新撰組会議なんだ。完全に新撰組関係ないような気がするのだが。もしかして新撰組(メンバー)会議とかそういう系?ほんとに?
「全然関係なくはないんじゃない?主の前世のことよく知ってるのは俺たちしかいないんだし」
「……なぜ思ってることが分かったんだ」
「そんな顔してたよ主さん」
「うそ、」
そんな顔してたかな私。 新撰組(のメンバーでする)会議の内容はまさかの私のこと。前世のことを思い出せるように協力しようじゃないかと言うことだった。安定くん曰くね。 因みに兼さんにも今までの経緯は全て話してあるので既に知っている。本丸に戻っている時に加州くんと安定くんと堀川くんの三振りが、審神者として再会したことやら演練で何があったやら事細かに説明していた。恐るべし彼らの記憶力。
「思い出したことかぁ……かなり断片的だよ」
それでもいいよと頷く安定くん。んーとね、と呟きながら私は今までに見た夢やフラッシュバックを思い出した。 沖田さんを看取ってる所から、私が出かけてくるって家を出て殺される所。沖田さんと喧嘩してる所。清くん安くんと甘味処に行ってる所。国広や兼定と遊んでる所。簪をプレゼントしてもらった所。そして……池田屋、つまり加州くんが折れた所。 全て伝えるとその場は先程以上に静かになった。
「これが香水さんが演練で帰る時までに思い出してたこと」
「……え、簪のことも俺が折れた時のことも思い出してたなんて聞いてないよ」
「……あ。ごめん。言い忘れてた」
「僕は知ってた。清光が折れた話の方はね。」
私が謝ったあと、間髪入れずに答える安定くん。まぁ安定くんは目が覚めたとき傍にいたからね。誤解を解くチャンスだと思って大雑把に言っただけだったけど、一応知ってる部類には入るか。 俺聞いてない……と二度言ってきた加州くんは相当ショックを受けたような顔で私を見つめてきた。ほんとごめんってば。
「思い出したこと全部俺に言うって言ったのに!」
「もーごめんってば!演練で香水さん泊まってたしあれこれ忙しかったからそれどころじゃなかったんだよ!」
「そっか……俺はあの女以下ってことなんだ……」
ちがあああう!と大声で否定する私。それにびくっと反応した兼さんと、苦笑しながら私と加州くんを見つめる堀川くんと、流石はメンヘラブス、と呆れながら呟いていた安定くん。 ちょっと待って、加州くんはメンヘラでもなければブスでもないよ。ちょっと扱いにくいだけなんだよ。あーあ流石は沖田の刀だね!……もう!ちょっとこの子ショック受けすぎじゃない!?
「ごめんって加州くん許して!今度また現世に連れてってあげるから───」
「許す!」
「早いなおい」
「いやだって主とデートできるなら俺嬉しいし」
「(え、清光くんってもしかして……)」
「(こいつ……和音のこと好いてんのか……)」
「清光は放っといて主、とりあえず思い出してるのはそれだけってこと?」
「あ、うん。そうだね。最近もじわじわと思い出してはいるんだけど……でもそれは沖田さんのことより、加州くんたちのことの方が断然に多いよ」
「やっぱ近くにいるからなんじゃねーのか?」
兼さんの言葉にそうだと断言できない私は、どうなんだろうねと首を傾げた。兼さんの言うことも一理はあるが、どうも納得がいかない部分もある。 それにしても沖田さんのことを思い出さなすぎる気がする。加州くんたちといた時間も結構長かったが、やはり昔の私と一番長く過ごしていたのは沖田さんだ。幼馴染みで長い付き合いだったはずなのに、全然記憶が蘇らないなんて可笑しい。 彼が死ぬ直前と、喧嘩してる所と、簪を貰ったことくらいしか思い出せていないは一体なぜ?
「……あ、簪のことで気になったことがあるんだけど、ちょっと聞いていい?」
堀川くんに簪を渡されてフラッシュバックが起きた。その時に見た光景の違和感について。
「簪を初めて見た時、沖田さんに買ってもらう光景を見たの。……あれって本当?」
「本当って?どういうこと?」
「実際にあった出来事だったのかな……って、」
「……何言ってるの主……実際にあったからその光景を見たんでしょ?俺達も傍にいて見てたから本当だよな?安定」
「うん。沖田くんと街を歩いてるとたまたま和音さんと出会ったから甘味処に行ったんだよ。その後ぶらぶらしてたらお店の前に出てた藤の簪見つけて沖田くんが買ってあげてた」
うん、安定くんの言ってることとフラッシュバックで見た光景は確かに一致している。つまり私の気のせいだったということなんだろうか……。 でもちょっと不思議だったよね、そう続けた安定くんをどういうことだと見つめる。彼の言葉に隣にいた加州くんは「あー、確かに」と頷いた。
「いつもなら沖田くんの前で僕達に触れることはないんだけどあの日は撫でてくれた」
「え……それが不思議なこと……?」
「いや、確かにそれも意外だったけど……あの人が簪買って和音のいた方に戻ったら和音はその場にいなかったんだよ。どこ行ったのかなーって辺りを見回してたらすぐ戻ってきて……でも何か変なこと言ってた……気がする」
「沖田くんが簪渡したとき驚いてた。けどまぁそれ以上に喜んでたよ。そのあと沖田くんの“もうちょっとおめかしくらいしたら?”って言葉にキレてもいたけど」
懐かしそうに話す沖田の刀。証人が2人もいるわけだし、やはりあの違和感は気のせいだったようだ。 とりあえず、今まで忘れてたけどこれで少しスッキリした。案外、新撰組会議があって良かったかも知れない。
「さてと……引っかかってたこともなくなってスッキリしたし、私ちょっとやることあるから抜けるよ」
「えーーーー」
「えーじゃない。審神者はお仕事が多くて忙しんですー」
今からすることは、これからのことが重要になってくると思うから疎かには出来ないことなのだ。ごめんね、するならまた今度で。そう言って執務室を出て自室へ向かう。 まずは今一番重要なこと、検非違使対策からだ。 |