▼継承編 46〜53▼ 

 48、うぇるかむ!

「誰もいない……訳はないよね…」


廊下をうろうろしてても誰かと出会う気配が全くない。どこにいるんだと思いながら歩いていると、がぅ〜と言う声と共に足に何かが当たった。立ち止まって足元を見ると、何と白い小さな虎。びっくり。虎だよ。何で虎?
虎は私の足にすりすりと体を当ててくる。どこから来たのかと振り返ると……まだいた。それも4匹も。


「可愛い〜〜〜」


そう呟きながら、足元の虎を抱きかかえる。何これ小さい可愛い!ちっちゃいと本当に猫みたい!
こちらにやってくる残りの4匹の内の1匹の虎を撫でてやろうと手を伸ばす。と。


「……っ、痛っ」


噛まれて、吠えられた。びっくりしちゃったかな。それとも嫌だったか、ごめんよ。


「虎く〜ん?……!あっ、ごっ、ごめんなさいぃ!」


虎の持ち主かな?ふわふわした可愛い男の子が現れると、私が虎を抱いているのを見て急いでやって来た。そして早急に、頭を下げる。何かと思えば必死に謝ってきたではないか。
顔面は蒼白。表情はみるからに怯えている。
堀川くんが言っていた、審神者は怖いという認識が明らかになった瞬間だ。


「ごめんなさい審神者様!僕が悪いんです!僕が虎くんをきちんと見てなくて……っ悪いのは僕ですから虎くんはどうか傷つけないでください……!」

「……。……君の虎さん?ふふ、すごく可愛いんだね」

「……え?」

「もう誰かから話は聞いてるかな?そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。私は君たちを傷つけたりしないから」


抱えていた虎を降ろし、驚いた表情でこちらを見る男の子の頭を撫でてやる。
すると、彼は瞳を潤ませて今にも泣きそうな顔をした。


「……ほんと、ですか?……その、いたい、こと……しないですか……?虎くんも、傷つけたり……」

「しないよ。私は君たちの怪我を治すためにいるんだから」

「……うぅ、あ……あるじ、さま……!」


泣き出す彼をそっと抱きしめてあげると、彼もまたぎゅっと抱きしめ返してくれた。
この子の恐れ具合は尋常ではなかった。……香水さん。アナタは一体ここでどう過ごしてきたの?そう思うと同時に、私は絶対にこの子たちにこんな思いはさせないと改めて心に誓った。
先程まで泣いていた彼───五虎退(これからは五虎ちゃんと呼ばせてもらう)の手入れを済ませ、手を引いてここの本丸の広間へ向かう。
五虎ちゃんの手入れをしている時に加州くんがやってきて、出会った奴に一々言うの面倒だから広間に全員集めたと言いに来てくれた。
ああ、はい。その全員の前で私が説明しろと。そう言う事ですか加州くん。まぁ別にいいですが。
そう言うことで、加州くんは広間のある場所を言わずに先に戻ってっちゃったから、五虎ちゃんに案内してもらいながら2人で一緒に向かっているのだ。


「こ、ここです……!」

「ありがと五虎ちゃん。失礼しま───」

「わっ!」

「───ああああ!!?」


びっっっくりしたああああああもう!!!!!
失礼しますと扉を開けた先に、変なものをつけた鶴丸さんが驚かせてきて、思わず口から心臓が飛び出るかと思った。……何それ鼻眼鏡?
鶴丸さんはケラケラと笑いながら鼻眼鏡を外す。どっから出してきたんだソレ。ダ〇ソーにでも行ってきたのか。


「今までにない面白い驚き方だったぜ!久しぶりだな!」

「普通挨拶が先でしょ鶴丸さん!……もー、心臓に悪いな」


既に中にいた加州くんや安定くんまでもが笑いを堪えている。すごく恥ずかしいじゃないか。
何の羞恥プレイだよ全くもう!


「ああああ!?って言う驚き方初めて見た」

「加州くんそれ以上笑ったらもうネイルやってやんない」

「ヤダ!もう笑わない!」

「うんいい子。……えっと変な余談はこれくらいにしておいて……はじめまして」


審神者の和音です。まずはそう自己紹介をする。
私を知らない刀剣たちのために、ここから丁寧に説明してあげないと。まず前置きとして、聞きたくないかもしれないから手短に香水さんの状態。
そしてすぐに本題へと入る。
主のいなくなった本丸は、新しい審神者をそこへ導入したり違う主の元へ送ったりするか、刀剣全てを刀解するかの二択しかない。


「香水さんが審神者を辞めた今、政府たちは君たちを刀解する方向で決めてたの。けれどせっかく堀川くんやいち兄、鶴丸さんたちとも仲良くなれたのに刀解なんて私は嫌だった。だから政府の所へ直談判しに行って来た。……と言うわけで私がみんなを引き取ります。でも強制はしたくないので私の所に来るのが嫌で刀解の方がマシって子は教えてね。……説明はざっとこんな感じ。さぁ!我が家族になってくれる子はうぇるかむ!」


分からないとこある?と聞けば1番近くにいた鶴丸さんは驚いたぜ、刀解予定だったのか……と呟いていた。そうだね。ブラック本丸化の候補として上がっていたくらいだから。
手が負えないと判断されたら刀解、なんてやり方もどうかと思うけど。


「今の主の話を聞いて内容は大体分かったと思うが、俺たちの大将はいい奴だぜ。傷つけるなんてことは有り得ねぇ。」

「うん。刀1つひとつを大切に想ってくれてる優しい主だよ。僕や薬研が言うんだから間違いはない。……それでどっちにするかはもう決められてる?」


薬研くん、安定くん……そんなこと思ってくれてたんだ。うん、かなり嬉しい。特に安定くんに至ってはかなりの進化を遂げている。抜刀から始まり、褒められるまでの成長だ。しかも優しい主だって、嬉しすぎる。
心の中で1人で勝手にテンション上がっている私をよそに、安定くんの問いに刀剣たちは悩んでいる表情を見せた。だけど急に五虎ちゃんが立ち上がって「ぼ、僕は主さまの所に行きたいです……!」と言ってくれた。
それに続いて僕もと堀川くんが手を上げてくれる。
その波に乗じて、堀川くんの隣にいた兼さんや、いち兄、鶴丸さん、燭台切さん、骨喰くんも賛成してくれた。どうやら刀解されたいと言う子は1人もいないらしい。当然と言えば当然なのか。
それとも、私に魅力というものを感じてくれたのだろうか!……嘘です、ごめん黙る。


「みんな私の所に来てくれるということでいいのかな?いやぁ嬉しいね!またまた家族が増えるよ加州くん!」

「そーねー。増えるねー。」


加州くんの棒読み感満載な返事に嫉妬の気配を察知しつつも、まだしていなかった子に手入れをするべく手入れセットの入った箱をぱかりと開く。


「それじゃあ早速お手入れします!我先に綺麗になりたい子〜!」

「はぁーい!僕から綺麗になりたい!」


そう言って手を挙げたのは綺麗な桃色の髪の刀剣。その子は私を見てウィンクをした。


「かっわ……!……あ、えっと、お名前は?」

「僕は乱藤四郎だよ!」

「乱ちゃんはスカートはいているから女の子?」

「男の子☆」

「え、そうなの……!?うそ、可愛いから女の子かと思っちゃった」

「主は鯰尾にも女かって聞いたよね。実装されている刀剣は男しかいないのに」

「だって鯰尾は髪長くて美人だったし。も〜周りに可愛い子が沢山だから、私ホント悲しくなっちゃうよ〜」


そう言いながら座らせた乱ちゃんの手入れを続ける。でも乱ちゃんは「そんなことないよ!」と言ってくれた。ありがとう嬉しい。
乱ちゃんは第二部隊の遠征組だそうだ。香水さんから案外お気に入り寄りの刀剣として扱われていたようで、手入れされずに放置とかはされなかったようだ。でも周りに酷いから好きというわけではなく、かなり苦手意識も持ちながらも接していたのだと乱ちゃんは言っていた。
今手入れをしてもらっているのは、遠征から帰ってきて香水さんがいない状態だったから遠征先で怪我したのを手入れ出来なかった、ということらしい。とても人懐っこそうな可愛い子だ。


「また怖い人が僕の主だったらどうしようかと思っちゃった。けど、あなたが主さんなら安心!」

「こんなに可愛い子傷つけられないよ……って言うか兄貴。藤四郎だって。兄弟いたね」

「そうだな。それと大将、五虎退もだぞ」

「五虎ちゃん!?そっか……薬研くんがウチに来てからやっぱり兄弟出来ちゃってたか……」

「まぁ、粟田口は多いからな。」

「そっか……はい、乱ちゃんお手入れ終わり!」


これで完全に綺麗になった!と乱ちゃんの頭を撫でれば、頬を染めてにこりと笑った。はい可愛いです。
乱ちゃんの手入れが終わって次の刀剣男士に移る。自己紹介はいつの間にか手入れの時にするという流れになっていた。
骨喰くん、鶴丸さん、兼さん、次郎ちゃん、燭台切さん、山姥切くんと手入れをしていく。1番最後でいいと言っていた山姥切くんとやらは、捻くれ系で家にいないタイプの刀剣男士だった。そして完全に私を信用してくれていると言うわけではないようだ。そりゃそうだ、初めて会ったんだもの。今までの境遇で会ってすぐに心を開くはずなど簡単にできるわけがないのだ。
これはこれでなんだか新鮮だったけど、お手入れはかなり大変だった。
とりあえず怪訝な目で見られていることには気付かないふりをして接したが、いつか心を開いてくれることを願って地道に接していきたいと思う。


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