▼継承編 46〜53▼ 

 47、重傷者

「ここが……?」

「そうだよ。」

「……まさか戻ってくるとは思わなかったぜ」


香水さんの本丸に着いた。気を引き締めて行くのはここからだ。
建物の大きさに驚きつつ、安定くんの案内で中へと入っていく。それに続いて私、加州くん、薬研くんが歩く。本丸はやけに静かで不気味なほどだった。みんな大丈夫なのだろうか。動ける状況でなかったらどうしよう。
誰かいる、と加州くんが指を差した方向に目を向けると確かに人影があった。目を凝らす。すると、見覚えのある水色の髪が見えた。


「あ!いち兄!」


そう叫ぶとこちらに気付いたのか、ぱっと振り向いて私たちを見た。途端にとてつもなく驚いた顔をされるが、すぐに彼はこちらに早歩きでやってきてくれた。


「和音さん……それにみなさんも。どうしてここに……あの、主は今……」

「知ってます。だからここに来たの」

「……と言いますと?」

「単刀直入に言います。ウチにおいで!」

「主それははしょりすぎ。」


ナイスツッコミ安定くん。1番最初にいち兄に会えたからホッとしてついね。
はい……?と言うよく分かっていない顔を見せているいち兄に今度は丁寧に伝えよう。


「香水さんが審神者を辞めた今、ここにいる全ての刀剣は政府によって刀解される予定でした。が、私が引き取ることに決定いたしました。」


理解出来るかな、と首を傾げるといち兄はしばらくしたあと小さく頷いた。


「でもなぜ貴方の元に?」

「主が刀解とかそんなの嫌だって、政府に直談判しに行ったんだよ。反対されてるのを押し切って説得したってこと」

「加州くん盛りすぎ」

「今全く盛った覚えないんだけど!?てゆーかどのへんを盛ってたの!?」

「説得とかそんな綺麗なことしてないねぇ。あれ半ば脅しだし。」

「正直すぎるぜ大将」


苦笑する薬研くんにそうかな〜と返す。……良かった、ここに来るまで兄貴ちょっと辛そうだったけどいつも通りに戻った。
いち兄はそんな私達を見てクスクスと笑い出せば、不思議そうな顔をして見ていた私に「この賑やかさ、懐かしく感じますな」と微笑んだ。流石、笑顔で人を殺せそうなほどイケメンですよ。


「と言うことで今からみんなにそのことを伝えたいんだけど……その前に1つだけ聞きたいことが。……ここに重傷者はいる?いるのなら話より手入れを優先したい」

「重傷者ですか……それが、堀川殿が……」

「堀川くん!?え、堀川くんどこにいますか!?」

「今は手入れ部屋で寝───」

「よし急げ!」


どんだけ国広好きなの主!と言いながらも、走り出す私についてくる加州くんたち。
私の癒し、大天使堀川がまさかの重傷なんだよ。急ぐに決まってるわ!そしていつか絶対、堀川くんをそんな目に合わせた敵に仕返ししてやる。私がこの手で射抜いてやる。
堀川くん!と手入れ部屋の扉を開けると、堀川くんが傷だらけのまま寝ていた。あああ、お労しい!


「誰だ。」


部屋の中へ足を一歩踏み入れると、堀川くん以外にもう1人いたのか、横から声がした。全然気が付かなかったと、その方向を見る。


「……は?え、和音?」

「あっ、はい。え?」


刀に手を当てて構えている体勢の彼は、私の顔を見て驚いた顔をしてその場に固まった。見覚えのある顔と声。この感覚は知っている。
私の横からひょこっと覗いた加州くんと安定くんが同じタイミングで「あ、兼定」と名前を呼んだ。そうだ。兼さんだ。堀川くんと一緒で土方さんの刀だった彼か。……背、伸びたなぁ……めっちゃ伸びたなぁ……。


「な、お前ら……何でここに?それに安定お前……」

「久しぶり。今日は事情があってここに来たんだよ」

「主が急いで国広の手入れするって言うから手入れ部屋まで来たんだけどさ〜」

「お、おう……え、主って……」

「和音さんの生まれ変わりの和音さん。」

「……は???」

「国広から何も聞いてない?」

「あー……ここのところ部隊も違うしであんま一緒にいる時間なくて、聞いたような聞いてないような……」

「ハイハイ詳しくはまた後でね。堀川くんも入れてから新撰組刀剣会議でも何でもしてください」

「何それかっこいい。」


安定くんの目が一瞬だけ輝いた。マジか。これはマジでやりそうなやつだな。新選組と言っても四振りの持ち主は沖田&土方の2人しかいないから、はっきり言って新撰組と言えるのかどうかは知らないが。
と言うか堀川くんが寝てる横で3人ともわいわい話してるんじゃありません。もっと重傷者の心配せい。


「さてと……」


堀川くんの隣に座り、手入れをする準備を始める。後から来たいち兄にこうなった原因を聞くと、どうやらこの本丸に敵がいることを知らなくて出陣から戻り、不意に攻撃されたと言うことらしい。


「加州くんたち3人はさっき私がいち兄に伝えたことを他のみんなにも伝えておいて欲しい。それから他にも怪我してる人が居たらここに連れてきて」

「分かったぜ。」

「私も協力します」

「兼定も手伝って。事情は全て話すから一緒に」


既に手入れを始めながら指示を出すと、5人は手入れ部屋を出て行った。
早く目を覚ましておくれ堀川くん。そう思いながら、通常の3倍くらいのスピードで手入れを続ける。
どうやらどのくらい経ったのか分からなくなるほど、手入れに集中していたらしい。手入れがちょうど終わった頃、う……と言う小さな声を漏らして堀川くんが目を覚ました。
良かった……と溜息が漏れる。


「……和音、さん?」

「うん、そうだよ。気分は?大丈夫?」

「あ、はい……どうして、ここに?」


ゆっくりと起き上がりながら聞いてくる堀川くんにいち兄に話したように説明をする。すると、理解したのかそうだったんですかと呟いた。


「それより堀川くん重傷って聞いてびっくりしたよ。ここまでぶっ飛んで来たんだから」

「大袈裟だなぁ和音さん。重傷なんてしょっちゅうですよ」

「それはいけない慣れだね。もっと気を付けなきゃダメだよ」


まぁ、次からは私がいるからすぐに手入れ出来るけどね、なんて言いながら笑う。
すると「……分かりました。じゃあこれからは主さんって言わないとですね」と微笑んだ堀川くんに「あああもう可愛いな〜」と頭を撫でる。やっぱり堀川くんは癒しだなぁ。天然なところも含めて。


「あ、そうだ。堀川くんが寝てる間、ずっと兼さんが看ててくれてたみたいだよ。」

「え?兼さんが……?」

「うん。後できちんとお礼言っておかないとね。……さてと。呑気に話している暇はなかった。堀川くんの手入れから結構時間たった筈、だよね……何で誰1人として手入れ部屋に来ないんだろう。怪我してる子いないのかな?」

「もしかして、怖くて来れないんじゃないでしょうか……僕たち第一部隊は和音さんを知ってるけど、他の子たちは審神者は主さんしか見たことないから……多分審神者は怖いって思い込んでるんだと思う」

「なるほど……じゃあ薬研くんも安定くんも苦戦中かな。……よし、私が歩き回って手入れしよう」

「僕ももう動けるので、怪我してる子いたら主さんの所に連れていきますね」


よろしく、そう言って手入れ部屋を出る。堀川くんは私とは反対の方向へ歩いていった。
どうしようかな〜どうやって怪我している子を見つけよう。怖がって隠れてたら相当見つけるハードルが高い。加州くんたちは第一部隊のメンバーと出会って事情を説明してくれてるかな。
いち兄と堀川くんに言ったから後は骨喰くんと、燭台切さんと、鶴丸さんか……とりあえずそっちはみんなに任せて、他の子たちを探そう。
鬼畜レベルの隠れんぼ開始だ。


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