▼継承編 46〜53▼ 

 46、彼らはどうなるの

「それじゃあちょっと出かけてきます……ので、加州くん離してください。」


困った。どうしよう。加州くんが離れない。
出かける準備をして靴まで履いたのに、それから先へ一歩も進めない。


「主1人で行くなんて!俺も連れてってよ〜」

「……こんちゃんいるから1人ではないけど……。政府の人に会うからダメ、加州くんはお留守番してて。帰ってきたらネイルやってあげるから」

「……分かった。待ってるから帰ってきたら絶対可愛くデコってね」

「うん。じゃあ、それまでみんなの面倒任せたよ!私の近侍」


やっと離してくれた加州くんにそう言ってやると笑顔でいってらっしゃいと返ってきた。こんちゃんと2人……違った、1人と1匹で政府の人たちが集まっている建物へ急ぐ。
今回の政府の集まりは、香水さんの件で開かれたらしい。香水さんの本丸が襲撃されたと聞いたのは昨日だった。


 * * *


こんのすけが突然やってきて何事かと思えば、政府からの手紙。その内容がこれだ。私以外の聞いていたみんなも驚いていた。
どうやら私たちのところに演練に来た第一部隊は出陣中、第二部隊は遠征中で、ちょうど強い刀剣はみんな外に出ていたらしい。残っている刀剣は手入れされてない子や、短刀ばかり。そんな時に敵襲に会い、刀剣含め香水さんは襲われた。残念なことに、折れてしまった刀もあると聞いている。
現在は自分のいた世界に戻り病院に入院。治療を受けている。そして相当な深手を負ったため継続は難しいと判断し、それと同時に審神者を辞職したそうだ。


「そんな非常事態が起こって……政府はどうするの?」

「実は本丸襲撃は過去に何度かあるのです。そしてその回数は年々増えて徐々に増加傾向に。」


本丸は結界によって守られている。それは審神者の霊力量関係なく、どの本丸であっても審神者が赴任した瞬間から発動させる。しかし、審神者自身の体調やメンタルが弱っているときは、結界も同調し一時的に弱まるということが統計として出ていた。
時間遡行軍は、その結界の歪───脆くなっているところから侵入し、襲撃することを学んでしまった。年々本丸襲撃が増加傾向にあるのはそういうことだろうと、こんのすけは説明を続けた。


「そして明日、今回の本丸についての対処をどうすべきかの会議を開くそうです。」

「会議か……ねぇこんちゃん。香水さんがやめたってことは刀剣はどうなるの?」

「……恐らく刀解かと。他の審神者の元へ送るという案もありますが、あの本丸ですと確率は低いと思います」


 * * *


香水さんが重傷なのはともかく、死ななくて良かったとは思う。いくら苦手な人種とはいえ、顔見知りが死んだなんて情報は知りたくない。
しかし今考えるべき問題は、そこじゃない。


「九重様、つきました!」


こんちゃんに案内されて建物内へ入り、会議が行われるという部屋の扉の前まで直行する。緊張はするが入らなければ始まらない。
ノックをすると返事が返って来たため、失礼しますと扉を開けた。


「これはこれは、九重様ではないですか」


いつぞやの政府さんがきょとんとした顔で私を見る。
ざわついた会場。周りの人たちの視線が刺さるが、ここで怯むわけにはいかない。


「……少し香水さんの件で、お話が。」


なぜ私が香水さんを知っているのか、何の話があるのか想像もついていない様子だ。でもそんな詳しい話は後回し。単刀直入に言わせてもらう。


「もし、香水さんの所持している刀剣たちを刀解するおつもりなら、私に譲って頂きたい」


辞めたら、残った刀剣の思いはどうするの。





「ただいまー。は〜お腹空い、たぁ!?」

「おかえり主!」


帰ってくるなりすごい勢いで目の前に現れた加州くん。足早いっていうレベルじゃないよね。
笑顔で出迎えてくれた加州くんの頭を撫でて広間へ向かうと安定くんが「おかえり主〜」と言いながら団子を食べていた。
いいなぁお団子食べたい。甘いもの摂取したい。


「主よ、話をしてきたのだろう?政府は何と?」


テーブルにお茶を置いて、座りながら聞いてくるおじいちゃん。その向かいに腰を下ろせば加州くんが団子を乗せたお皿を持ってきて私の隣に座った。


「も〜接戦。私ひとりに対して政府数名。……まぁ口論だから余裕で勝ったけどさ。」

「流石は俺の主!はい団子、あーん」

「あーん。……えっとね、『まさか今まで政府のため未来のために戦ってきた刀たちを簡単に刀解することなんて出来ませんよね?政府だからって何でも許されるのは可笑しいですし?政府さんも多くの審神者に批判なんてされたくないでしょうから、刀解せず私に譲ってくれると信じてますけどどうでしょう?』みたいなことをスマホ見せながら言ったらあっさり承諾してくれた」

「主の威圧すご」

「て言うかそれのどこが接戦なの」

「ははっ、政府にそこまで強気で挑める審神者は主しかいなさそうだな」


驚いた顔してこちらを見た三振り。いやだって、早く承諾して欲しかったし。
ちなみにスマホ見せたのはネットにあげてもいいの?口コミするよ的な意味。審神者専用の水色に白い鳩でお馴染みのあるアプリを開いて見せたら、向こうは理解してくれた。
いや〜政府だって悪い噂は避けたいもんね。本当に政府は賢い判断をしてくれたよははは。


「でも、本当に接戦だったよ。最初は否定されまくり却下されまくりだったんだけど、事情を説明したら後一歩ってところまでいったのよ。だから早く諦めろ〜と思って」

「うん何かもう色々と凄いと思う。主の思考が」

「安定くんそれ褒めてる?貶してる?」

「貶してはない。」

「褒めてもないのね!」


早く諦めろなんて考えてた方がびっくりだよね、と言う安定くんに「可愛いよね」と返している加州くん。会話が成立してない。


「政府は香水さんの刀の扱い方も知ってた。だから却下したんだろうね。恐らくブラック本丸に近いだろうから危ない、って言われたし」

「ブラック本丸に……」

「うん。主に酷い扱いをされた刀は主を相当恨んでいる分、今他の審神者が行けば被害に遭うかも知れないって。……まあ大丈夫だと思うけどね。何せ私には元々向こうにいた安定くんも薬研くんもいるんだし。」

「あーそっか。安定はともかく、薬研も向こうにいたんだったよなー」

「そうそう!何を心配する必要がある!それに向こうには天使の堀川くんもいるし!」


少なくとも、第一部隊で私と会ったことある子たちはみんな分かってくれると思う。みんないい子たちだったから。


「……は!?ちょっと待って主は国広みたいなのが好みなの!?」

「はい?いや、堀川くんは天使みたいに可愛いって意味で言っただけだけど?別に深い意味は何も……ああ、加州くんももちろん可愛いよ?」

「ならいいやー。主も可愛いよ!」

「沖田くんはー?」

「沖田さんは昔の私が好きだったんでしょう?」

「ほう、では今は好いてはいないと?」

「うーん……生まれ変わりだからって今も好きとは限らないよ。沖田さんを好きな気持ちは昔の私にしか知り得ないことだから……今の私にはそれが分からない。」


私は全部記憶を思い出した訳じゃない。だから沖田さんとどう生きてきたなんて知らないし、何で昔の私が沖田さんを好きだったのかも……正直まったく分からない。
全部思い出したら好きになったりするんだろうか。……もうこの世に居ない人を好きになるのもどうかしてる気がするけど。


「……別に深く考えなくていい。ゆっくり思い出せばいいから思い詰めないでよ。ほら、主は主!」


加州くん……。私は黙ったまま隣にいる加州くんの頭をわしゃわしゃ撫でた。髪が〜!なんて言ってるけど無視だ無視。


「今の私は恋とか良く分かんないや」

「では主よ、俺と恋するか?」

「え?いや、遠慮しときます。」


爆弾発言したおじいちゃん。そして私の両端で抜刀しようとする二振り。やめて。本丸が壊れるからね。そう思い急いでお断りすれば、ふたりも黙って座ってくれる。
はっはっは、では俺が頑張って惚れさせるしかないか!と笑うおじいちゃんにまたもふたりが刀に手を添えた。だからやめろっつってんだろお前ら。


「……とりあえず、香水さんの本丸には明日行くことになった。安定くんも付いて来てもらえる?」

「もちろん」

「今度こそは俺も付いて行く!」

「うん、加州くんもお願いね。おじいちゃんはみんなの面倒お願いします」

「あいわかった」


後は薬研くんにも付いてきてもらえるか聞いておかないと。……それにしてもブラック本丸に近い、か。少し心配で、不安だ。
怪我してる子いるって話だからついたらまず手入れしてあげないと。


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