▼出陣編 40〜45▼ 

 42、共に闘う

「けび、いし……?」


安定くんの言葉を復唱するかのように呟くみんな。検非違使なんて聞いたことない。
どういうこと?と問えば安定くんは聞いたこと全てを教えてくれた。
何でも、検非違使はその時代にいてはならないものを排除するための団体らしい。向こうからしては審神者率いる刀剣男士も、時間遡行軍もとい歴史修正主義者も皆同じ敵という事だ。どうやら排除する対象らしい。
おいおい歴修者はともかくケビンさんまでおいでなすったら困るじゃないか。尚のこと出陣させるのが心配になってきた。
───と言うか。私そんな情報聞いてない。歴修者以外にも敵がいるって聞いてない。おいコラ政府。何やっとんじゃ、仕事しろ。


「俺たちは同じ時代に長くとどまりすぎた、ってことか?」

「そうかも知れんな……検非違使とやらがそれを嗅ぎ付けて来たという事だろう」

「じゃあ……もうあの場所の出陣は、なるべく避けたほうがいいですね……」


薬研くんに続いて話すおじいちゃんと小夜ちゃん。確かに出没率は高くなりそうだ。もうあの場所は避けた方がいいかもしれない。


「次の出陣は政府の方に詳しい情報を聞いてからにしよう。それからみんな、次からの出陣は───」

「九重様ーっ!」


私の言葉を遮り突然走ってやってきたのはこんのすけだった。ははは、何て言うかグッドタイミングだね。丁度いいや。
文を届けに……と言いながら隣にやってきたこんのすけの首根っこをがしりと掴んで持ち上げる。ぐえっ!?と言う声が漏れたけど気にしない。


「ねぇこんちゃん……私さ……」

「はっ、はい……?」

「検非違使って言葉、聞いたことないんだよね〜。あと遡行軍以外にも敵がいるって聞いたことないんだ〜。政府は何をしてんだろ〜ね〜?きちんと仕事してんのかな〜。……はい、何か言うことは?」

「……も、申し訳ございませんんん!九重様は検非違使についてご存知……あ!九重様が審神者になられた頃と同時にその情報が新しく入ってそれで……すみません、それはこちらの伝達ミス───いたたたたたたた!!!??」

「ははははミス?何それ面白いこと言うねー」

「あでででででで!!! おっお離しくださ……!!!」


ミスって何。政府は何してんの。
はははイライラする。イライラするでは済まされないくらいイライラする。
こんのすけの首根っこを掴んでいる手の握力を強めれば、痛いやら離せやらわーわー騒ぐこんのすけ。みんなが怪我したよかマシでしょ?ねぇ?
さっきまでご飯を食べていたみんなは箸を置いて私とこんのすけを見ていた。ごめん、ご飯食べていいのに。


「……狐って丸焼きにしたら食べられるかな」

「!!?!? わたくしを食べても美味しくないです……!!!」

「んなこと分かってんだよ。……その政府側のミスで何振りが傷ついたと思ってる?もしウチの子の誰かひとりでも帰って来てなかったら……どうなってるか想像つくかな?」

「申し訳ございません……」

「謝って済むなら警察や新撰組はいらねぇよさっさと検非違使について説明しろ」


掴んでいたこんのすけの首根っこを離しながら言う。隣から「怖っ」と言う小さな声が聞こえたのは気のせいだよね加州くん。
これは怒って当然のことだ。家族が傷つけられて帰ってきて怒らないはずがない。
検非違使についてのきちんとした説明がこんのすけによってされた。大体の内容は先程話したことと同じ。それから、刀剣男士には練度……いわゆるレベルというものが存在する。その部隊の中の一番練度が高いに男士に標準を合わせて検非違使は現れるらしい。まぁ、要するに強いから避けた方がいいということだ。


「じゃあ今日行ったところは既に検非違使に目を付けられてるってことか……。じゃあ次の出陣は違う時代にしよう。それからさっきも言おうとしたんだけど……」


……こんのすけがいるけど、まぁいっか。


「次の出陣からは───私も共に行く。」


案の定、買い物について来たことで既に察していたおじいちゃん以外の全員が「は!?」と言う顔を見せる。正直ここまで驚かれるとは思わなかったが、どの道どんな反応が返ってこようと、このことは絶対に言わなければいけないことだった。


「は?え?ちょっと待って……どうゆーこと?」

「加州くんは知ってると思うけど、ウチ……刀剣が未だに少ないとか、出陣や遠征の成果も特にないとか、他から刀剣奪ったとか変な噂流れてるらしいんだよ……そうだよね、こんちゃん」

「まぁ、はい……評判はあまり宜しくないようですね。ですがあくまで噂でございます」

「別に嫌な噂が流れてるからそれを変えるために一緒に出陣するって意味じゃない。……まぁそれも少しは理由に入ってることは確かだけど、」


私がただ、みんなのことが心配だから。これが1番の理由。そう告げるとみんなは周りの人と顔を見合わせていた。
はっきり言って、一緒に出陣すると思いついたのは昨日だ。現世で私が弓道部に所属していた頃の部長に戦場に出ても死ななさそうだと言われた。本人は何も考えずにただ思ったことを言っただけだろうが、その言葉は1つの案として私の中に残っていたのだ。
今日みたいに、いきなり目の前に強い敵が現れるかもしれない。私の目の届かない場所で、私の知らない内に誰かがいなくなる可能性もないとは限らない。そんなの嫌だ。私は誰ひとりとして欠けてほしくはない。
もちろんみんなほど戦力にはなり得ないかもしれない。でも足手纏いにだけはならないように、それ相応の鍛え方はするつもりだ。


「……主も出陣なんて、反対に決まってんじゃん」


低い声で呟くように言った加州くん。きっと誰か一人はそう言い出すだろうと思った。


「今日、弓と刀を買った。手ぶらで行く訳じゃないし、足手纏いにはならないようにするから安心して」

「俺が言いたいのはそう言う意味じゃない!戦場の意味分かってる!?主は人間!下手したら傷を負うだけじゃ済まされないんだって!」

「うん。……それでも、もう行くって決めたから」

「だから……っ!」


珍しく怒鳴る加州くん。数時間前までは黙りっぱなしだったり、私から逃げてたのに。


「……僕も反対。」


加州くんの言葉を遮って発したのは安定くんだった。沖田の刀はこんなに心配性だったっけ。昔は沖田さんに向かって一食抜いても平気でしょとか言ってたのにね。
やはり安定くんもか……と思いつつ、何で?と問えば、彼は眉間に皺を寄せた。


「何でって……僕たちは刀だから。人である主を守るために僕たちがいるのに。可笑しいよ」

「私にとってアナタたちは、刀の前に大事な家族なの。……大丈夫、別に前線に出て戦うわけじゃない。後ろで援護するだけ」

「全然大丈夫じゃない!主は何回死ぬ目にあったと思ってんの!?今剣を庇ったり、香水に首を締められたり、霊に連れてかれそうになったり!出陣しても無茶するのが目に見えてる!」

「今剣くんはとっさに体が動いたの!私は後悔してないし、あの選択は間違いじゃなかったってはっきり言える!香水さんやあの霊は予想してなかったから……!」

「出陣したら敵からの不意打ちなんて沢山あるんだよ!もっと言えば主は1回死んでんだよ!何で分かんないの!?」

「それは昔の話でしょ!それに私が実際に受けたものじゃない!一々そうやって掘り返すの止めてくれない!?」

「和音は和音じゃん!昔の自分が背中斬られて首落とされた夢何度も見てんなら想像つくだろ!?戦場じゃそんなの───」

「っ黙りなさい加州!!!」


気が付けば加州くんとの言い合いになっていて、私が叫んだ直後は有り得ないほどの静けさが続いた。加州くんは私の声にハッとするが、すぐに眉間に皺を寄せて唇を噛む。
私と加州くんの会話は安定くんにしか分かっていないようで、みんなは何を言っているのか理解出来ていないような表情だった。


「……私は許可を得るために言った訳じゃ無い。これはお願いじゃなくて主としての命令。」

「……っ、」

「心配してくれるのは嬉しいけど、私は意見を変えるつもりは無い。……そう言うことだからこんのすけ。政府には報告するなり黙っておくなり適当に処理しといて。……ご馳走様。」


私はそう言い残すと、食器を下げて部屋へ戻ったのだった。
少し……いや、少しどころか凄く言い過ぎてしまった。加州くんと喧嘩なんて初めてで、嫌われたかもしれないなんて思うと、心がモヤっとする。
彼の言い分も分かる。だけど、ごめんね。やっぱり私は───待つだけは嫌なの。


[*前目次次#]  



TOP  


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -