▼出陣編 40〜45▼ 

 41、鬼ごっこ

「あーあー裸足じゃないですか主……立てます?」

「鯰尾さん?裸足じゃないですかって言った後に立てるかって普通聞きます?そもそも腰抜けたって言ったじゃん」

「ははっ、知ってます」

「おい」


何ですかこの子。本当に良く分からない。
だけど私に背を向けスッとしゃがみ、「どうぞ」と言ってくれる辺り、根はとてもいい子なのだろう。おぶってくれるのか……。
他のみんなは手入れ部屋に直行してね、と言えば「疲れたー!」とぞろぞろ中に入って行く。
一体加州くんはどこに行ったのやら。見つけたら勝手にいなくなるなって言ってやらなければ。どれだけ心配したと思ってんの。こっちは安心して腰抜かすくらい心配したんだから。
ボロボロじゃ愛されない?舐めてんのかコラ。私は捨てないし何があっても愛し続けるって何度も言ったよね?ね?言ったよね?これはもう本当に甘味抜きくらいの罰を与えるに等しいよね。
あ、今絶対に「えっ、それだけ?」って思った奴いるよね。思った奴は全員甘いものが食べられなくなるような呪いにかかってしまえ。甘いもの舐めるなよ。
私を背中に乗せ、よいしょと立ち上がるずおくん。


「重た」

「降ろしてくださいあと殴らせてください」

「あはは、冗談ですよ〜!」

「そんな冗談いらない!信じられない!どうせその言葉さえも嘘でしょ!」

「本当ですって!普通に軽い方……いや、ちょっと軽すぎません?こんななら短刀だって担げますよ。ちゃんと食べてます?」

「えー?人並みには食べてる筈」


甘味は人並み以上だけど(自覚済み)
何かずおくんに心配されると言う変な会話をしながら手入れ部屋に向かう。部屋についた頃には、腰も治っていた。
小夜ちゃん、薬研くん、蛍、ずおくん。次々にさささっと手入れしていく。蛍は手入れ時間が洒落にならないだろうから手伝い札でちゃちゃっと終わらせちゃってと、本人たっての希望。申し訳ないけど使わせて頂いた。
手入れ部屋は私と安定くんだけになる。


「……加州くんいつまで隠れてるつもりなんだろ」

「さぁ?見つけるまで隠れてるんじゃない?」


私をじっと見つめる安定くんの手入れを続けながら苦笑する。


「見つけるまで、か……何がしたいのあの子。……ねぇ安定くん。ちょっと手を借りていい?」

「うん?」


思いついたことをそのまま彼に伝えると、面倒臭そうな表情を見せたが「別にいいよ」と返事をしてくれた。加州くん誘き寄せ大作戦。んじゃ、始めますかねぇ(加州くんの真似)
すぅーっと息を吸い込む。


「あーあー!私の元にきちんと帰って来ない子は可愛くないなー!愛せないなーー!!!」

「別に放っておけばー?そんなことより今2人きりなんだから僕をめいっぱい愛してよー(棒)」

「そうだねー!近侍もいないしね〜!!」

「て言うかもういっそ僕を近侍にしてよ主ー」

「いいよー!今の近侍が今すぐに戻って来ないなら安定くんが私の近侍になるしかないかなーー!!!!」



外に聞こえる程の大きな声で会話する。安定くんもうちょっと感情込めて言ってくれないかな!?そんなんじゃ加州くんも戻って来るわけな───って障子の向こうに加州くんシルエット……!?
え、ほんと?安定くん棒読みだったのに?そんなに近侍外れるのが嫌なの!?
膝上あたりから下が見えない人影は、きっとまだ靴を履いたまま外にいて、入るか入らないか迷っている状態なのだろう。その場をうろうろする加州くん(影)はいつまで経ってもこの部屋に入っては来なかった。
そうか。来ないか。ならばこちらから行くまで。
安定くんに協力ありがとうと言って立ち上がり、スパーンと障子を開ける。


「っ!?」


びくっと肩を揺らしてこちらを見る加州くん。いつも着用している上着、ベスト、マフラーがなく、所々赤く染まった前全開のシャツの状態だった。髪には小さな葉を幾つか付けている。
どこに隠れてたの……と思いながら加州くんと彼の名前を呟けば、彼は泣きそうな顔をして。───逃げた。


「は!?ちょっと何で逃げ……!?」


走って逃げ出した加州くんと、急いで靴を履いて彼を追う私。2人だけの鬼ごっこが始まった。


「何で黙って逃げるの加州くん……!」


私の問いに答えず走る加州くん。意味分かんない何でそんな高いヒールなのにスピード速いわけ!?
こっちはただでさえ、手入れで霊力持っていかれて若干だるいってのにさ!!! ちょっとは考えてよ!バカ!


「ちょっと!」
「加州くんってば!」
「ねぇ……!」


聞く耳を持たない。いい加減、私も怒るよ。


「加州清光!!!!」


思った以上にドスの効いた声が出てしまい、自分でもびっくりする。加州くんは私が障子を開けた時以上にびくっと肩を揺らして、そのままピタリと止まった。まだ走り出されたら困る、と急いで彼の方に駆け寄り瞬時に手首を捕まえる。
私が彼の前に立つも、彼は私と目を合わせようとはしなかった。黙り込んでいる加州くん。いつもと違う態度に戸惑い、何て話し出せばいいのか分からなくなってしまう。沈黙が耐えられない。
もう私から逃げようとは思っていないのか、私が掴んだ手を振り払おうとはせず、彼はずっとその場に立ち尽くしていた。


「……加州くんはとっても可愛くて、綺麗だよ」


その言葉を聞いた加州くんは言ってることの意味が分からないというように、一瞬眉を潜めた。何言ってんの、こんなにボロボロなのに。私に向ける目がそう物語っている。


「姿はこんなにボロボロでも、加州くんの心はとても綺麗だから」

「でも……見た目がこんなんじゃ愛されっこ……」

「ないわけない。そんなことで愛せなくなる方が可笑しいよ」


それに……、と呟いて私は加州くんの手を優しく引っ張った。そして彼を包み込むようにそっと抱きしめる。


「今の姿は出陣で頑張った証じゃない。この本丸に帰って来てくれたことが、私は何より嬉しい」

「主……」

「大丈夫。加州くんがどんな姿であろうと私の家族には変わりない。傷ついて帰ってくれば、その度に私が綺麗に治してあげる。欠けたり折れたりすれば、また走り回って直してあげる。だから安心して」


そう言えば彼は私の背中に手を回し、すがり付く様にぎゅっと抱きしめ返した。表情は見えないけれど、小さな嗚咽が聞こえる。
帰って来てくれてありがとう。それから、


「お帰りなさい、加州くん。」

「……っただいま、主……っ」



 * * *



「はー疲れた……最初加州くんの姿が見えなくて折れちゃったんじゃないかって凄く心配したんだから……」

「腰抜かすくらいですもんね」

「ずおくんそれ言わなくていい!……それで。何でそんなに傷を負ったのか話してもらえる?」


加州くんの手入れも終わり、晩ご飯を食べながら今回の事について話し合う。いつもなら楽しくワイワイ食べてるんだけど、状況が状況により、今回は真剣な話をしたいとみんなに付き合ってもらった。
今回もいつもと同じ場所に出陣させたはずだ。いつもほぼ無傷の状態で帰ってくるのに、なぜこんなに怪我を追ってしまったのか。1度攻略したから大丈夫だと思っていたが、油断していた。


「それが俺らにも分かんないんだよね」


隣でそう言った後、味噌汁を啜る加州くん。手入れする間も暫く泣いてたのに、手入れ部屋を出る頃にはいつもの加州くんに戻っていた。絆創膏や包帯を巻いて、どこからどう見ても怪我人の格好をしているのに、まるで痛さを感じていないような態度で他の子たちと話していた。
まぁ、手入れしたら傷はすぐ塞がるし、普通に数時間もすれば直るからね……さすが付喪神。


「いつもと敵が違ったよね。おまけに今までとは桁違いで強かった……ま、俺たちが勝ったけど」

「……検非違使」


蛍の後に、ポツリと呟いたのは安定くんだった。え?と、みんなは彼の方を見る。


「愛さんのところにいた頃、耳にしたことがある。……多分、検非違使かも知れない」


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