▼祭り編 28〜31▼ 

 31、隠れた特技

「主って何か得意なことはあるの?」


突然の加州くんの質問にはい?と聞き返せば、彼は「だーかーら、主の得意なこと」と同じ質問を繰り返す。
あの後、私が待ってるねって言った場所で、焼きそばを食べていた安定くんと、隅の石段に腰を下ろしていたおじいちゃんの2人と無事合流することが出来た。
戻るとなぜ手を繋いでいるのかと(主に加州くんが)問いただされ、事情を説明する。もう手を繋がなくても大丈夫だよと言えば、加州くんに即却下された。もう1人で歩き回らないから大丈夫なのにね。
そして話は冒頭の加州くんの質問に戻るが、得意なこと……とは要するに特技のことだろうか。


「……何で知りたいの?」

「主のことだからに決まってんじゃん!」


加州くんが素直過ぎて、私ほんと照れる。ド直球で殺しにかかってる。
しかし、特技か。ん〜〜〜、と声に出しながら考えた。1つだけあると言えば、ある。でも正直、自分でもこれが特技なのかどうなのか。
無いの?と聞いてくる加州くんに繋いでない方の手で銃の形を作り、加州くんの目の前まで持っていった。


「……狙い撃ち、かな……ばんっ」

「!?……?!! 可愛いよ主!やられた!」

「いやそう言う意味ではないんですけど」


でもその反応は嫌いじゃない。新しい反応だね。
じゃーどう言う意味!と口を尖らせて聞いてきた加州くんだが、それと同時に薬研くん率いるメンバーの姿を発見し「蛍たちだ!」と叫んだ。
どうやら今剣くんが真剣に何かをしているご様子。傍に寄ってみると、射的をしていた。でも私の知っている射的ではないみたいだ。


「よぉ、大将。」

「射的って……銃かと思ったけど弓なんだ」

「そうみたいだぜ。今剣の奴がやりたいってな」

「へぇ……」


今剣くんは弓を引いて放つも、的から外れた。これは当たった場所、回数によって景品が決められるらしい。張り紙を見れば、矢は1回3本と書いてあった。
これって相当ハードル高いんじゃないか……?


「今剣くんは何狙ってるの?」

「あの1番上に置いてある奴ですって」

「え……オセロ?」


おせろ?と頭を上にハテナを浮かべたような顔をするずおくん。なんて説明すれば分かり易いのかな。将棋みたいに板を使う遊びだと横文字を使わないように上手く説明すると、完全には理解してないものの何となく分かってくれたようだ。
それにしてもオセロが欲しいだなんて……。一番上の棚の景品と言うことは、矢をど真ん中にぶち込まない限り貰えないだろう。さらにハードルが高い。
さっき打ったのが2本目だったようで、今剣くんは最後の矢を構えていた。1本目は的の端に当たっている。


「今剣くん、よーく狙って」


真剣な表情で黙って弓を引く今剣くん。みんなが黙って、集中している今剣くんを見つめていた。
矢を放つ。それは一直線に的へ向かった。だが、矢は当たりが悪かったのか、刺さることなく的の淵に当たって落ちた。みんながみんな「あ……」と呟く。


「残念、惜しかったな〜!はい、1本端に当たってるから景品はこれだな!」


そう言って今剣くんに渡したのはお菓子の詰め合わせだった。今剣くんは凄く残念そうな顔を見せる。そりゃそうだ。1本当たって景品がお菓子の詰め合わせは辛い。500円の価値のあるお菓子の詰め合わせじゃないか。まぁ、的のど真ん中に当てて景品がオセロだからそうなっても可笑しくはない。私の時代の射的は1番いい景品でゲーム機だからかなり偏見があるのだろう。


「残念だったな、今剣」


薬研くんに続いて蛍や小夜ちゃんが励ましの言葉を言っていた。それでも落ち込んでいる今剣くん。他の場所へ移ろうと歩き出した今剣くんたちにちょっと待ってと告げた。


「……すみません、もう1回やります。」

「お!いいよいいよ〜さっきの僕がやるかい?それともお嬢ちゃん?」

「私が」


主?と全員が不思議そうにこちらを向いた。加州くんに手を離してもらって財布から500円を取り出して渡す。
そしてついでにこれを持っててと財布を渡した。


「……あのオセロは真ん中を当てないと貰えないんですよね?1本でも当てたら貰えるんですか?」

「ん?あぁそうだな。1本でも当たればだけどな〜お嬢ちゃんオセロ狙いかい?」

「そうですね。オセロ狙いです。」


そう言いながら腕に付けていたゴムで髪をまとめ、矢を3本受け取った。弓はどうやら好きなのを選んでいいらしい。色んな弓を持ってみて、1つを選び、矢を弦に引っ掛けた。


「主出来る?何なら俺が代わろうか?」

「清光って弓使えるの?」

「分かんない。俺も初めてだし。出来たとしても真ん中に当たるかは知らない」

「随分と見くびられたものだねー。私がど真ん中狙うのは無謀すぎる?……ま、そう思うのは勝手だけど集中出来ないからちょっとみんな黙って」

 
そう言えば周りが一気にしんとする。ごめん言い過ぎてしまったかも。そう思いながら横向きに立ち、顔だけで的を見つめ構えた。一度目を瞑り深呼吸をしてから再び的を見据える。
子供にも出来るくらいのゲームだから射程距離はそこまで遠くもない。だから狙いやすいと言えば狙いやすい。
弓を頭のあたりまで上げ、そこからぐっと引いた。しっかりと的を狙って、いけると思った瞬間に手を離す。矢は直線を描く様にまっすぐと進み、スパーンと綺麗な音を響かせた。誰が見てもわかるくらい、見事に真ん中に刺さっている。


「……オセロ頂き。」


全員が的の方を見て唖然としている中、今剣くんだけがオセロゲットで純粋にわーいと喜んでいた。


「言ったでしょ加州くん。特技は狙い撃ちって」


2本目の弓を軽く引いて加州くんに向けると、びくっと驚かれた。いや、ごめん。本当には撃たないから安心して。


「確かに言ったけど!弓とは思わないじゃん!」

「そうだね。じゃあ言い直そうか。特技は弓道。元弓道部で初段持ち、です」


そう言いながら構えて弓を引く。2本目を放つと、またもやど真ん中……とはいかず、今度はほんの少しだけ外してしまった。これでも景品的にはデカいはず。そして3本目、ラストの矢は再びど真ん中に当たって終了した。
営業的にやばいぞと言う顔をしていたお店のおじさんに、景品はオセロだけでいいですと言うと完全に安心した顔をされた。オセロを頂くと、今剣くんに渡す。


「ありがとうございます!あるじさま!」


一生大事にします、と言う今剣くんに苦笑しながら程々にと返した。そろそろ帰ろうか、とみんなと話しながら本丸へ向かう。
こんな大人数でお出かけなんて今までになかったから、新鮮で案外楽しかったかも知れない。


「主って弓出来たんだね。カッコよかった」

「そうー?ありがと安定くん」

「確かにカッコよかったですけど、主ちょっと怖かったですよ」

「それ僕も思った。集中出来ないから黙ってって言われた時でしょ。あの時真顔だったね。」


ずおくんと安定くんがそう言えば、それは確かにと加州くんが同意した。蛍も頷く。薬研くんは苦笑しているだけだったが、多分この子たちと同じこと思ってる。顔に書いてある。


「主さまは、怒らせたらいけない……と思ってます……」

「な、小夜ちゃんまで……!」

「はっはっは、主を怒らせたら射抜かれるか。それは注意せねばな」

「笑い事じゃないよ。家から弓持ってきて本当に射抜くよ。」

「でも!」


頬を膨らませながら、笑っているおじいちゃんを見ていると、今剣くんがオセロの入った大きな箱を抱えてニコッと笑った。


「あるじさまはとーっても!やさしいですよ!」


的当て、やった甲斐があったなと心から思った瞬間だった。
今剣くん優勝。


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