「うわ〜賑やかですね〜……あ、主!あれは何ですか?」
「ん?あー、わたあめって言って甘くてふわふわしてる食べ物。砂糖で出来たお菓子だよ」
「主よ、あのいかにも甘そうな菓子は何だ?」
「あれはクレープ。色んな味が選べるよ」
結局お祭りはみんなで来た。自分含め9人もいるなんてかなり多いだろうと思いながらも屋台を回る。なんと屋台は数は少ないものの、私のいた時代に近い物ばかりで知っている屋台がたくさんあった。甘い物好きな私としてはとても嬉しい。 そしてさっきからヤケにテンションの高いずおくんと、好奇心旺盛のおじいちゃんの、両隣からくる質問を返していく。まぁ基本屋台の品について答えてるだけだけど。 それにしてもこんな時期にお祭りなんてどうしてやっているんだろう。ずおくんにわたあめを買ってやるついでに店の人に聞いてみれば、何でも初夏を彩るために行われている恒例行事らしい。 初夏、もうそんな時期なのか。
「あるじさま、すごいですよ!おさかなが いっぱい!」
「それは金魚って言うんだよ」
「ねぇねぇ、これは何?たくさん色んな物が置いてあるよ?」
「それはくじ。いい番号当てたら景品が貰えるんだよ。……蛍、やってみたい?」
興味津々に聞いてきた蛍にそう問えば「うん」と即答。じゃあ一回だけね、とお金を渡した。蛍が引いたくじは残念ながらハズレの方。残念賞でシャボン玉をもらっていた。
「主、これハズレなんだって。もらった」
「うん、まぁくじはみんなそんな物だよ!シャボン玉は持って帰って明日にでも一緒にやろうね」
「うん!約束っ」
ニコリと笑う蛍に可愛いなと頭を撫でると、安定くんが私を呼んだ。珍しく加州くんと安定くんが喧嘩せずに一緒にいる。……まぁ流石にずっと喧嘩はないか。喧嘩するほど仲がいいって言うし。そう思いつつも、何?と行ってみれば傍には仮面が売ってあった。まさかこれに興味が? だけど安定くんが手に取ったのは仮面ではなくカチューシャだった。それも猫耳のついた。 猫と言えばこの前、この2人が手合わせをしていた時。安定くんが『殺してやるよ子猫ちゃん』って物騒な言葉を言っていたのを聞いてしまった。安定くんは猫好きなの?嫌いなの?はたまた殺したいくらい好きなの?分からん。 そんな変な考え事をしていると、頭に何か付けられた感触があった。安定くんの持っていたカチューシャがない。
「主、猫似合う」
「え、えー……猫?」
「いやいや、猫よりこっちでしょ」
加州くんは猫耳カチューシャを取ると、さっと他のをつけてきた。今度はなんだ。
「んー、兎もいいけどちょっと可愛すぎない?」
「別に可愛すぎてもいいじゃん?」
「でも主は可愛いより美人寄りだから猫の方が合うと思う」
「それはそうかも知れないけどさー」
「ちょっと待って何の討論してるの君たち」
うさ耳カチューシャを外しながら2人に問う。いやまぁ大方分かってはいるけど、猫と兎どっちが私に似合うかなんて話して楽しい?て言うか絶対仲いいよね2人とも。 主はどっちが好き?と私の質問をスルーして聞いてくる安定くんに「んー……狐のお面がいいかな」と適当に返しておいた。
「なぁ大将、ありゃ何だ?」
今剣くんと小夜と蛍の傍に付いてくれていた薬研くんが指さした方を向けば、真っ黒な看板に赤い字で何かが書いてあるのを見つける。 お化け屋敷だね、と答えれば今剣くんの表情がぱぁっと変わった。
「たのしそうです〜」
「行ってみる?作り物なら楽勝でしょっ」
「主も行きましょうよ!」
もう完全に行かなきゃ気が済まない顔をしている今剣くんと蛍とずおくん。
「えーお化け屋敷かー……そんなに行きたい……?」
私、嫌だなお化け屋敷。別に怖いからとかではない。偽物だと分かっているから行こうと思えば行ける。だけど、たまに本物に遭遇することがあるから嫌だ。出来れば遠慮願いたい。
「主はまだ見たい所あるだろうし、こいつらは俺っちが見とくぜ。」
私がお化け屋敷には行きたくないと言うのが顔に出ていたのか、薬研くんがそう言ってくれた。 兄貴……ありがとう。感謝する。
「主や、俺はあの赤いものが食べてみたい」
「ん?あ、りんご飴ね」
「ふむ、林檎の飴か……確かに言われてみればその位の大きさだ」
「おじいちゃん、林檎くらいの大きさの飴って意味じゃないよ?林檎丸々一個が飴の中に入ってるの」
「そうなのか?いやはや、これは驚いた」
「……じゃあ大将、30分後くらいにまたここに待ち合わせってことにしようぜ」
早く食べたいと私の袖を引っ張るおじいちゃんにちょっと待ってと言って、薬研くんにお願いねとそれ相応のお金を渡す。 そして薬研くんは今剣くんと蛍とずおくんと小夜ちゃんを連れてお化け屋敷の方に向かっていった。ずお……君、仮にも薬研くんのお兄さんじゃ……。……まぁいいや、きっと大丈夫だろう。薬研くんがいるなら何の心配もない。私も安心してお祭りを楽しめそうだ。そうと決まれば甘い物甘い物。
「なぁ主、りんご飴は……」
もうこのおじいちゃん飴しか眼中に入ってないよ。呆れながらも、分かった分かったとおじいちゃんの手を引いてりんご飴を買いに行く。私いちご飴買おう。 加州くんと安定くんは何か食べたいものはあるんだろうか。りんご飴をおじいちゃんに渡し、私はいちご飴を頬張りながら2人に聞けば、加州くんはチョコバナナ、安定くんは焼きそばが食べたいと言ってきた。もう屋台代は政府のお財布からでもいいでしょ。今は立て替えておいて、後で報告書(という名の請求書)提出してお金もーらお。お昼代だよ。うん決定。 近くにあるチョコバナナのお店へ行き一本買って「落ちやすいから気を付けてね」と加州くんに渡す。次に焼きそばを買うため屋台を見つけるべく歩いた。
「りんご飴はどう?」
「美味いな。思ったよりも甘酸っぱい」
歩きながらもしゃもしゃと食べているおじいちゃんを見て笑う。食べ方が何か可愛い。中身おじいちゃんってことを知らない人が見れば、りんご飴を食べている美青年にしか見えないだろう。だがしかし彼の本性はただのマイペースなじじいだ。 後は安定くんが食べたいと言っていた焼きそばを探すだけ。どこにあるかときょろきょろしていればすぐ先にあるのを発見した。だが、どうやらかなりの人が並んでいるらしい。 私は「ここでおじいちゃんと待ってるから買っておいで」と安定くんにお金を渡すと、加州くんが付き添いで買いに行った。戻ってくるのにしばらくかかりそうだ。 しばらく待っていると、おじいちゃんはりんご飴を食べ終えた。途中で割り箸から林檎がずり落ちて受け止めてたのを見たが、手は大丈夫なのだろうか。ベタベタじゃないかな?
「手…洗ってくる?」
「……そうしたいな。少しばかり行ってくる」
「どうぞ、いってらっしゃい。あ、私の捨てるついでにゴミ捨てとくからそれ貰うよ?」
「すまんな」
割り箸を受け取っておじいちゃんが手を洗いに行ったのを確認すると、近くのゴミ箱に捨てに行った。 思ったより、賑わっている。最初は留守番しておくなんて言ったけど来て正解だったかもしれない。お祭りは甘いものがたくさん売っていて好きだ。みんなもいるし倍楽しかった。 初夏を彩るための恒例行事か。これからだんだん気候は暑くなっていくのかな。 |