▼演練編 14〜27▼ 

 26、決めたから

「…………おも、い……」


今朝は本当に大変だった。目が覚めると、両端から伸びる自分のものではない手のせいで身動きが出来ず、何が起きたのか冴えてない頭で一生懸命に考えていた。全てを把握する頃にはパッチリ目が覚めて、両端を交互に目をやる。
何でここで寝てるの?しかも2人とも顔近い。お姉さん照れてしまうじゃないかこのイケメン共。ぐっすり眠ってて起きる気配なさそうですが私は抱き枕じゃないぞー。そして重い退いてくれ。


「加州くん安定くーん起きろ〜」


そう言いながら両肘で2人をつつけば、うう、と唸りながら……起きない。いや、起きてよ。
もしかして朝弱いのだろうか。かく言う私も決して強くはないが、今まで早起きして学校なんかに行っていたから、完全に癖がついてしまっていた。というかこの状況だと嫌でも覚めるよね。寝起きが悪いのは沖田さんと似てるなぁ。


「爆睡か……ほらほら、起きた起きた!」

「え……?」

「……え?」


私の言葉にすぐに反応したのは安定くんだった。瞬時に反応して逆にこっちがびっくりだわ。驚きつつも「おはよう」と挨拶をする。


「…………今、沖田くんって呼んだ……あれ……?」

「まだ寝ぼけてるんだね早く目を覚まそうか」


どんだけ沖田さん大好きなのこの子。私は沖田さんなんて一言も言ってないよ。同じ音ではあったけど。……でもそうか。これから役に立つかも……?沖田くんって言ったらすぐ起きてくれるかな。変な光景だけど。
安定くんは大丈夫として、未だに抱きついたまま眠っている加州くんを起こす。安定くんより寝起きが悪かった。


「……おはよう加州くん」

「…………うん……あれ、あるじ……?」


おはようって言ったらうんって返ってきたよ!
うっすらと目を開けて眠そうにこちらを見る加州くんに「そうだよ主だよ」と返せば、やっと理解してくれたのか数秒後に慌てて飛び起きた。


「…………えっ!!?」

「おはよ……って、どうかした?」

「あああ主見ないで!髪ボサボサだし!多分昨日のせいで目腫れてる!!」


そう言いながら頭から布団を被る加州くん。おいそれ私の布団だ。何でよ別にいいじゃーん、と言いながら布団を力づくで奪い取る。髪ボサボサ!しかも結んでない!何か新鮮だ!
まだ2人で暮らしてたときはいっつも加州くんの方が起きるの早かったから見たことなかった。


「別にそのままでも可愛いけど……」

「……え?いや、そんな冗談流石に通じないって」

「お世辞でしょ。だって朝は特別にブスだしね」

「お前は黙ってろ!て言うか何で主の傍にお前がいるんだよ!『和音さんなんて嫌いだよ』とか言ってたじゃ───あでっ!」

「うるさいブス。首落とすぞ」

「朝からよくやるよホント。私は朝から冗談言えるほどの脳は持ち合わせてないからね。……それより加州くん朝弱かったんだね。寝起きの加州くん眉間に皺ちょー寄ってて人相最悪だったし。」

「!!! だからいつも主より早く起きてたのに……!」

「あ〜だから見たことなかったのか〜。隠さなくていいのに。可愛いよ加州くんは……ほら、ギャップ萌えって言葉もあるじゃん」


加州くんは頭の上に思いっきりクエスチョンマークを浮かべている。多分ギャップ萌えが分かんないんだろうね。面倒臭いから説明はしないけど。……まぁいいや、そろそろ朝ご飯の支度しなきゃ。そう言って、支度をするべく2人を部屋から追い出した。
台所へ行くと既に燭台切さんと堀川くんがいて朝ご飯を作っていた。ごめんね、台所勝手に使わせてもらってるよ、と朝から爽やかな笑顔を頂き、申し訳なくなる。うわぁぁごめんなさい、そして美味しそうな匂い……。


「和音さんおはよう!」

「おはよう堀川くん」


エプロン付けた堀川くん可愛い……。お母さんって感じじゃないけど……ああ、お姉さんみたいだ!お母さんっぽいのはその隣の燭台切さんだね。


「和音ちゃん、昨日突然倒れたみたいだけど大丈夫なの?」

「あーうん。大丈夫です。もう頭痛も治ったし」

「そっか、良かった」

「……そうだ。安定くんの誤解、解けたみたいで良かったですね」

「え、何で知ってるの?」

「いや、とても仲良さそうに寝てたから」

「ゑ。……見ちゃった?」


堀川くんは「?はい、見ましたよ!」と愛くるしい笑顔を見せる。うわっ、すっごい恥ずかしい!まさか見られてたとは思わなかった。


「……わっ!!!!」

「ひっ!?」


照れている途中で突然背後から聞こえた大きな声に肩がびくりとなる。もしや……と思って振り返ってみれば、ものすごい笑顔の鶴丸さん。


「ははっ、いい驚き方だったぜ!君の反応はいつ見ても面白いから驚かしがいがある」

「……そりゃどうも」

「鶴さん、彼女が困ってるじゃないか。程々にしてあげなよ」

「すまんすまん!面白くてついな!……それより君のその首の跡、一体どうしたんだ?」


鶴丸さんが私の首を見ながら首を傾げる。首の跡?何だそれ。そう思っていれば、燭台切さんが「ホントだ。首に赤い跡がついてる」と呟いた。
もしかして昨日の……その今思い浮かんだことがもし合っているとしたら、私は何て言ってあげればいいんだろう。アナタたちの主が首を絞めた跡だよ、なんて言えない。言える訳が無い。


「愛さんがつけたんだよ。」


その言葉に振り返ると、安定くんが立っていた。みんなは驚いて私の首の跡に再び目を移す。自分では見えなくてどうなってるのか分からないけど、あまり見ないで欲しい。
思っていたことが通じたのか、はたまた思いやってくれたのかは分からないが、安定くんは私の首を隠すように自分の襟巻きを巻いてくれる。


「僕は、主……和音さんといることに決めた。」

「大和守くん……」

「突然何を言い出すかと思えば、驚いたぜ……じゃあもう帰らないってことかい?」

「うん。僕はここに残って和音さんといる。やっと僕が仕えたいって思える主が見つかったんだ」

「そっか……やっと見つかったんだね。……うん。僕は止めないよ。」


堀川くんは笑って安定くんを見る。後の2人も驚きつつも納得してくれているようだった。刀たちはいい子ばかりなのに主があんな態度なんて、何だかちょっと残念だ。香水さん、外見はとても可愛いんだから性格直せばかなりモテると思うのに……。人にも、刀にも。
出来た朝ご飯を食卓に並べていると、今剣くんたちがやってきた。私を見ると、目が覚めたんですねと抱きついてくる。とても心配してくれてたようだ。ありがとうと、頭を撫でてやった。


「……大丈夫そうで何よりだ」

「うん。兄貴もありがとう」


そう言って薬研くんの頭も撫でてやる。その光景を見た鯰尾やおじいちゃんまでもが俺も俺も!とやってきた。も〜しょうがないんだから!幸せ者だなぁ、今の私は。審神者になろうって思った頃は、きっとこんな風な生活になるなんて1ミリも思ってなかっただろう。
最後に加州くんがやって来て全員揃うと、朝食の並んだテーブルについて朝ご飯を頂く。香水さんはこの場には来なかった。燭台切さん曰く、いらないって言ってたらしい。まぁ、私と顔合わせたくないだろうね。
そして、これを食べたら今日で香水さんたちともお別れだ。


「主や、腕は大丈夫か?痛ければ……どれ、俺が食べさせてやろう」

「いや、大丈夫だから遠慮しとくよ。ほら、加州くん睨んでるし、まず自分の朝ご飯を食べて」


主が言うなら仕方あるまい……と残念そうに言うおじいちゃん。本当に急に変なことを言い出すんだから。
でも、そんな生活も悪くないんだよね、これが。そんなことを思えた賑やかな朝食は、時間が経つのが早く、あっと言う間に終わってしまった。


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