▼演練編 14〜27▼ 

 20、同情?利用?

本当にムカツク、あの女。
何が心がある、よ。何が気持ちを知れ、よ。私のやり方に口を出して。本当にイライラするわ。


「あるじさま!ぼくもしてほしいですー!」

「いいよ〜おいでー!」

「ちょっ、主それ浮気!?」

「はっ!?? 浮気って何!!?」


目の前で九重に抱きつく清光と今剣を見て失笑する。どうせみんなから好かれたいから綺麗事言ったに決まってるわ。そういう計算高い女って、とても分かり易いのよね。
ここの刀、数が少ない割には結構レアな刀があるじゃない。蛍丸とか、三日月宗近とか。それに、清光も鯰尾も割といい線いってるし。……こんな奪ってでも使いたくなるような良質な刀がこんな偽善者が住んでる場所にいるなんて納得がいかない、不愉快極まりない。こっちのほうがよっぽど刀たちが可哀想だわ。私ならそんなことをしないのに。
……そうだ。そうよ。可哀想だから私が助けてあげなくちゃ。こんな腑抜けた場所から救い出してあげるの。
ふふ、私イイコト思いついちゃった。どうしてもっと早く気付かなかったのかしら。刀みんなからあの女が嫌われるってのは中々面白そうじゃない。みんながあの女をいい人だって信じてる分、裏切られたと認識したら、さぞかし大変な事になるでしょうねぇ。


「……ふふ、」


考えるだけで口元が緩む。まずは誰をターゲットにしようかしらぁ。
そう思いながら広間を出ると、向こうから三日月宗近が歩いてきた。1番レアな太刀だけあって、優雅でとても品がある。とても欲しい。
……ターゲットは決まりね。早速実行してあげる。


「……はぁ、」

「おや、どうかしたか?」

「まさか和音ちゃんがあんなことを考えてたなんて思いもしなくて……」

「……主が?何をだ?」


早速興味を示してくれている。


「……私、さっき聞いちゃったのよ。和音ちゃんが刀たちに優しい言葉をかけるのは、ただの同情なんだって。別に本当に思ってるわけじゃなくて、自分の居場所がなくなるのが嫌だから、利用してるだけなんだって……。みんなの前で私にあんなこと言ったのも計算のうちだったんだよ……!酷い……っ」


そう言えば三日月宗近は少し眉をひそめて私を見つめていた。
だけどその後「ふむ、主がそのようなことを……」と呟く。どうやら信じたみたい。ふふ、人間と刀の信頼なんて所詮こんなものだわ。長く築き上げてきた信頼も、崩れるのは一瞬ねぇ。


「どれ、俺が主に確かめてみよう」

「私も付いてく。和音ちゃんは広間にいるわぁ」


そう言ってさきほど出た広間に三日月宗近と一緒に戻る。さて、どうなるのかしら。面白いものが見られるといいわぁ〜。これから楽しみね。





「加州くんいつまでやってんのさ〜」

「いーじゃん減るもんじゃないしー」

「加州ばっかりずるい!俺も入れてよねっ」

「うわー私今モテ期なのかなぁ?いいよ蛍もおいで!」


相変わらず後ろにくっついたままの加州くんに「みんな見てるのに恥ずかしいって」と返せば「蛍丸はいいのに俺はダメなの?」と即答された。いや、蛍は小さいから……。
蛍の頭をナデナデしながら「じゃあ後ちょっとだけよ」と加州くんに言った。も〜みんな可愛いな〜〜。ほんと癒される。


「主や、」


そう呼びながら広間に入ってきたのは三日月おじいちゃんだった。その後ろには香水さん。
まさかまたあの女んんっ……香水さん何かやらかした?


「ん?おじいちゃんどうかした?」

「少しばかり聞きたいことがあるのだが、」

「うん、どーぞ?」


真剣な顔で私を見てくるおじいちゃん。そんな表情を見て少し嫌な予感がした。
周りの刀たちもおじいちゃんを見る。


「……刀に優しい言葉をかけるのは同情故、か?」

「……はい?何それどう言う意味?」

「主の優しい言葉は本心ではないと聞いた。自分の居場所を作る為に、俺たちを利用しているのか?」


おじいちゃんの言葉で、みんなの目線がおじいちゃんから私へと変わる。聞いたって誰から……?私はそんなこと一度も思ったことがないし、一言も言った覚えがない。
そう思えば後ろにいた香水さんが「私聞いたんだから!」と切り出した。


「心に傷がついてる刀は優しい言葉をかけたらすぐに信用してくるから面白いって!すぐに信じて馬鹿みたいなんでしょ?私よりアンタの方がよっぽど酷いじゃない!」


何ソレ。誰がそんなアホみたいな台詞言ったの?……こんにゃろう、私を嫌わせる作戦か。
よくあるよねーテレビや小説とか。嫌われって言うんだっけ?実際に今、私がその嫌われのターゲットとして罠に嵌められようとしている訳ね。普通にそういう創作ネタとしたら最終的に復讐か、真実が明らかになって和解っていう二択だろうけど……はい残念、私はそこまで引き伸ばさせるつもりはありませーん。
正直、そういうネタって主人公が思ったことをきちんと言わないからズルズルズルズル変な方向になっていくんだと思う。そんなの嵌めた女の思う壺じゃないか。
私はそんな風にはさせない!そうなる前にこの私が覆してやるわ!!!


「……利用、ねぇ」


みんなは本当なの?と言う顔で私を見てくる。香水さんの刀たちも黙ったまま私を見てきた。本当なのって?……んな訳あるか。
まずは聞いてきた本人に聞いてみるとしよう。その反応を見てから……。


「おじいちゃんは、私がそんなこと言う人だって……思う?」

「いや、思わん」

「そっか……って、え?思ってないの!?」

「思って欲しいのか?」


いやいや、全く!と首を傾げたおじいちゃんに、首を振る。覆すも何もその前に私のこと信じてくれてたよおじいちゃん!


「主はそんなことを言う人間ではない。嘘か誠かそのくらい俺にも分かるぞ。何だって俺は主を好いているのだからなぁ……はっはっは!」


……うん、笑うところかな?それよりおじいちゃんって、みんなの前で普通に平然とした顔で好いてるとか言ってくるよね。
そう言ってくれるのは有難いけど今は少し自重してください。ウチの刀たちはみんな知ってるけど、香水さんとこの刀たちみんなびっくりだよ。現に今、鶴丸さんが「こいつァ驚いた……」って呟いちゃってるから。


「全然笑えない冗談なんだけど。てかさー、主がそんなこと思うわけ無いじゃん?伊達に主の初期刀やってる訳じゃないんだから、そのくらい俺にだって分かるよ。それに俺、主にちょー可愛がってもらってるし!」


そう言って加州くんは私が前にしてあげたネイルを見てふふんと笑った。
加州くん……!そんなのいくらでもしてあげるよ!


「大将がそんな酷いやつなら、俺は今頃ここにはいなかったと思うぜ。折れた刀のことまで思ってくれたんだ。だから主を信じる。」


兄貴っ!!


「ぼくも、あるじさまが そんなことをするようには おもえません」

「今剣を命をかけて守ったんだ……主さまはそんなことしません」


今剣くん……小夜ちゃん……


「主って何だかんだ言ってすぐに感情が表に出るから分かり易いですもん。同情とか利用とか難しいこと考えられる人じゃないです」

「はい鯰〜表出ろ〜〜その綺麗な髪バッサリいってやるわ」

「やだなぁ主、褒めてるんですよ〜?」

「褒め言葉には聞こえない!8割型貶してる!」


何こいつ、口を開けば貶してきおって!!!
ほんといつまでも謎な男だなこいつは!!!


「まぁまぁ主。……俺も主を信じる。っていうか、どうせ君の作り話でしょ?それに俺、君と主が2人でいたの見たことないんだよね〜」


蛍……。みんな、私のこと信じてくれるんだ。そう思うと何だか心が温かくなった。
みんなの言葉に『信じてくれている』と実感して目頭が熱くなる。みんな、ありがとう。そんな思いでいっぱいだった。


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