▼演練編 14〜27▼ 

 18、話だけなら

本丸はこんなにも静かな場所だっただろうか。いや、私が周りからの音を受け付けられずにいるのか。驚くほどに不気味で静寂に包まれたその場所には、周りには誰1人として人がいない。否、正確に言えば私と安定くんの2人以外には、だ。


「………。」


お互いに黙ったまま時が流れる。私にはそれがちょっと長く感じられた。
呼び出しといて無言かい。気まずいなぁ。


「あ、あの……私に何か用、でしょうか……」

「そんなに怯えなくていいよ。別に斬ったりしないから。多分。」


多分ついちゃってる時点で信用なりませんからね???


「……話だけなら、聞いてあげてもいいよと思って」

「……話?」

「和音さんが生まれ変わりなのはまだちょっと信じられないけど、本人が今の時代に生きてるって言うのもおかしな話だし……前世の自分について清光が知ってること以外のことを言えたら、生まれ変わりだってことは信じてあげるよ」


清光から教えられてるってことも考えられるからね。と続ける安定くんの意外な言葉に驚きつつも、これは第一歩近付けたんじゃないかと嬉しくなる。しかしどうしたら証明できるのだろうか。
嬉しいけど、中々の難問じゃない?加州くんが知らないこと言えってハードルはかなり高い気がする。だって前世についてまだ少ししか思い出していない私は、大体のことを加州くんから聞いているのだから。


「……甘いものが好き」

「知ってる。」

「今も昔も両親が嫌いだとか、」

「清光から教えられてる可能性がある内容はダメだって。あと今は別にどうでもいい。」

「辛辣……。うーん……昔の私には刀たちが見えてた……はどう考えでもダメか」

「大前提だよね。普通に考えて。」

「実は堀川くんたちとも遊んでた!」

「僕も清光も知ってるよそんなの。」

「沖田さんとは試衛館に預けられる前からの仲だってことは!?」

「だからみんな知ってるって。」

「あーもう分かんない!沖田さんはそこまでイケメンってほどイケメンではないと思ってた!」

「斬るよ。」

「ひぃぃごめんなさい!」


そう言えば加州くん曰くこの子は沖田さん大好きくんだった。変なこと言ったら殺されること間違いないですねこれ。……お願いだから刀だけは抜かないで。今のは私が悪かった、本当に。ごめん。


「……私が分かることって言えばそのくらいしかない。安定くんの言う通り、加州くんに教えてもらってばかりだから……」

「それだけ?って言うか和音さん。沖田くんを侮辱したりとか、自分でそう言うってことは前世の記憶あるってことでしょ。だったら僕の提示した質問くらいお茶の子さいさいで答えられるでしょ」


本心だけど侮辱してるって訳じゃないよ。そう心の中で叫んでいると、安定くんは「何で出会ったとき僕のこと分からなかったの?」と一瞬悲しそうな顔をした。
そこで、安定くんの提示した質問がおかしいことに気付く。よくよく考えたら、そうだ。生まれ変わりを証明するのなら、答えられないほうが正解なのではないか。だって当時の記憶がないそれ即ち、本人ではないということの証明になるのだから。嘘だとか、記憶喪失なだけじゃないのかと言われてしまえばそこまでなのだけれど。


「……前世の記憶って言っても、私はまだ少ししか思い出せてない。夢を見たりとか、昔起こった光景と似た場所や物事に遭遇したらフラッシュバックするかのように脳内に流れてきたりするだけなの」

「夢……?」

「うん。私が審神者になる前はずっと同じ夢だった。沖田さんを看取る夢がずっと続いて……そのあとすぐに光景が変わるの。そして次の瞬間に私は殺される。」


最初は何でこんな夢ばっかり、って思った。夢を見たくなくて、でも寝ないわけにもいかなくて。寝不足が続く中で、枕を変えたりだとか、リラックスできる環境を整えてみたりだとか、散々快眠できる方法を模索した。けれど色々考えたところで結果は同じで、こんな話を誰かに相談したところで誰にも相手してくれないことは分かっていたから結局1人でどうにかするしかなくて。一向に解決しそうにない悩みに、どれだけ苛立ちが募ったか。
結局原因も何も分からずに見る回数が減っていき、私はいつの間にか普通の睡眠を取り戻すことができていた。だから審神者になる前にみた久しぶりの夢に驚きさえした。


「でもこっちに来て加州くんと出会ってから少しずつ変わったの。昔の私が沖田さんと楽しそうに言い合ったりとか、清くん安くんって言いながら2人と話をしてる夢も見るようになった。……だから、安定くんと出会ったとき完全に分からなかったわけじゃないの。夢で出てきた子と似てるって少し違和感はあった」


とても長いこと喋り続けてしまった。なのに安定くんは黙って聞いてくれている。
根は案外いい子なのかも。夢の中でも素直で可愛かったように。


「……殺されたって何。」

「え?」

「だから、夢の中で殺されたって何?」


ああ、そうか。このことは加州くんも安定くんも知らないのだった。……ということはつまり。安定くんに生まれ変わりだってこと証明出来るかもしれない。後もう一歩だ。


「前世の私は、新撰組を憎んでいたであろう不逞浪士に殺された、って言ったら……安定くんは信じてくれる?」

「……信じない。」


うん、ですよね。もう何となく分かってました。
俯き気味の彼の表情からは何を考えているのか読み取れない。けれど、安定くんの言うそれは信じられないと言うより、受け入れられないって方に近いのではないかと直感した。多分これ言ったら斬られるから言わないけど。


「加州くんとアナタを置いて出かけた日。沖田総司と一緒にいる所見た、手土産はアイツの首だ、って刀を振り下ろされてまずは動けないよう背中を斬られるの。」


何が起きたのか分からなくて、尋常ではない鈍い衝撃が背中を走った。
その姿は容易に想像できたのか、安定くんは嫌そうな顔を見せる。それでも黙ったまま聞いてくれている安定くんを見て私は続けた。


「その後の首を斬られる所で毎回目が覚めるんだけど……私はそれまでに必ず思うことがある。『2人にまた寂しい思いをさせてしまう。いつかまた会える日が来ますように』って。夢の中では私とは全く別物の、感情が存在してた。だから生まれ変わって、今こうしてここにいるのかも知れない。……だから昔の私はアナタたちを捨てたわけじゃないんだよ」

「そんなこと言われても……簡単に信じられるものじゃないよ。」


うん、そうかもしれないね。安定くんにそう言ってあげることしかできない。例え昔の私が殺されたという事実があっても、刀たちはそれを知らなかった。知らずに毎日毎日帰りを待ってくれていた。
すれ違い、思い違いで生じた誤解を解くのはやっぱり難しい。捨ててなんかいないと断言したところで、私は昔の私ではない。だから『本当にそう?』って聞かれても正確には分からないのだ。
今の私は昔の私とは違う。時代も、環境も、何もかもが。きちんと私自身の意思が、ここに存在する。


「ゆっくりでいいと思う。自分のペースでゆっくり解釈していけばいい。どちらにしろ悪いのは私なんだから」

「でも、和音さん……」

「───何してんの。」


突然、私と安定くん以外の声がした。反射的に声の方に顔を向ければそこには加州くんが立っていて、鋭い目つきでこちらを見ていた。否、視線の先は安定くんだった。睨むようにして見ていた彼に、加州くん……と呟いたが、どうやら私の声は彼には届かなかったらしい。


「……主に何もしてないよな」

「さぁ?どうだろうね。自分で聞いてみれば?」

「チッ……主、行くよ」


見るからに不機嫌な態度をとる加州くんはガシっと私の手を掴むと、強い力で引っ張った。


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