「……死ぬかと思った」
第一声がこれで申し訳ない。だけど本当にそう思った。斬られる直前と斬られた直後。おまけに消毒される時に。 本当に痛くて痛くて涙が止まらない。 加州くんは手当てされている私の涙を拭ってくれながら「そりゃー主がこんな無茶するから。」と困った顔で呟く。全くもってその通りですね。
「そのくせ自分で手当てできないとか……ごめんなさい本当」
そう謝れば手当てをしてくれていた水色の髪の彼は「いえ、元々は私たちの責任ですから」と申し訳なさそうに言ってくれた。確か、ずおくんがいち兄って言ってたよね。 ウチの刀たちは手当ての仕方を知らないらしくて、どうしよう放置ってわけにもいかないし……と困っていたところにイケメンな神様が舞い降りたと言うわけだ。ありがたや。 手当てにおいては私含めて今後のためにもそれ相応の知識を身に付けてもらおうと思う。
「痛かったら言ってください」
「心配は無用ですもう既に痛いですから」
私の言葉に苦笑するいち兄。するといきなり手入れ部屋の扉が開いた。
「大将、痛みを抑える薬持ってきたぜ」
「ありがとう申し訳ない兄貴」
「兄貴?……ほら、飲めるか?」
「うん、多分。苦そう。」
「主、片手で飲むの大変なら俺が飲ませてあげよっか」
「1人で飲めます大丈夫です。」
ちぇーと言う加州くんをよそに、左手で頑張って飲む。あ、因みに言うの忘れてたけど斬られたほうは右。しっかり利き腕だ。だから手当てが出来なかった。まあ傷口見たくなかったってのも多少あるけど。 早く治ってくれるとありがたいとしみじみ思いながら残りのお水を飲み干していれば、ふと「ありがとな、大将」と薬研くんにお礼を言われ、首を傾げる。 私、何か薬研くんにお礼言われるようなことしただろうか。
「あの時、ああ言ってくれて。スッキリした」
「あーそのことか。いいよ、私が思ってたこと言っただけだし。」
それより手当てが終わり次第、今剣くんの手入れしてあげなきゃ……。そう思い、ぼーっと手入れの順を考えていると、あっという間に手当てが終わった。 綺麗に巻かれた包帯を見て、感嘆の声を漏らす。さすがである。
「ありがとうございました、いち兄さん」
「いち兄さん……?」
「あ。えっと……すみません。薬研くんの言い方がうつっちゃって」
おいおい俺のせいか、と苦笑する薬研くんに「ごめんね兄貴」と笑う。で、えっと……一期さんだっけ?一振さん? どう呼べばいいかな、と悩んでいれば「お好きに呼んで構いませんよ」と笑顔が返ってきた。
「じゃあいち兄で」
「はは、可愛らしい妹が増えましたな」
おおお。イケメンな反応だ。 もう一度手当てについてのお礼を述べて、みんなの元に向かう。お待たせ、と言いながら広間へ行けば、今剣くんと小夜ちゃんと蛍が突進して来た。 受け止めきれずに後ろへ倒れそうになるが、後ろを歩いていた加州くんがストッパーとして受け止めてくれたため無事とどまることができた。加州くんナイス。君が支えてくれたお陰で転ばなくて済んだ。
「……どしたのみんな」
「どうしたのじゃないよ、俺たちがどんだけ心配したと思ってんのさっ」
「あるじさま……おけがさせて、ごめんなさい」
「何で今剣くんが謝るの?無事で何よりだよ。折れなくてよかった」
泣きそうになる今剣くんの頭を優しく撫でる。自分が折れるかもしれなかったのに、私のこと心配してくれて、謝ってくれるんだ……。こんな可愛い子が折れてしまうなんて私は嫌だな。絶対に耐えられない。 もしまたこんなことがあったとして、それで助かるなら私はいくらでも平気で腕を差し出すよ。まぁ、もうこんなことはさせないけどね。
「みんなボロボロじゃないか〜。お手入れしようね。……香水さんは手入れしてあげないの?」
「言われなくてもやったわよ」
「……じゃあ何で鶴丸さんと骨喰くんと堀川くんは傷ついたままなの?」
「負けた刀は罰として帰ってから手入れなのぉ。これがウチのルール。口出ししないで」
「……そう、」
今回の演練はみんな掠り傷だったから良かったものの、軽傷とか中傷でもルールだからってそんなこと普通にしてしまうのだろうか。……私はこんな審神者にはなりたくない。 私の手当てで結構時間くっちゃったし、今剣くんは重傷だから時間かかりそうだし……今日は手伝い札を使わせてもらおう。因みに蛍とおじいちゃんと加州くんは無傷らしい。加州くんって安定くんとしてなかったっけ。向こうも無傷っぽかったし、両者一歩も譲らず? やっぱり持ち主が一緒だと癖とか戦術とかも似たりするのだろうか、なんて考えながら今剣くんを手入れ部屋へ連れて来てさっそく準備を始めた。手伝い札をセットすれば、あっという間に待ち時間が0へと終了し、今剣くんの傷口も徐々に塞がっていった。 手入れが済むと、お昼ご飯を作りに台所へ。こちらが招いてるのだから、あちらの分も作るのは当然のこと。客人として最低限のおもてなしはしなければならないし、そこを嫌な相手だからと怠るつもりはない。向こうの本丸へ赴いたとして、ご飯に毒盛られる心配しなくていいだけマシだと思っておこう。 それにしても今日はいつもの倍作らなきゃいけないのね……。包丁握れたのはいいけど動かす度に痛みが走る。そりゃそうだ、肉切れてるんだもんね。
「うわ、どうしよ」
「腕……大丈夫かい?」
完全に意識が腕と料理にいっていたせいで、全然気配に気が付かなかった。振り向くとそこには燭台切さんが立っていて、恐る恐ると声をかけてきた。黄金色の瞳は私の腕へと視線を向けている。 大丈夫、心配してくれてありがとう。純粋にそう思ったことを言えば、燭台切さんは眉間に皺を寄せた。
「僕のせいでこんなことになったのに、なぜ君が礼を言うんだい?本来なら僕が謝らなくちゃいけないのにさ」
「私が急に入ったからこうなった訳であって別にアナタのせいではないと思うけど……。……逆に咄嗟に軌道を変えてくれて助かったよ。最悪死んじゃうとこだった」
燭台切さんは訳の分からないような顔をする。こんな言葉じゃ納得いかないのだろうか。 予想と反して自分を責めないから、ちょっと混乱してるんだろう。
「それより燭台切さん、暇なら料理作るの手伝ってもらってもいいですか?……ほら、それでお互い様ってことにしようじゃない?」
正直どっちが悪いとか悪くないとか面倒臭いんですね。言うだけ時間の無駄だし、ならもうどっちでもいいじゃん。どっちも悪いってことにすればいいじゃん。はい、解決。 燭台切さんは困ったような顔をしてから、分かったよ……と頷いて、隣に並んだのだった。
「うわ、手際いいねー」
「ウチでは僕が毎日作ってるからね。」
「へぇ〜〜!」
「こっちでは、えっと……君が作ってるのかい?」
「和音でいいよ。基本的には私が3食作ってて、たまに加州くんたちが手伝ってくれるかな。みんなお手伝いしてくれるいい子たちだからね〜」
2人で料理を作っている間に、すっかり仲良くなってしまった。仲良くなったと思ってるのは私だけかも知れないけど。ささっと手を洗った後、冷蔵庫の食材を見て献立まで一緒に考えてくれた燭台切さん。野菜を切るのも私より手際よくて感心したのはつい数十分前の出来事。何年もご飯作ってきている私より上手って、嫉妬しちゃうわ。 料理が出来ると、食卓に持っていって並べる。そして全員が席に着き、やっとお昼となった。
「やっぱり光忠の作ったものは美味しいわぁ」
あのなぁ……私も一緒に作ってたの見てないの?ていうかウチのキッチンなの。燭台切さんだけで作るわけないじゃん節穴なの?終始頭に思い浮かぶのはそんな批判的な意見ばかり。まあ思うだけタダだよなと言う結論に至って、黙ってご飯の咀嚼を続ける。
「やー主の料理っていつも美味しいよね。いいお嫁さんになれるよ」
わあ加州くん!……対抗してるの丸分かりだよ。でもありがとう嬉しい。だけどね、お嫁さん強調したら香水さんが…ほらやっぱむっとしてる。ホントよく煽るよね加州くん。 お昼食べてるだけなのになぜこんな変な空気になるんだ。あーもうこの微妙な空気嫌い!誰かどうにかしてほしい。 |