▼演練編 14〜27▼ 

 15、抑えられない怒り

演練が始まった。遠戦はこちらが有利だった。投石兵やら弓兵やらの金の刀装ばっかり作れたし、防御用に盾兵の特上だってある。
しかし当然練度───いわゆるレベルは向こうが上だ。最初は順調にいっていたのだが、少し押され気味になってしまったかもしれない。


「はっ!」


でも、取り敢えずおじいちゃんがヤバい。今、うちの部隊の中で1番敵部隊を押しているのはおじいちゃんなんじゃないだろうか。彼の相手をしているのは鶴丸さん。鶴丸さんも相当強そうだが、更に上を行くのかな……戦術なんて分からないからうまく説明なんてできそうにないが、取り敢えず強い。半端ない。凄い。
蛍も自分より長い刀を華麗に扱っている。凄いを通り越してもはや圧巻だ。さすが付喪神としか言いようがない。
加州くんも普段の様子とは全然違っていて、おじいちゃんとの手合わせで一度見たことあるが、やっぱり何度見てもちょっと怖い。


「オラオラオラーっ!」

「首落ちて死ね!」


しかしその怖さの更に上を行く者が現れた。先ほどから狂気的な笑みを浮かべえげつない数々の言葉を叫ぶ安定くん。こんな子だったっけ……なんて言いかけて、つい言葉を飲み込む。まだ彼のことをよく思い出せてもいないのに、少ししか見ていない夢やフラッシュバックで勝手にイメージを決めつけていたのかもしれない。いやしかし、あの外見といい優しそうな雰囲気は一体どこへいったんだろうという思いもまた事実。あれ……私の見たフラッシュバックではあんなに可愛かったのにな……。と言うか沖田総司の刀、もしかして刀握ったら豹変するタイプ?


「……無事に演練が終わってくれるとありがたいけど」


そう思い、先ほどから1人ヒヤヒヤしながら見ているわけだが。
蛍の攻撃範囲が広い分、ギリギリ私たちの部隊が押している。このままの調子でいけたらこちらが勝てるかもしれない!そう思ったとき。


「ちょっと何やってんのぉ!負けたら承知しないから!負けた奴はいらない、刀解するわよ!」

「!?……は、何それ」


香水さんの一言に、一瞬その場が静まりかえった。
かと思えば、急に相手側が持ち直す。
これはもはや脅しではないか。


「うわぁっ」


燭台切さんの一振りで今剣くんが受け止められずに弾き飛ばされてしまった。
今剣くんは既に重傷。誰がどう見たってあちらが勝ったも同然だ。次の一撃を食らってしまえば……その後のことが簡単に想像出来てしまう。
今剣くんはゆっくり起き上がるが、既に立てない状況。他のみんなは相手と戦っていて、それどころではない。燭台切さんが刀を振り上げる。
どうしよう、と考えるよりも先に私は体が動いていた。


「!?なっ、大将!?」

「っやめて!」

「……!」

「───うっ……」


今剣くんを抱きしめると共に腕に鋭い衝撃が走った。
燭台切さんは私が入ったことに驚きつつも、刀を引いて軌道を変えてくれたようだ。大丈夫、腕が切断されたわけではないのだ。それに背中を斬られるよりは遥かにマシだ。


「!!?」

「主っ!!?」

「っあ〜〜うわ……ぐろ……」


みんなが戦うのを中断して駆け寄ってくる。今剣くんを見れば目に涙を浮かべていた。さっきのがよっぽど怖かったのだろう。


「……よしよし、大丈夫?」

「あ……あるじ、さま……」

「怖かったね。もう大丈夫だよ。」


そう言いながら頭を撫でてやると、ぎゅっと抱きついてきた。
っいててて……背中ではないだけマシだとは言った。言いましたとも。でも痛みがあることには変わりはないわけで。
尋常ではない痛みに涙が出てきた。地面に自分の赤黒い何かがポタポタと垂れて染みをつくられていくのを見て、傷口だけは絶対見たくないやと直感してしまう。
堀川と名乗っていた刀剣男士が「だ、大丈夫なんですか?」と心配そうにこちらを見てくる。大丈夫……に見えますか?多分大丈夫ではないです。


「コイツは驚いたぜ。斬られるの分かってて急に入ってくるなんてな……」

「……俺たちの主は刀一つひとつを大切に思ってくれる、こういう人なんです。今回は流石にやりすぎですけど」


ずおくん……一言余計だ。上げて落とすのやめてくれ。私の心は繊細なガラスで出来てるんだからね。些細なことでブロークンハートするよ。


「くすっ、……何それぇ。刀は刀でしょ〜?道具一つひとつを思うなんて、馬鹿みたいなんだけどぉ」


その言葉を聞いた途端、私は頭に血が上っていくのが自分でも分かった。
早く手当てしよう主!と言って私に触れる加州くんの手を優しく握る。ごめんね、今は手当てどころじゃないわ。腹立った。


「……ははっ、」

「何が可笑しいの?」

「アナタの考え方が可笑しくて笑ったのよ。」


そう言って睨めば、はぁ?ふざけないでよ!と怒鳴り散らしてくる彼女。
正直、怒りを通り越して呆れてくる。


「……ふざけるなはこっちのセリフだ。刀はただの道具?道具を思うなんて馬鹿みたい?……笑わせないでくれる?この子たちにだってきちんと心や意思がある!人と同じ気持ちを持ってるの、そんな簡単なこと見て分からない?……刀たちがどんな思いでアナタに仕えてると思ってるの。」


言葉がスラスラと出てくる。酷い、許せない、そんな気持ちでいっぱいだった。


「薬研くんだってアナタが鍛刀したんでしょ?自分好みの刀じゃないからってだけで使われなくなった子たちがどれだけ辛い思いしてるか分かってる?逃げ出したのはアナタに非があったからよ。なぜ生み出したアナタが大切にしてあげないの?今アナタに仕えてるこの刀たちだってそう。1人ひとりの気持ちを考えてあげたことある?……私が見てる限り、アナタが好きだから仕えてるとは思えない。アナタに消されたくないから仕方なく仕えてる、そう思うよ。」


どうやら香水さんの刀たちは図星だったようだ。みんな下を向いていた。私だってそう、香水さんみたいな主は仕えたいとは思えない。
私の言葉でこの子が考え方を変えてくれるとは到底思えないけれど、思ったことが全て言えてスッキリした。


「何よ、別に自分の刀をどう扱おうが私の勝手じゃない!」

「……そう。なら好きにすれば」


怒りが募った子たちに裏切られても知らないけどね。
私たちは所詮審神者。主だからって従者だった者に殺されないとは限らない。反逆、反乱、謀反という言葉だってあるくらいなんだし。


「主よ、立てるか?」

「あ、おじいちゃん……うん、立てる立て、るぅ!!?」


そう言って立とうとしたが、立つ前に体が浮いた。あれれー?おじいちゃんの顔が近くにあるぞ?


「はっはっは!こっちの方が楽だろう」

「え!ちょっと恥ずかしい降ろして!私、足は怪我してないから!」

「ほう……俺相手に恥ずかしい、か。よきかな、よきかな」

「ちょっと全然良くないんだけど!俺も主お姫様だっこしたい!」

「俺もしたいですお姫様だっこ!」

「……君ら怪我してんのに元気だね。お姫様だっこはしなくていいから手入れ部屋おいで、手入れしてあげる」

「主……馬鹿なの?俺ら手入れする前に自分の手当てしなよね。片腕から大量出血してる主に手入れされるとか見たことないんだけど。てかどう考えても普通じゃない」


加州くんの言葉にはいはいと返す。心配しすぎだってば。
戻ろうとするおじいちゃんにちょっと止まって、と肩を叩く。何か本来介護しなきゃいけない側が介護される立場になっちゃってるんですけど……。
おじいちゃんは「あいわかった」と言うと、止まってくれて、しかも振り返ってくれた。流石分かっていらっしゃる。私は香水さんの方を見た。


「演練、中断しちゃってごめんね。香水さんたちも中にどうぞ。」


そう言うと、香水さんはハァ?みたいな顔をした。ごめんね、ですよねって感じだわ。
よいか?と聞くおじいちゃんにお願いしますと頷くと、手入れ部屋に直行する。もう痛いの段々慣れてきた。消毒は遠慮しておきたいです……ダメですよね知ってます。


「何よアイツ……ムカつく……こうなったら仕返ししないと気が済まないわ」


香水さんがその場でそう呟いたことなんて、もちろん私たちには知るはずもない。(だがしかし予想はしていた。)


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