▼演練編 14〜27▼ 

 14、刀の扱い方

「さて、今日は演練するよ!」


朝ごはんはご飯とお味噌汁に卵焼き、それから漬物という質素なものだった。ご飯や味噌汁をおかわりしているところを見るとやっぱり男の子には量が少ないのだろう。近いうちに献立も考え直さなければいけないななんて思いながら、最後にお茶を飲んだところで、今日のスケジュールについての話を切り出した。
食べていた彼らは箸を休めてこちらに視線を向けてくれる。


「あるじさま、もうだいじょうぶなんですか?」

「へ?何が?」

「昨日、様子が可笑しかったでしょっ」


今剣の質問に一瞬何のことだっけ、と首を傾げそうになったが蛍丸のことで昨日の出来事を思い出す。
彼らの様子を伺えば、心配していましたと言わんばかりの表情でこちらを見ていた。みんな気遣ってくれてたのか。心優しい刀たちで何より!嬉しくて更に元気になっちゃったよ。


「大丈夫!それでみんな、演練については異論はない?」

「俺たちは大丈夫だ、問題はないぞ」

「おじいちゃんが大丈夫なら本当に問題はなさそうかな。……実は既に手紙を交換済みなの。みんなに言うタイミングを見誤っちゃって……急な報告でごめんね。10時にこちらへ来てくれるみたい。で、スケジュール的に日帰りは難しいって言われちゃったから泊まってもらう予定。だからそれまでには支度しておいてね」


はーい、と言いながら再び朝食を食べ出すみんな。食欲旺盛だね男たちよ。いいことだ。作り甲斐がある。


「所で相手の審神者はどんな人なんですか?」


ずおくんの言葉に持っていた紙へ目を向ける。


「んー……手紙の字が丸文字だから多分今時な感じの女の子かなぁ。刀剣までは書いてないから分からないけど……あい?めぐみ?って女の子」


女の子の名前を出すと、箸がテーブルに落ちる音がした。その音の方へみんなが一斉に向く。


「薬研くん?」

「……大将。そいつ、香水愛って名前か?」

「そう……だね、うん。……もしかして?」


薬研くんは小さく頷いた。
まさかこんな機会があるとは思わなかった。この審神者には最善の注意を払わなければ。


「(……ほぅ、主の目付きが変わったな…)」

「……みんな、時間までは無駄な体力を使わずしっかり休むこと。いいね」


気を引き締めていかないと。




「薬研くん。今回の演練は待機しておいてもらえるかな」


10時前、そろそろ相手が見えてくる頃だろうか。
1番門が見えやすい空き部屋に座って待機しているみんなの所へ行き、薬研くんに話しかける。


「大将、俺は戦えるぜ?」

「……うん。でも相手が相手なだけにアナタは狙われやすいの。例えあっちの審神者がアナタを覚えてないくらい非道な人でも、向こうが持ってる刀剣全員がアナタを忘れたわけじゃない。……別に中で大人しく待ってろとは言わない。今回だけは私の隣にいてくれたら助かる」


薬研くんは私の言葉を聞いてすんなり納得してくれた。


「どうやらお出ましみたいでーす」


蛍の言葉の直後、こんにちは〜っ!と言うトーンの高い声が聞こえてきた。あ、もう何となく察した。この性格は……アレだな。学校のクラスに1人いるかいないかのような感じの子だ。
私ははーいと声をあげて部屋を出る。そこには私よりちょっと年下くらいの女の子が立っていた。撫子色の髪に藤紫色の瞳の、可愛らしい女の子だ。


「審神者の香水愛でーすっ!今日は宜しくお願いしますねぇ」


猫なで声で自己紹介する香水さん。正直可愛いのに勿体無い。


「……また会ったね、和音さん」

「!……安定くん」

「なぁに〜?知り合いなの安定ぁ」

「うん、ちょっとね。」

「和音……さん?って、え……?」

「うん、国広の思ってる通りの人であってるよ」


安定くんの隣にいる子も、私のことを知っているのだろうか。見たことあるような気がしなくもない。だが取り敢えず、その話は一旦置いておくとしよう。


「……香水さん。私は九重和音、よろしくね」


私がそう言うと、彼女はよろしくぅ〜と笑った。
みんな、と呼ぶとぞろぞろと中から出てくる。呼ばなくても普通に出て来てくれて良かったんだけど。


「えっ、これだけぇ?」

「まぁね、ちょっと色々あって……」


加州くんが作らせてくれないからね。
その分資材たまりまくりだから最近は全部刀装に時間を費やしている。お蔭様で金の刀装たくさん出来ちゃった。
そう思いながら加州くんをちらりと見ると、主が悪いんだからね……と未だ根に持ってるご様子。長すぎだろそろそろ忘れろよ……


「嫉妬でもしてるのぉ?キャーかわいーっ!」

「知ってるー。主以外に言われても嬉しくなーい」

「(喧嘩を売るようなこと言うな〜〜!)」

「加州清光、お前まだそんなこと言ってるんだ」

「安定には関係ないね。お前だって沖田沖田うるさい癖に」

「はぁ?沖田くんこそ関係ないだろ。何でそこで沖田くんの話が出るんだよ」


おいおい他の主さんを前に、そんな前の主についての喧嘩はやめてくれよ……。
私は別にいいけど、この子がこんな話に耐えられるとは思えないよ。


「加州くんストップ。そこまで。……取り敢えずお互い自己紹介しないかな。私、審神者になったばかりで知らない刀剣いるから、教えてくれたら嬉しい」


香水さんは私の出した提案にそうねぇ、と賛成してくれる。と言うことで言いだしっぺの私から。


「改めて私は審神者の和音です。よろしく」

「加州清光。」

「……僕は小夜左文字」

「鯰尾藤四郎と言います」

「ぼくは、今剣!」

「蛍丸でーす、っと!」

「三日月宗近だ。よろしく頼む」

「……俺っちは薬研藤四郎だ。」


私たちの自己紹介を終わらせると、香水さんはじっと薬研くんを見つめていた。


「ああ、どこかで見たことあると思ったら思い出したわぁ!私の所から逃げ出して、こんな所に来てたのねぇ、薬研」

「……へぇ、アンタは短刀なんか眼中に無かったくせに、俺を覚えていたとは意外だぜ。」

「ふん、可愛くない。私だって興味ないわよ。でも仕方ないじゃない?アナタに残ってる私の霊力で分かっちゃうんだからぁ。……まぁどーでもいいわ、私には強い刀たちがいるしー」


香水愛で〜す、よろしくっ!と言いながら自己紹介を始める向こうの審神者。薬研くんにあんな言い方するなんて……まぁ大体想定内だったけど、いただけないね。
そんなことを思いながら香水さんを見つめていると、突然後ろから「わっ!」と声が聞こえた。いきなり過ぎてビクッと反応してしまう。


「!?……え、なっ何?」


今心拍数すごく上がった気がする。驚きすぎて逆に声が出ず、素っ頓狂な反応をしてしまう。
振り返ってみれば全身真っ白な衣装に身を包んだ男の人が立っていた。その姿はとても儚げだ。


「どうだ、驚いたか?」

「え、うん?……え?」

「ははは!こりゃ大成功だな!久々に面白いものが見れた。……俺の名前は鶴丸国永だ、よろしく頼むぜ」


見た目とはまた随分かけ離れた性格をしていらっしゃる。驚いたか……って、古風な驚かせ方だね。それでもすごく驚いたけど。


「大和守安定。よろしく」

「僕は堀川国広です」

「一期一振と申します」

「……骨喰藤四郎だ」

「燭台切光忠だよ。よろしくね」


自己紹介が終わると共に、加州清光が刀の種類を教えてくれた。太刀が三振り、打刀が一振り、脇差が二振りという構成だ。中でも向こうはレアリティが高いと言われている刀剣が二振りいるらしい。
てか太刀にレア度とかあったんだ……じゃあおじいちゃんはレア度何なんだろう。
それに対してウチは太刀と大太刀、打刀、脇差が一振りずつ、短刀が振り。バランスはいい方だし、決してウチが弱いからと言うわけではないが、少し心配になってきた。大丈夫だろうか。


「……薬研くん大丈夫?」

「ああ、俺は大丈夫だ」

「藤四郎って名前の子、いるね。」

「それだけじゃねぇ、兄弟はもう1人いるぜ。」


そうだっけ、と思い再び相手の方を見てみると、骨喰くんと似たような服を着ている水色の髪の男の人が目に入った。


「まさかあの一期一振……さん?」

「ああ。いち兄は俺たち粟田口兄弟の一番上さ」


1番お兄さんか……。この場所に短刀たちが1人も見えないということは、本丸に残してきたままなのだろう。薬研くん曰く、粟田口は短刀の方が多いため、向こうにいる可能性は大いにある。
ただでさえあの子は刀の扱い方が酷いと聞いた。


「じゃあー、そろそろ始めな〜い?」


香水さんの声がする。いつまでもここでウダウダ考えてる訳にもいかないか。


「気を付けてね、みんな」

「よし、それじゃあ、始めますかねー!」


取り敢えず、まずは決着をつけてから。


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