▼想起編 77〜87▼ 

 87、生まれ変わって、もう一度。

「あ、そう言えば主さん。やっと清光くんと恋仲になれたんだよね。おめでとう」

「ぶっ…!お、おい国広……直球過ぎんだろ……」

「え?そうかなぁ?」


昨日の出来事だった筈なのに、それはいつの間にかみんなに広まっていた。どこから情報を入手したのか朝から乱ちゃんや鶴丸さんに茶化され、一期さんにやっとですかと呆れられつつお祝いのような言葉を言われ、挙句の果てには今現在、執務室で洗濯物を畳んでいる堀川くんとその横で寛いでいる兼さんにまで話題に出された。


『みんながいる前では、なるべくいつも通りに接してほしいの』


私は昨日の夜、その場で加州くんにそう頼んだ。理由はやはり、解決出来ないただ1つの問題……主と従者という関係があるから。
1人だけ特別視するのはやっぱりよくないと思う。一期さんが大丈夫だと言ってくれても、みんなが許してくれているとしても、個人的に許せなかったのだ。だからせめて、みんなの見ている前ではそう言うのを控えるべきだと感じた。その理由を全て加州くんに話せば、彼は「主らしいね、いいよ」と苦笑しながら二つ返事をしてくれた。


『その代わり、2人の時は何してもいいんだよね?いちゃいちゃできる…?』


何しても、って言い方含みがあって怖いんだけど……なんて思いながら「まぁ、そうだね…?」と頷いておいた。てゆーか、いちゃいちゃって可愛いな……。


「でも昨日の……?和音さんが幽霊でこの本丸に来てたってこと、今考えてもやっぱり不思議ですね」


堀川くんは洗濯物を畳んでいる手を一旦止めると、晴れた冬の空を仰いで、考えていたことをそのまま口に出すかのように呟いた。
彼と兼さんには昨日の出来事、それから前世の行っていた過去を全て話した。正直、真実を私の口から伝えるのは苦しかったけど、加州くんが隣でフォローをしてくれたから何とか伝えることが出来た。親身になって聞いてくれた上に優しく励ましてくれた2人には、感謝している。


「うん、私もびっくりした。2人とも会いたかったかも知れないけど……ごめんね、もういない」

「別に。清光や安定の方が言いたいことは沢山あったんだろうけど、それに比べたら俺らは和音と話すことなんて何もねぇよ。なぁ国広」

「ふふ、そうだね。それに安定くんだって主さんにいつも通りなんでしょ?再会した最初はそれこそ険悪なムードだったけど、今は主さんのこと本当に大切に思ってると思うよ」


加州くんが追いかけてきてくれたあの後、彼に手を引かれ戻ってくると、安定くんが待っていた。
やっと戻ってきた。遅すぎ。僕もう眠いんだけど。何て言いながら私の目の前に立った安定くん。顔を見るのはやっぱりちょっと怖くて、少し後ずさりしてしまったけれど、俯く私の頭の上に何かが乗っかる。言わずもがなそれは安定くんの手で、いつの間にか私は撫でられていた。


『おかえり、主』


てっきり何か言われるんだろうと覚悟していたのに、安定くんの口から一番最初に出たのはその言葉で拍子抜けした。思わず唖然としてしまう。
その反応が分かりやすかったのか、撫でていた手は私の頭から頬に移動していて、軽く抓られる。彼は少し不服そうな顔をしていた。


『顔に出すぎ。なに、罵って欲しかったの?……別にしないよそんなこと。だって主も和音さんも何も悪くないじゃん』

『安定くん……』

『そりゃ昔は恨んでた時もあったし、主を殺そうと思っちゃった時もあったけど……。理由を知ったらそんなこと出来ないよ。だから……そんなに気にしなくていいんだからね、主のばーか。』


ちょっと最後の言葉文脈的に必要あった?そして結局若干罵倒してるよ。……けど、安定くんの言葉で気が楽になったのも事実だ。


『ありがとう……』

『うん。……それで?清光とどこまでいったの?』

『は!? ちょ、安定何言って……!』

『僕が何のために今の今まで起きてたか知ってる?ヘタレなお前が気持ちを伝えられたかどうかを聞くためだけだからね?頼むからさっさと答えて僕を寝させて……って思ったけど何となく分かったしやっぱりいいや。取り敢えずおめでとうそしてお休み。』

『お、お前なぁ…!』


主は明日目が腫れないように気をつけないと、他のみんなから問い詰められるかもしれないよ。なんて欠伸混じりに言いながら安定くんは言いたいことだけ言うと、方向転換して部屋に戻って行く。通常運転すぎてつい笑いが漏れた。
そして彼の言葉のお蔭で胸につっかえていた物が完全に取れてなくなった。心が晴れた。


「それに清光くんも。本当に主さんのこと大好きなんだなって思ってたから、今すごく幸せそうで……何だか見てるこっちまでほっこりしちゃうよね。ね、兼さん」

「おー。……ま、アイツが和音のこと好きだってのは、ここに来た初日から気付いてたしな」

「お、おぉ……そうなんだ……?」


相変わらず天使の微笑みを向ける純粋な堀川くんと、私の反応を伺いながらニヤニヤと笑っている兼さん。
加州くんや安定くんだけじゃない。堀川くんや兼さんだってこうして真実知って尚、私を励ましてくれて、他愛のない会話をしてくれて、一緒にいてくれる。そんな彼らに私は感謝してもしきれない。


「主お待たせ!お茶淹れてきたから休憩しよ〜」

「僕もオヤツ食べに来た」

「噂をすれば何とやら、だな。清光、俺にも茶〜」

「はいはい持ってきてるって。でもダメ先に主に渡すんだから」


執務室に顔を覗かせた加州くんはお盆にいくつかのお茶とお茶請けの和菓子を乗せやってきた。後ろにはついさっき遠征から帰って来た安定くんの姿もある。先程まで加州くんもこの部屋にいたのだが、お茶を淹れてくると席を立っていたのだ。そしてお茶と共にどこかで出会ったのか安定くんを連れてきた。
はい主、とお茶をテーブルにそっと置いてくれた彼にありがとうとお礼を言えば、加州くんは「いいえ」と満足そうに笑った。


「はい兼定。国広もここ置いとくよ」

「ありがとう清光くん」


資料を片付ける私の隣に腰を下ろした加州くんと、早々に兼さんの隣に座ってオヤツを食べ始めていた安定くん。畳み終わった洗濯を隅に重ね、テーブルの近くまで来て座り直した堀川くん。寒くて乾燥している冬にはとても丁度いい、熱くて美味しいお茶を5人で啜った。
夢から始まった私の第二の人生。加州くんと出会い、安定くんと再会し、堀川くんや兼さんとも会う事が出来た。おかしな話だけど、沖田総司にも、前世の自分にだって会った。
色んな出会いがあって、色んな別れがあって、そしてそれを乗り越えて強くなる。進んでいくんだ。
時に喜び、時に悩み、苦しみ、そして悲しんだ。でも全ては私が審神者になったからで……。きっと審神者になることを選んでいなかったら今頃私は周りに合わせて、適当に笑顔を繕って、何てことのない、つまらない日々をそれとなく過ごしていたんだろうな、なんて考える。うん、審神者になれたからこんなにも濃い人生を送れているのだ。そしてこれからも、きっと困難のない人生はないだろう。
そう。例えるならば、何も無かったただの砂利道が、彼らとの出会いでキラキラと光り輝く綺麗な虹の架け橋へと変わった、と言うくらいには。大袈裟すぎるかもしれないけど、誰かを好きになること、愛することを知った。
だからここまで変わることが出来た私は、自信を待って言いたい。この本丸が、一緒にいてくれる本丸のみんなが、大好きだ。


「ねぇ主、」

「ん?」

「これからも、可愛くしてるからたくさん愛してね?」

「……うん、もちろん」


どうして私が沖田総司の恋人の生まれ変わりなんだろうかと思ったことも沢山ある。恨んでしまったこともある。
うん、でも一つだけ言うならば。


『───生まれ変わって、もう一度……この子たちと出会ってくれてありがとう』


生まれ変わってもう一度彼らを愛することが出来るから、こんな人生も悪くないかな……なんて、ね。







生まれ変わって、もう一度。了


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