知ってしまった事実
「つっかれたー」
「あ、狩屋お疲れ。」
部活が終わってロッカーまで行くと霧野先輩が着替えながら声をかけてきた。俺はお疲れ様ですと答えて着替え始める。
因みに部室の更衣室には俺と霧野先輩だけ。他の先輩はもう既に着替え終わっている。…何で俺が遅いのかって?天馬君と信助君に何故か追いかけられていたからだ。だからずっと逃げ回ってくたくただよ畜生。
あ、霧野先輩については俺も知らない。
「ほら、早く着替えろよ〜鍵閉められないだろー」
「うっさいな!今、着替えてるじゃないっスか!!」
それに外にはまだ天馬君と信助君だっているよ。
先に着替え終えた霧野先輩は、鍵をぐるぐる回しながらあくびをしていた。あああくっそ腹立つ。
「…てゆーか何で鍵?その仕事はキャプテンである神童先輩がすることなんじゃ…」
だって今日、神童先輩いたけど。俺がそう聞くと一度鍵を回すのを止めて苦笑した。
「神童なら先に出てったよ。武藤待たせてるからってな」
「じゃぁ、もう帰ったってことですか!?」
「あーうん。まぁ、お前が知らないだけでいつもの事だけどな」
苦笑したままそう言うと、また鍵を回し始めた。
「…先輩も暇人ですね」
「おいお前聞えたぞこら。」
あ、聞えちゃってましたか〜あはは……はぁー、羨ましすぎだろ神童先輩…
「……、」
「…なんスか。じと目やめてくださいよ」
「お前さあ…」
「…何です?」
霧野先輩の言葉に俺は聞き返すと、先輩は何か言いたげな顔をして黙った。
沈黙。おい!何だよこの沈黙!!
「何っスか!!!」
ほんっと、コイツ相手してるとイライラするんだけど。
「言いたい事あるならハッキリ言ってください!」
「…いや、別に大したことじゃないんだけど…お前って武藤のこと好き?」
……ハッキリ言えなんて言うんじゃなかった!!
「…何でですか?」
「何となく…。昨日のケーキ食いに行った時の態度からして…?」
何故疑問系なんだよ。
「俺が何で武藤先輩を好きになんなくちゃいけないんですか。神童先輩と付き合ってる人を…」
「そう、だよな…」
「そうですよー。…ん、メール来てる」
俺は笑って誤魔化しながら着替えを続けていると、ふいにロッカーに置いていたケータイがちかちかと光っているのに気付く。ケータイを開いてメールボックスを見てみるとヒロトさんからだった。
From ヒロトさん
───────────────
卵がきれちゃった…ごめんけど帰るついでに買ってきて!お願い!!(・ω・`人)
……卵…つか絵文字可愛いなおい。俺は『分かりました』と一言だけ打って送信した。
「…どうしたんだ?」
「あー…お使い頼まれただけです。卵買って来いって…」
霧野先輩は卵…と呟いて苦笑した。
「んじゃ、俺はお使い頼まれてて霧野先輩みたいに暇じゃないんでお先に失礼しますよ」
「お前な…」
「あ、そうそう。天馬君と信助君まだ着替えてないのでまだ待つ時間かかると思いますけど…あぁ、暇人だからいいのか別に」
「さっきから一言余計だっつーの。…なら帰る前に早く着替えろって俺が言ってたーって言っといてくれよ」
先輩の言葉に俺は、嫌ですと即答して部室の更衣室から出た。また追いかけられそうな予感がして仕方がないからなー。
俺はそう思いながらいつもの道とは違う、反対の道を歩いた。
「…アイツも対外“嘘”つくの下手だな…」
部室の更衣室に居座っている暇人でぼっちな女顔の霧野先輩が、俺の出て行った扉の方を見つめ1人苦笑しながら呟いたのは誰も知るはずがない。
▲ ▼ ▲
「こうやって2人で帰るのは久しぶりのような気がするな…」
「何で?2日しか経ってないよ?」
私はクスクスと“作った”笑みを浮かべた。私たちはオレンジ色に照らされている道を並んで歩く。長くて大きい並んだ2つの影が目の前に映し出されていた。
今は“公園”に向かっている。ほんの少しの不安と恐怖を覚えているいつもの…あの場所に。
「でも、俺はたった2日だけど…一緒に帰れなくて寂しかった」
「そうだね…私も、かな…」
そう言うと、一緒だなと言いながら私の手を握り、拓人は照れくさそうに微笑んだ。とうとう“公園”まで着いてしまう。
「(…やっと、頬の湿布取れたのに…、大丈夫、かな…)」
昔…って言ってもこの前、何でいつも公園に行くの?って聞いたら、少しでも親といたくないからって拓人に言われた。やっぱりそれだけ家で酷い事、されてるのかな…?
そう考えてるとふいに抱きしめられた。
「…どうかした?紗雪」
「ううん、何でもないよ…?」
「…そう…、」
拓人の抱きしめる手に力が入ったのに気が付く。やっぱり今日も…。
…ああ、我慢、出来るかな。
▲ ▼ ▲
「…暗い。」
スーパーを出ると既に外は暗くなっていた。レジ袋を提げながら、暗く、静かな道を歩く。
「そう言えばこの辺通るの久しぶりだな…ってか早く帰んなきゃ…あ、近道」
周りをきょろきょろしながら歩いて見ていると…って俺、完全に不審者っぽいじゃん。
細い道を通る。多分、ここが近道だった…気がする。暗いからホントにこの道であってんのか分かんねぇけど…多分あってるだろ。いや、当たってるって信じてるよ俺は!ハズしてたら…まぁ、なんとかなるだろ!!
細い道を抜けて歩いていると公園が見えてくる。へぇ…この道に公園なんてあったんだ……はは、つまり道違ったんだな俺。
その街灯1つだけで照らされている薄暗い公園の先にうっすらと何かが見えた。目を凝らすと2つ、人影が見える。
こんな暗いところで何やってるんだろうなぁ。面白そうだから覗いてみよ。俺は面白半分でその人達の声が届きそうな所まで近寄った。勿論、バレないようにこっそり木の後ろに隠れて。
俺はこの時、思ってもいなかった。衝撃的な事実を知る事になるなんて。
「ねぇ、もう暗いしそろそろ帰ろうよ…」
「(…は!? この声、武藤先輩…!?)」
そう思ったのも束の間。
───ドカッ
「うっ…」
───バシッ
「拓人ごめ…っ」
「(…っ!!?)」
俺はつい出そうになった声を両手で抑えて止めた。
どういうことだよ…!?俺の追いつかない頭をしっかり働かせる。……神童先輩が、武藤先輩に暴力を?思考がやっとここまで追いつくとあることを思い出した。
─────先輩の頬のケガ…。
『───これね…朝ご飯のアジの開きがいきなり噛み付いてきてさー』
だからあんな聞かれたくなさそうな顔してたり、神童先輩のことを聞くと笑ってるけど、どこかぎこちなかったのは…。…このことを隠す為?もしそうなら…全て、納得がいく。
気付いたら既に先輩たちはいなくなっていた。武藤先輩、ケガとかしてないかな。無事なのかな。先輩が心配でたまらなくなる。俺は家に帰ってからもその事で頭がいっぱいだった。
武藤先輩。俺に嘘付いたのって、これが理由だったんですね…。
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