コズミックガール | ナノ

01

 季節はもうすぐ冬だ。だからあっという間に陽が傾いてしまう。

 土方くんはわたしを家まで送ると言った。こうして彼の隣を歩くのは何度めになるだろう。
 少し暗がりの中で見上げれば、ほんの少し前までは遠巻きにしか見たことのなかったその整った顔がこちらを向く。「なんだよ」と言いつつも目を細めて目尻を下げて、普段の仏頂面からは想像できないような綺麗な笑みを浮かべてくれる。

 ゲームだとほら、その時は幸せだけど電源を切ってふと我に返ったら現実が押し寄せてそれに叩きつけられたような気持ちになる。
 だけど今はこれが現実。何度まばたきしても目をこすっても消えない、わたしのリアル。

「…なんか、変な感じ」

 うまく言い表せないけど、ふわふわしてて胸の奥が痛いのに心地いい。なんとも形容しがたいその気持ちをこの人といるとずっと抱えてる。嫌ではない。どことなく歯痒いけど。

「変?」
「う、うん…こういう風になるとは思わなくて…」
「あァ…ま、俺もだな」

 その言葉に少し肩が震えて、身構えてしまう。どういうことなのか、土方くんの言葉の続きを待つも彼は少し悩んでいるように見えた。

「周りが女だなんだ言ってるのを聞いてもなんとも思わなかったし別にそれでいいと思ってた」
「そうなの?」
「めんどくせえし…」

 眉間に皺を刻んで、心の底からそう思ってるようなその物言いにすぐには返す言葉が見つからない。

 確かに、自分を土方くんの立場に置き換えると少し気持ちがわかるような気がする。
 ファンクラブだ親衛隊だといろんな女の子が自分を持ち上げて、とりとめのない言動ひとつひとつが尾ひれをつけて噂として流れていく。
 遠巻きに見てる分にはすごいなあ、と思うだけだったが、その本人と関わるとなると想像以上に大変なものだった。

「もし彼女とかできても迷惑かけんじゃねえかとも思ったし、今どうしてもほしいってわけじゃねえ、それならもっと一緒にいたいような奴が現れてからでもってな」
「苦労されてるんですねえ…」
「…もっと他に思うことねえのかよ」
「え? 他に?」
「だから俺は、…あーもういい、テンションに任せて慣れねえこと言うもんじゃねえな」

 ガシガシと髪をかき上げてふいっとそっぽを向いた土方くんに、頭の中に疑問符が浮かぶ。

 慣れないこと? どういうことだろう…。

 彼の言葉を心の中で繰り返す。ーーー周りの人が女の人の話をなんとも思わなかった。もし彼女ができたら迷惑をかけると思った。だからもっと一緒にいたい人ができてからでもだいじょう、ぶ…。

「…えっ!?」
「んだよ」
「わ、わたし、彼女!?」
「…何を今さら」
「えっ彼女いらないんじゃなかったの!?」
「だっ、だから…! 人の話を聞け! ワンテンポ遅ェ!」
「ご、ごめんなさい…」

 顔に熱が集まるのを感じる。それはつまり、わたしと一緒にいたいと思ってくれたってことで、彼女なんて作る気もなかったこの人がわたしを選んでくれたってことだ。
 付き合うというのはそういうことだと頭でわかっていたはずだった。だけど自信がなくて何度も悩んで、土方くんの口からちゃんと言葉をもらってもどこか絵空事で、ふわふわと浮足立つ自分の2本の足が今ようやく地面に着いた気がした。

「うっ…」
「今度はなんだよ」
「うれしいっ…」

 心臓がきゅっと狭くなる。胸がいっぱいになるっていうのは胸焼けしてるときにちょっと似てるかもしれない、ということに気づいた。
 口角が自然と上がるのを隠すように顔を両手で覆い、込み上げる気持ちを抑えようと必死になる。

 やばい。その一言に尽きた。

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